3-4 美以子の横顔

 その後は背景アートをじっくり見て回ったり、写真を撮ったり、各ゲームの設定資料を見たりした。設定資料はライブリリィのすべてのゲームが網羅もうらされていて――。


「あった」


 二人が求めていた『リベルナ』の設定資料もちゃんと展示されていた。

 百人以上いるキャラクター達の三面図が載っている冊子があり、望と美以子は興奮気味にパラパラとめくる。


「凄い……。攻略本でもここまで細かく描かれてなかったのに」

「館花くんも連れて来てたらネタバレになっちゃうところだったねぇ」

「……本当だ。各キャラクターの結末まで書かれてる。本編に深く関わらないキャラも多いから、裏設定って感じなのかな」


 まさかここにきて初めての資料を見る日がくるとは思わなかった。

 ついつい食い入るようにして見てしまうが、とあるページでピタリと止まる。


「ファニア? マドカくん、もしかしてファニア推しなのかな?」

「いや、僕は違くて……。玲汰くんが好きだって言ってたんだ」

「ほー、そうなんだ。館花くん、本屋ルナの配信を観てくれてるんだよね」

「……というよりも、自分でプレイもしてるみたい。何か、家族……伯父さんだったかな。ハードを持ってたから貸してもらったみたい」


 望の言葉に美以子は目を丸くさせる。

 美以子にとっては本屋ルナの配信を観てくれただけで嬉しいことだろう。現行機ではできないゲームを、ゲームとは縁遠かった玲汰がやっている。

 きっと、美以子にとってその事実は大きなものだろうと思う。


「やりたいって思ったって。玲汰くんが」

「それで本当にやってくれてるんだ」

「みたい。……凄いよね、本当に」

「うん、凄い。凄いし、すっごく嬉しい。だって初めは一人でも多く『リベルナ』を布教できたら~と思ってVTuberを始めたんだもん。……ホント、嬉しいなぁ」


 呟き、美以子は小さく笑みを零す。

 ふんわりとした柔らかい笑みだった。つい横顔をじっと見つめてしまい、目が合うと慌ててそっぽを向く。


「ん、どうしたの?」

「あ、いや……何でもない。全然、その…………見惚れてたとか、そんなんじゃないから」


 やばい。動揺のあまりヘンテコなツンデレになってしまった。


「あー……そっか。そっかそっか。……ところでマドカくん。そろそろグッズコーナーにも行ってみよっか」

「あっ、う、うん。そうだね、行ってみよう」


 どうしよう。変な空気になってしまった。

 理由は明白だ。望が「見惚れてた」とか馬鹿正直に言ってしまったから。しかも独り言でも何でもなく、はっきりと。


「…………あの、胡桃沢さん」


 グッズコーナーへと足早に向かおうとする美以子を呼び止める。


「僕も今、凄く嬉しくて……。自分の好きなものを誰かに好きになってもらうって、何かこう……胸がいっぱいになるっていうか。…………幸せ? って言ったら大袈裟なのかな。でも、嬉しいんだっていう胡桃沢さんの顔に見惚れてしまった。……っていうことなのかも、知れない……です」


 まとまり切らない言葉を零して、素直すぎる感情を晒して、最終的に何故か敬語になって。だけど何とか伝えきった時、美以子は笑ってくれた。

 先ほどと同じ、柔らかな笑みだ。


「そっかそっか、わたしゃ嬉しいよ」


 突然のおばあちゃん口調。

 もしかしたら照れてくれているのかも知れない。


「って、こんな時に誤魔化しちゃ駄目だよね。……ありがとう、マドカくん。すっごく恥ずかしいけどすっごく嬉しい。それに、今のマドカくんの笑顔も眩しいよ」

「そ、そう……なのかな」


 ビックリした。

 誰かの笑顔を眩しいと感じることはある。だけど自分が浮かべるには縁遠い表情だと思っていたのだ。


 だけど美以子が教えてくれた。眩しいよ、と。

 彼女の言う『眩しい』は、もしかして美以子の笑顔と同じようなものなのだろうか。


 だとしたら、こんなにも嬉しいことはないなと思った。



 ***



 果たしてグッズコーナーに『リベルナ』は存在するのか。

 ドキドキしながら物販へと向かうと、やはりというか何というか、「カントールシリーズ」のグッズに溢れていた。

 この時点で「どうしよう、ないかも」という不安に満ちていたが、やっとの思いでクリアファイルを発見する。このイラストは確か、『リベルナ』の発売十周年の時の記念ビジュアルだっただろうか。褐色の主人公、トールを中心に人気の高いキャラクターが描かれている。『リベルナ』のグッズはそれだけだったが、何もないよりはマシだろう。


 グッズには一種類につき二点までの購入制限があり、望は自分用+玲汰へのお土産用の二つ、美以子は保存用+観賞用の二つを購入。残りは「カントールシリーズ」のグッズをいくつか入手し、二人はグッズコーナーを後にした。



 午後三時になり、トークショーの会場内へと入る。

 二人の整理番号は一桁台で、運良く最前列に座ることができた。

 こうしたイベントはネット中継で観るのが普段の望だし、今回のトークショーもライブリリィの公式チャンネルで生配信されるらしい。もしかしたらカメラに映り込んでしまうのではないか。なんて思ったらそわそわして落ち着かなかった。


 客層としては男性の方が若干多めだろうか? 望達のような高校生らしき人もいるが、二十代が過半数を占めているように見える。イベントでの印象ではあるが、ライブリリィのファン層は全体的に若いのかも知れない。

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