“救い”という言葉の重さを、現代と過去、現実と異界をまたぎながら描き出す物語です。
序盤は、主人公・剣奈の冒険譚として始まる。
だが読み進めるほどに、物語の中心には「消えた恋人・玲奈」の存在が深く根を張っていることがわかります。
玲奈の過去は、阪神淡路大震災という現実の痛みと結びつき、
その生い立ちは“異能”と“呪い”の境界線を揺れ動く。
「なぜ玲奈は救われねばならないのか」
という物語の心臓部そのもの。
震災で人生を失った父と孤独の果てに母。
そして“視えてしまう”少女・玲奈。
剣奈の「救う」という言葉が、単なるヒロイズムではなく、
歴史と痛みを背負った“必然”として響きます。
ファンタジーと現実の境界を曖昧にしながら、
心に静かに沈んでいくような重さと、
それでも前へ進もうとする光が同時に存在する物語。
「ここからどう救うのか」
「救いとは何なのか」
という問いが、読者の胸に確かに芽生えてきます。
静かで、痛くて、それでも優しい。
そんな物語の序章が、強い引力で読者を物語の奥へと誘います。
15話まで読み進めたうえでのレビューです。
この作品は、序盤の印象だけでは決して測れない物語だと感じました。
この作品を読んでいて強く感じるのは、
「優しさ」を安売りしていない、という一点です。
誰かが突然すべてを救ってくれる話ではない。
正義が一瞬で勝つ話でもない。
むしろ、読んでいて苦しい場面のほうが圧倒的に多い。
それでも読み進めてしまうのは、
登場人物たちが「間違えながらも、人として誠実であろうとする」からだと思います。
この第15話付近に至るまで、
読者は何度も「これは耐えられるのか?」と試されます。
感情を消費させるための不幸ではなく、
社会・家庭・大人の無責任さが積み重なった結果としての痛みが、淡々と描かれているからです。
だからこそ、この話数で描かれる空気は特別です。
派手な出来事がなくても、
たった一つの視線、言葉、沈黙が、これまでの重みをすべて背負っている。
読後に残るのは、涙よりもむしろ「静かな肯定」でした。
――それでも、人はやり直していいのだと。
この作品は、
「かわいそうだったね」で終わる物語ではありません。
そして、読む側にも簡単な共感を許してくれません。
だからこそ刺さる。
だからこそ、忘れられない。
もし途中で読むのがつらくなって止まっている人がいるなら、
ぜひこのあたりまで辿り着いてほしい。
ここまで読んできた時間が、決して無駄じゃなかったと、静かに証明してくれる回だと思います。
このお話は作者様が既にお書きになられているシリーズの一環を成すものですが、コメディがやや勝った他シリーズと比べ、戦後、そして阪神・淡路大震災に否応なく巻き込まれ、運命を狂わせられた人々の群像劇の形を取っているように思います。
カジュアルな切り口と、作者様の実に豊富な知識。
キャラクター達の心の機敏。
舞台は様々に変わりながらも彼らの人生に目が離せません。
昭和史から始めるとなると作者様にもそれなりのパワーが必要かと思いますが応援していきたい!
そんな作品です。
令和の世になり忘れがちな昭和・平成史。
こちらの作品で是非振り返ってみて戴きたいと思います。
静かな日常の地平が
ふとした瞬間に裂け
現実と異界が
指先ほどの距離で重なり合う──
そんな〝境界の物語〟を読みたい人に
この作品は強く響くでしょう。
子どもの無垢な想像力が
実は世界を支える真実であり
大人の理性はかえって脆く
痛みに晒されやすい。
東名を駆ける一台のバイク
家族を失った職人の夢
震災の残響
そして
時空を越えるために払われる代償──
それらは散逸した断片ではなく
ひとつの〝祈り〟のように
静かに繋がり出す。
日常の手触りと
胸を抉るような現実の痛み。
そして、容赦なく訪れる超常の気配。
そのどれもが嘘ではなく
本当にこの世界に在るのだと思わせる筆致に
胸を掴まれます。
華やかな冒険譚ではない。
これは
失われたものを抱えた人々が
それでも誰かを救おうと歩き続ける物語──
読み終える頃には
きっと世界の色が少し変わって見えでしょう。
一見すると、小学4年生の元気な戦闘巫女・剣奈ちゃんと、個性豊かな妖(九尾の狐や白龍!)たちが織りなす現代異能ファンタジーです。キャラクターたちの会話は軽快で、クスリと笑える楽しさに満ちています 。
しかし、物語のレイヤーが一枚めくられると、そこには息を呑むほど「リアル」な絶望が広がっています。 描かれるのは、1995年の阪神・淡路大震災。神戸市長田区、ゴムと油の匂いが染み付いた町工場で、一人の真面目な職人が夢を砕かれ、転落していく様が、痛みを感じるほどの解像度で描写されます 。
「篠の道」という、激痛を伴う時空移動。その先にあるのは、単なる敵ではなく、過去という名の変えられない現実なのかもしれません 。 ポップなキャラクターたちが、この重厚な「喪失」の物語にどう立ち向かい、どう「救済」を成し遂げるのか。 「ただのラノベ」と思って読むと火傷する、魂のこもった社会派ファンタジーです。
神戸の虐待家庭から逃げ出した少女・玲奈。児相にも警察にも救われず、今、彼女の魂は異界で邪気に囚われ昏睡状態だ。救出に動くのは「男児から女児に変えられた戦闘巫女」の小学生・剣奈、歴史学者・藤倉、シングルマザー行政書士・千剣破。剣奈は霊刀と九尾の狐、白蛇を従えて異界と戦い、千剣破は家庭裁判所での養子縁組という「現実の武器」で玲奈を守る。
この作品が異色なのは、社会問題と神話を本気で融合させている点。家裁、児相、戸籍変更といった現実制度と、素戔嗚尊や淡嶋伝説などの日本神話が一本の線でつながる。特に阪神淡路大震災の描写は生々しく、玲奈の両親を壊した貧困と絶望が虐待へと直結する構造が容赦なく描かれる。時空を超える「篠の道」は激痛を伴い、救済は綺麗ごとでは終わらない。
「剣」「祝詞」「法律」「家族」「愛」――五つの手段で地獄の過去と異界の邪気に立ち向かう。トラウマも暴力も無かったことにはならない。それでも「もう一度、生き直す」可能性を問う、重厚な社会派ダークファンタジーです。