第14話 スキンシップ

「みつきさんの人生って、つまらないっていう割には数奇な人生ですよね。」

「うーん…、最初だけね。」


暖かい日とはいえ、冬。さすがに寒くなってきたので、二人は洗濯物を宙に泳がせながら室内に戻る。


「俄然、興味深いです。」


後ろ手に窓サッシを閉めながら、星がみつきを見る。その遠慮のなさが逆に心地よく感じている辺り、もう手遅れな気がした。星の存在が、今のみつきに死の意味を与えてくれる希望だ。

星の視線を感じながら、みつきはこたつに当たるべくクッションにもたれかかる。


「温度とかは?触覚ってあるんですか。」


その隣に座って、星もこたつに足を伸ばした。


「多少鈍いけど、温度も触覚もあるよ。痛みっていう強い刺激の電気信号が感知できないだけ。」


ふむ、と頷き、星は考え込む。


「…触れられて、気持ちいいとかは?そうですねえ、性行為とかは普通にできるんです?」

「本当に、遠慮がねえな。」


直接的な言葉にみつきは驚く。星の関心は、下心というよりただの好奇心だと理解できるから、怒らずにいられた。


「みつきさんのこと、知りたいんです。」

「…。」


星の真っ直ぐすぎる眼差しが眩しかった。黒々とした虹彩に灯る光の質量が大きくて、ブラックホールのように吸い込まれそうだった。


「…どうだろ?私、そういう経験がないから。」

「そうなんですか。ちょっと、試してみても?」

「え?」


あまりにも気軽に提案するものだから、一瞬、みつきは星の言ったことの意味を知るのが遅れた。星はその遅れを気にせずに、みつきの手の自らの指を絡め始める。


「…、」


みつきが小さく息を飲むのを無視して、星は彼女に触れた。

優しくみつき手の甲を撫でると、指と指の間に自らの指を滑り込ませる。強弱をつけてきゅっきゅっと握り、時々、小さな水かきに爪を立てた。そして親指の腹で、みつきの小指の爪をなぞる。


「気持ちいいですか?」

「よくわかんない。」


背筋が粟立つような気配がするけれど、それが快感なのかを知るには経験値が圧倒的に不足していた。


「そっか。」


星のスキンシップはまだ続いた。

みつきの指先にキスをした後、今度は柔らかい力で肩を押された。


「!」


押し倒された衝撃でみつきが後頭部を打たないように、床との間に星は自らの手を添える。無事に着地すると、星はみつきの上半身にもたれかかった。そもそも星は小柄な体躯をしているので、息苦しくはない。

星は手のひらをみつきの胸、もとい心臓の上に押し当てる。呼吸で浮き沈みする肺の動きを確認するようだった。今まで他人にここまであからさまに触れられたことがなく、みつきの心臓は大きく脈打つ。


「…ドキドキしていますね。」


星がふふ、と笑う。そしてその笑いを連れて、みつきの首と鎖骨の間に顔を埋めた。深呼吸を繰り返す星の呼気が鍛えようがない首の柔肌に当たって、くすぐったい。

唇の先だけでみつきの桃のような産毛の生えた耳や、首筋に触れる。そして鎖骨に戻ると、じゅっとその肌を強く吸った。その瞬間、電気が走ったかのようにみつきの脳がピリピリした。

震えたみつきの体を見て、星は顔を上げる。至近距離で二人の視線がぶつかる。みつきはキスをされると思って、目蓋を強く閉じて身構える。

数秒間何もなくて、みつきが恐る恐る目を開けると星がクスっと笑って、その鼻先にキスをした。


「可愛い女の子の唇を奪うほど、人でなしじゃないですよ。」


そう言って、星は身を引いた。


「星って、本当に質が悪い…。」


みつきが苦々しく呟きながら起き上がるのを、星は手伝う。


「それで、どうでした?」


気持ちよかったですか、と星は問う。


「…わかんないよ。」


この星に対する気持ちや、むず痒い感覚に対しての返事だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る