冥恐の死神伝説殺人事件~瞬間移動を使い、乙女を狩る怪物~

ここグラ

恐怖を喰らう死神の伝説

 遥か昔、200年程前にこの地では恐ろしい怪物が跋扈していた。人の恐怖を喰らい、大鎌で若い女子の喉を切り裂いて鮮血を身に浴びることを至高の喜びとする……死神。


「ひっ……た、助けて、殺さないで」


 殺された女子は皆恐怖に満ちた表情を浮かべ、着物を血で赤く染めていた。人々はいつからか、その怪物のことを……【冥恐めいきょう死神しにがみ】と呼ぶようになった。


「このままじゃ村から女子がいなくなってしまう……倒すんだ、あの死神を!!」


 人々は力を合わせ、死神を聖なる岩に封印することに成功した。その岩は決して撤去してはならない【死神の岩】として、人々の間で守護されてきた……


***


~憲治視点~


「で、その【死神の岩】っていうのが、旧校舎の跡地にある、あの岩というわけ」


 時は現代、新聞部の部室に部長である3年B組の冬野愛音とうの あいねの声が響き、氷上憲治ひかみ けんじはため息をついた。憲治は伝説や超常現象の類をまるで信じないというわけではない、愛音は聡明なだけにそれなりの理由があって今回の議題としているのだろう。問題なのは……隣にいるお調子者の男の存在である。


「良いっすねえ、愛音先輩!! 新聞部として、凄く盛り上がりそうなネタですよ」

「お前は可愛い女の子が絡めば何でもいいんだろ、淳也じゅんや

「そりゃそうだろ、むさい男よりも可愛い女の子の方が絵になる」

「あのなあ、伝説とはいえ殺人事件なんだぞ?」


 予想通り、といった感じで憲治は頭を抱えた。はしゃでいる男、寒川淳也さむかわ じゅんやはとにかく可愛い女の子が大好きであり、それが絡むと途端にテンションが上がる。一応憲治にとっては悪友なのだが、時々付き合い方を考えた方が良いのだろうかと思うことがある。


「憲治の言う通りだよ、淳也君。さすがに不謹慎」

「うーん、帆乃ほのちゃんに言われちゃしょうがないか」

「いや、俺の時と態度違いすぎだろ」

「当然だろ、可愛い帆乃ちゃんが言うことだぞ。そんな帆乃ちゃんと幼馴染なお前を本来殴りたいところだが、必死に我慢しているオレに感謝してほしいくらいだね」


 淳也の言葉を聞いて呆れている憲治を微笑んで見つめているのは白雪帆乃しらゆき ほの、憲治の幼馴染だ。セミロングの明るい茶髪をハーフアップにして白いリボンで結んでおり、淳也の言う通り世間的に見てもかなり可愛いので男子生徒からの人気も高い。ちなみに憲治と帆乃と淳也は同じ2年A組である。


「寒川先輩、あまり氷上先輩と白雪先輩に迷惑かけちゃダメですよ」

「心配ないぞ冷花れいかちゃん、これは挨拶みたいなものだからな」

「そんな挨拶聞いたこともないです………ちょっとは真面目にですね」

「冷花ちゃん、そこは適当にスルーするのが淳也に対する正しい対処方法だぞ」

「は、はあ……」


 憲治の言葉にどこか戸惑ったような表情を浮かべているのは春雨冷花はるさめ れいか、1年C組に所属している。セミロングのダークブラウンの髪を二つ結びにし、ピンクの花を形どった髪留めでとめている。小柄で可愛らしく、どこか小動物的な雰囲気がある。


 真面目で大人しい方だが、言うべき時は割とはっきり言うタイプだ。一方で真面目過ぎるゆえに弾けた感じの雰囲気について行くのが苦手であり、こうしてお調子者の淳也に翻弄されるようなことは珍しくない。


「憲治先輩の言うことは最もですけど、淳也先輩の気持ちも分からなくはないですねえ。帆乃先輩、綺麗ですから」

「さすが亜里沙ありさちゃん、話が分かる!!」

「あ、淳也先輩が不謹慎なのは事実ですから反省してください♪」

「おおう……亜里沙ちゃんの言葉の刃がオレを切り裂く。だが……それが良い!!」


 淳也の変態発言を笑顔でスルーする強者は霜原亜里沙しもはら ありさ、1年D組所属だ。明るい茶髪のミディアムヘアーに、氷の結晶を形どった髪留めを付けている。可愛く天真爛漫で、その場の雰囲気を明るくしてくれる子だ。


 冷花とは対照的に弾けた雰囲気への対応力にも優れており、淳也の暴走を抑える切り札的存在と言われている。憲治に懐いているが、それ以上に帆乃へ懐いており、2人にとって可愛い妹のような存在だ。


