第2話 11~20


まだ玄関の前に誰かいるんだけど

誰か呼んだ方がいいかな


呼んじゃダメ


その誰かを家の中に呼んじゃダメ



おーい


おーい


おーい


おーい


森の中では返事するべからず

速やかに去るべし

足音を立てると追ってくるぞ


おーい



カラスが赤い実を食べていた

そこらじゅう真っ赤に汚して食べていた

美味しいかいと訊ねたら

カラスは笑ってこう言った


「うまくはないね」


あの赤い実はうまくはないが、食べられないものでもないのだとカラスは教えて飛んでいった

今日は実を一つ摘みにいこうと、獲物を探しに家に帰った



玄関の前に誰かいるんだけど

ねえ、玄関の前に誰かいるんだけど

出れないよ

どうしよう


出てこいよ

呼びにいってやるから


出られないよ


もうずっとここから出られないよ



頭を切った

きれいにきれいに揃えて

でも忘れてしまった

ねえ、ぼくの頭知らない?













ラインのグループに誘われた。いつでも抜け出せると、終われると思った。

よくある話だね。

でも彼らは手放してくれなかった。


鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る鳴る

通知の音が鳴り続ける。

頭が痛い。

ラインを見ろと、話を読めと。

何をしろというのか。何を求めているのか。

全くわからなかった。

無視は許さない。じゃあ既読を付ければいいのか。それも間違いだった。何故か、読まずに既読だけ付けると通知が鳴り始める。

何処かで見ているんじゃないのか。そう思えるくらいの反応だった。全くわけがわからない。

おとなしく自分はラインを開いて読むしかなくなった。


話題は、百物語。


短い話からちょっと長いものまで。誰が言っているのかわからない吹き出しが少しずつ増えていく。

時間を見た。深夜だったり朝だったり真っ昼間であったり。本当に気紛れで呟いているようなグループだった。

一体何処の暇人が。名前を見ても文字化けしている。こんなこともあるのだろうか。

それに、誰が自分をこのグループに誘ったのか。単に番号が合致しただけかもしれない。それならとっとと退会させてくれ。


ポーンと通知が届いた音がする。玄関のチャイムにも似た音が。自分はまだ手をはなしてもらえそうもない。


話は続く。

淡々と。


百物語だ。百の話が終わるまでこの時間は終わらないんだろう。

同じような話もあった。ああそうだ、自分にもそんなことがあった。あれ、似たようなことがあった気が。なんだこれ、怖いな。

百物語なんだ。百の物語なんだ。

指は勝手に画面を滑り始めた。

自分は今、百物語の舞台の中にいる。目の前に蝋燭を置かれ、自分の番が来るのを待っている。

そんな気がした。


自分はこの仲間たちを知っている。だから呼ばれた。自分が参加するのを、この仲間たちは待っていてくれた。だから、だから、自分も百物語に加わる話をしなければ。

最初の文字を押そうとした。つまらない話だってきっと受け入れてくれる。仲間なんだから。


その時、玄関の呼び鈴が鳴った。友人を呼んで今日は最新のゲームをする約束だったんだ。

画面から指を離して、机の上に置いた。玄関に向かおうとした時、自分は思った。




今、何をしようとしていたんだろう。




そうだ、最新のゲームをするんだ。楽しみだな。

自分は玄関に向かった。


まだ蝋燭を吹き消す時ではないらしい。


こんな話、どうかな。

知らない誰かからラインのグループに誘われて、何故か退会ができない。

え、よくある話なの?

みんなそんな頻繁に百物語やってるの?!


それって、誰が始めてる?

百物語。














頭を洗った

ついでに首を洗った

明日は我が命日となるであろう

誰に見られても恥ずかしくないよう、よぅくよぅく丁寧に洗った



髪を染めた

でも染料が合わなかったらしくて

もう、痒い痒い

掻いて、かきむしって、爪を立てた

染めた髪はごっそり抜けた

指に絡まって、気持ちが悪かった

でももう痒くはなくなった

頭は真っ赤に染まったけれど

ああ、また髪を伸ばそうか



近所に犬がおりまして

数日ぶりに会ったので挨拶をしたのです

そうしたらあちらもこちらを覚えていたようで

丁寧に挨拶を返してくださったのです

それはそれは上手な人語でした

どこで覚えたのか訊ねたら

今しがた喰ろうた者どもが話しておったと

そのお犬様は仰ったのです

家の中には誰もいませぬ



玄関の前に誰かいるんだけど

その人、家の中、玄関から入ってすぐの所にいるんだよね


だから

部屋に鍵をかけて、扉の所に塩をまいて、襖の奥に隠れてる


誰か、助けに来て



絶叫パニック系とか恐怖ホラー系のものみた直後で寝るのはよくないね

夢に出てきて、私をキャストにしようとする

大抵そんな時は

起きようとしても起きられない、長いながーい悪夢になるんだよ

だってあいつら、目が覚めたら消えちゃうでしょ?

終わらせたくないんだってさ

手を離してくれないよ


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