第11話 台風に巻き込まれる

ほろ酔い気味で眠りについたコランだったが、深夜になってユニーとピーチがテレパシーで警告して来た。

『御主人、雨風が強くなってきたよ!』

『普通じゃない強さだよ』


コランは急いで甲板に出た。確かに尋常でない荒れた風雨である。

コランは周囲を探索する。すると途轍もない巨大な魔力がこの台風を巻き起こしていると感じられた。

ズドドーーン‼と強烈な光を伴って、雷が海上に落ちた。遠く離れたコランにもビリビリと静電気が襲った。

(これは自然現象とは違う現象だな。あの魔力の持ち主が引き起こしているのか?)

再び雷光が周囲を照らした。コランは見た。巨大な蛇が空を飛んでいるのを。

(青い体色、獰猛な顔しかも鹿のような2本の角!そして4本の足!あれは古代の文書に書いてあった龍と言う聖獣か?)

その龍が大きく口を開けてブレスを吐いた。風が吹いた。渦巻く風が海水を巻き込んで上空に渦を巻いて巻き上がる。竜巻だ!いやこの場合は龍巻たつまきと言った方が良いだろう。

その龍巻が海上を滑るようにしてコランの船に迫ってくる。


『ミチル起きなさいじいじのところへおいで!』

『う、うん』


ミチルが寝ぼけ眼で甲板に上がってきた。コランはミチルをがっしり捕まえて風に飛ばされないように位置固定して頑丈な結界を張った。

『ピーチもユニーも待機空間に戻ってなさい』

『『うん、ご主人もミチルちゃんも気をつけてね』』

ピーチとユニーは召喚を待つ待機空間に戻っていった。そこならこの台風に巻き込まれることも無い。


ただこの台風、龍巻から逃れるだけなら異空間に転移すれば済むことだ。

だがコランはここで逃げてはならないという強い思いが有った。本能と言ってもいいだろう。

「何のこれしき!負けてたまるか!」


風も雨もどんどん強くなってくるが、コランもミチルも微動だにしない。

とうとう龍巻にまきこまれた。魚が渦を巻く海水と共に上空に運ばれて行く。コランに圧倒的な圧力がかかるが1ミリも動かない。


『なぜだ⁉たかが人間ごとくが我が強烈な風に耐えていられる?ならば我の神雷を受けてみよ!』


龍の焦った心の声だった。そしてコランに向かって通常の倍以上の威力の雷を放つ。

凄まじい轟音と共にコランの結界に落ちた。強烈な光がほとばしる。だが一向にコランには効いた風が無い。凛としてそこに立っている。


『のう、そこな龍よ。そなたの攻撃はそんなものか?蚊に刺されたよりも痛くもかゆくもないぞ。遊んでるのか?ならば儂の雷仙術を受けてみよ!果たして耐えられるかな?』

コランが龍を煽る。


『ぐぬぬ、神にも等しいこの我を愚弄するか!愚か者め!やってみるが良い!我に少しでも苦痛を与えることが出来るならな。もしも出来ぬ場合はそれ相応の罰を受けるものと覚悟せよ!』

『受けて立とう」ならば行くぞ!』

コランは杖を掲げて声に出して術名を告げる。


「昇雷!」

ドドーーン、バリバリバリ

龍に向かって杖の先から雷が放たれた。その威力は先程の龍の雷の5倍は有った。

『グワッな、なんのこんな雷そよ風に等しいぞ』

『今グワッと言ったな痛ければ痛いと言ったほうが良いぞ。でないと、大火傷をするぞ』

『出来るものならやってみるが良い』


『言ったなならば10倍じゃ受けてみよ!』

『ヒー、熱ぃ、くは無いぞヒーハー』


そこへミチルが乱入してきた。

「じいじ駄目だよ弱いものをいたぶって遊んじゃ可哀想じゃない!

あたしが引導を渡してあげるから、もう大丈夫だよ大きな蛇ちゃん」


『我は蛇ではない!弱いものでもないぞ!、だが出来るなら許してやろう』

幼い女子に弱いもの認定されて納得がいかない龍だったが、一思いに楽にして欲しいと渇望する龍だった。


「本人もこう言ってるからあたしが楽にしてあげてもいいよね。じいじ」

「おお、ミチルは優しい子じゃのう。いいぞ楽にしてあげなさい」

ミチルの願いに否とは言えない爺馬鹿のコランであった。


「じゃあ行くよ蛇ちゃん」

『おおう』

「50倍昇雷‼」

『えっ50倍って⁉ちょ、ちょっと待って‼ギヤ――――』

望み通り一思いに昇天しかけた神にも近い龍であった。




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