「はいはい、コントはそのくらいにして、本題行くわよ」

「えー、もう少し良いじゃないですか愛音先輩」

「さ・む・か・わ・くん?」

「……はい」


 愛音の迫力のある笑顔に、淳也は黙るしかなった。ここ織音学園おりねがくえんの新聞部はこの6人で構成されているが、個性的なメンバー揃いなだけに部長である愛音の存在は大きい。綺麗なストレートの長い黒髪に整った顔立ち、スタイルも抜群であり彼女に憧れている生徒は男女問わず多い。


 更に頭脳明晰で人をまとめる能力にも長けており、過去に生徒会からのお誘いもあったらしい。しかし本人は新聞を書くのが好きということで、新聞部に収まる形となっている。他の部員にとっては、頼れるお姉さん的存在だ。


「で、本題なんだけど……今度の校内新聞ではこの【冥恐の死神】について調べようと思うの」

「……愛音さん」

「何、氷上君」

「どうして今更、死神伝説を? この学園の生徒は入学時に誰もがあの【死神の岩】について説明を受けているわけですから、興味を持つとは到底」

「氷上君……君は死神伝説について、どう思ってる?」

「……正直、どこにでもある迷信だろうなって」


 他の部員達も静かに頷いた。当然の反応だろう、科学がこれだけ発達した今の世の中において、伝説上の怪物などと言う存在を信じる人はそうそういない。


「まあ、それが普通の反応でしょうね。正直、私もそう思っていた。だから今まで調べてこなかったんだけど」

「何か……あったんですか?」

「【死神の岩】が撤去されることになったのは、知ってるわよね?」

「ええ、多目的ホールが建つとか。うちのクラスの連中も伝説は信じてないっぽくて、便利になる方が良いって歓迎ムードでしたけど」

「……その工事日が近づくにつれて、不気味な現象が起こり始めるようになったのよ」

「……え?」


 愛音の言葉に、憲治だけでなく他の部員も目を丸くして驚いた。先程までの浮ついた雰囲気は、一気に吹っ飛んだ。


「中庭に大量のカラスの死骸が出現したり、夜中に妙なうめき声が聞こえたり、人間とは思えないような怪しい影が目撃されたり……枚挙にいとまがないのよ」

「誰かの悪戯ってことは考えられませんか? 伝説を信じている何者かが、工事を止めさせるためにやっているとか」

「学園側もそう判断して、無視しているみたい。今までこの話が生徒の耳に入ってこなかったのは、騒ぎになって工事が中止にならないように学園側が握り潰したからでしょうね」

「そ、その情報を冬野先輩はどうやって?」

「ふふ……私の情報収集能力を甘く見ない方が良いわよ、白雪さん」


 笑顔でそう呟く愛音に、帆乃は笑うしかなかった。愛音の優秀さには部員全員が頼もしく感じている一方で、底が知れないなあと恐ろしさも感じているのだ。


「で、その工事日というのが……今日なのよ」

「ちょ、ちょっと待ってください冬野部長。確か3日後だって聞いてますけど」

「諸事情で早まったらしいのよ、春雨さん。まあ大方、情報の握り潰しにも限界が来たからでしょうけど」

「……愛音部長、いつもは放課後なのに昼休みに緊急招集されたのって、まさか」

「そうよ霜原さん、工事が始まるのは……今日の昼休みから。新聞部として現場を押さえたいのよ。何かが……起こるかもしれないから」


 冷花と亜里沙は、愛音の言葉に戦慄した。2人だけではない、憲治も……帆乃も……淳也も……今までのように迷信だと笑い飛ばすことは出来ないと感じていた。


***


 憲治達は愛音を先頭に、【死神の岩】がある旧校舎跡地に向かった。現場に着くと既に工事は行われており、今からショベルカーで岩を撤去するところのようだ。土建屋が来ていることや工事の音で他の生徒達も気づいたのだろう、見に来ている者や教室の窓から見学している者もいる。


「校長……本当にやるんですか?」

「何を今更言っているんだ」

「ですけど、不気味な現象が起こるようになったんでしょう? もし死神の呪いだったら」

「馬鹿馬鹿しい、そんなの反対派の悪戯に決まってる!! この工事で一体いくらのお金が動くと」

「校長!!」

「む……すまん」


 校長と土建屋が何やら言い争いをしており、隣には教頭が控えている。校長は土建屋の指摘に、思わず両手で口を抑えた。


「愛音さん……何かきな臭い話ですね」

「ええ、大方学園と土建屋との間で黒いお金が動いているってところでしょう」

「だから校長は多目的ホールを建てるのに妙にこだわっているんですね……普段から胡散臭い人だとは思っていたけど」


 帆乃は嫌悪感に満ちた表情で校長を見つめた。元々彼は普段から生徒からの評判は良くない、冷花や亜里沙も冷たい目を向けていることからも明らかだ。


「ほら、校長もお忙しい身なんだ、あまり待たせるな」

「わ、分かりました教頭」


 土建屋は渋々ショベルカーを動かし、【死神の岩】を撤去し始めた。みるみるうちに岩は地面から掘り出され、トラックに乗せられた……その時だ!!


