第2話 広がる世界

HDD容量の限界に怯えながらも、僕の“好き”の熱が冷めることはなかった。

次に僕がのめり込んだのは、当時一気にブームになっていた「泣きゲー」だ。


『Kanon』の感動を継ぐように、友人たちの間で話題だった「泣きゲー」へと次々と手を伸ばした。


そんな中で、ひときわ異彩を放つタイトルに出会う。

『うたわれるもの』だ。


恋愛ゲームだと思って起動したら、どこまでも重厚なファンタジーと、シミュレーションRPGとしての完成度に撃ち抜かれた。


そして僕の価値観を決定づけたのは、二人の原画家――みつみ美里と甘露樹。

線の流れ、髪の光沢、キャラの佇まい。画面を見た瞬間、胸が跳ねた。


「このイラスト、全部欲しい」


その衝動のまま、WinMXを開き、

検索欄に「みつみ美里 画集」「甘露樹 イラスト」と打ち込んだ。


出てきたのは、雑誌では絶対に見られない、原画の息遣いが伝わる同人誌のデータたち。

ファイルを開いた瞬間、息を飲んだ。線一本一本に、描き手の魂が宿っていた。


ああ、同人誌って、こういう世界だったのか。


ちょうどその頃、音楽も僕を深いところまで引きずり込んでいた。

『おねがい☆ティーチャー』の「Shooting Star」

あの情感のこもったボーカルを辿っていくと、名前が出てくる。


――KOTOKO。


彼女の曲をWinMXで漁っていくと、衝撃を受けた。

リストの大半が「ギャルゲーの主題歌」だったのだ。


『夏色の砂時計』『家族計画』――。

僕がそれまで触れてきた「アニメ」と「ギャルゲー」という二つの世界を、KOTOKOが一本の線で結んでいた。


イラストレーター、KOTOKO、ギャルゲー。

その三つの点がつながった時、僕のオタクとしての「居場所」が、ふっと輪郭を持ち始めた。


その勢いのまま、僕は外付けHDDを買った。

容量を気にせず、好きなだけ収集できる快感に、すぐに溺れた。


ライトノベルにも手を伸ばし、『まぶらほ』で活字のテンポの良さに開眼した。


学校では仲間、ネットでは同志。

広がっていく世界の中で、僕は完全に“そっち側”の住人になった。


そしてこの世界は、ついに僕に「物欲」という深淵を見せ始める。


その果てに――

僕のアルバイト代のすべてを吸い込んでいく、

“自分の領域”を作る日々が始まる。

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