「何だ……雨か?」

「おかしいわね、今日は降水確率0%のはずだったけど」

「冬野先輩……雨、どんどん強くなっていますよ!!」


 帆乃が愛音に異変を告げると、雨は更に強くなり、空は一気に暗くなった。そして……閃光とともに大きな音が鳴り、雷がグラウンドに落ちた!!


「きゃっ!!」

「冷花ちゃん!!」


 雷に怯える冷花に亜里沙が寄り添い、帆乃も憲治の腕を掴んだ。普段はおちゃらけている淳也も、真剣な表情でグラウンドを見つめている。


「こ、校長……これは一体」

「狼狽えるな、単なるゲリラ豪雨だ」

「しかし、このタイミングで……しかも雷がグラウンドに落ちるなんて」

「……死神だ」

「何!!??」


 土建屋と校長が揉めていると、校舎の教室の窓から複数の生徒が不吉な言葉を放った。今……死神って言ったか?


「死神の影が……見えた!!」

「俺も……見たぞ!!」


 彼らの言葉が導火線になり、校内は騒然となった。その様子を外から眺めていた新聞部の面々は、言葉を失った。


「憲治……まさか本当に死神が……復活したの?」

「……そんな馬鹿な」


 帆乃の不安そうな声が、大雨の中で静かに響いたのだった……


***


 憲治と帆乃が教室に戻ると、そこは異様な雰囲気が漂っていた。先程の騒ぎについて神妙な顔をして友人と話している者、不安そうな顔をして椅子に座っている者、一見気にしてなさそうでどこか虚勢を張っているように見える者……普段の教室の空気ではない。ちなみに、淳也はパンとジュースを買ってくると言って、購買に行った。


「あの……白雪さん」

絵里花えりか、どうしたの?」

「雨に濡れてるけど……もしかして新聞部で見てきたの? その……【死神の岩】」

「うん……なんか不気味だよね、急に色々なことが起きて」

「死神の影は私は見えなかったけど……やっぱり撤去しちゃいけなかったんじゃないかな、あの岩」


 不安そうな表情を浮かべ、聖澤絵里花ひじりさわ えりかは右手で制服の上着を掴んだ。憲治と帆乃と淳也のクラスメイトであり、サラサラの黒いミディアムヘアーが似合う可愛らしい子だ。それほど目立つ方ではなく、普段は一人で本を読んだりしていることが多い。


「雨と雷はゲリラ豪雨だろうし、死神の影にしても偶然そう見えただけだと思うぞ。人間って点が三つあれば、両目と鼻で顔だって思うらしいしな」

「ふふ……確かに氷上君の言う通りかも」

「だから、あまり気にしない方が良いと思うぞ、聖澤」

「うん、あまり怖がって美南みなみを心配させても悪いしね」

「絵里花!!」

「あ、噂をすれば」


 声がした方に絵里花が振り向くと、パンを持ったクラスメイトの二宮美南にのみや みなみの姿があった。ダークブラウンの少し癖のあるセミロングの髪を持ち、大人しい絵里花とは対照的に快活で少し気の強い性格をしている。絵里花とは非常に仲が良く、親友同士だ。


「はい、パン買ってきたよ」

「ありがとう。ごめんね、お願いしちゃって」

「気にしない気にしない、あんなことがあった後じゃ怖くなっちゃうのは仕方ないし」

「うん……でも氷上君と白雪さんが話聞いてくれたし、大丈夫だよ」

「そうなんだ。ありがとう帆乃、氷上も。さすがは【チームウインター】ね」

「もう、その呼び方は恥ずかしいから止めてほしいって言ってるのに」


 帆乃が頬を膨らませると、美南は悪戯っ子のような表情を浮かべて笑った。チームウインターというのは美南が新聞部の面々に付けたあだ名であり、氷上・白雪・冬野・冷花・霜原・寒川と全員冬に関係するワードが名前に入っているのが由来である。


「くっくっく……」

「一ノいちのせ?」

「あっはっは、面白いことになってきたねえ」


 教室中に響く笑い声に憲治が振り向くと、そこにはクラスメイトの一ノ瀬栄斗いちのせ えいとの姿があった。オカルトや伝説の類を好み、皮肉屋で傍若無人な性格から他のクラスメイトからは距離を置かれている。


「ちょっと一ノ瀬、それどういう意味よ」

「そのまんまだろ。伝説の死神が復活したんだ、これ程面白いことはない」

「何言ってんのよ、あんなの偶然に決まってるじゃない。変なこと言って絵里花を怖がらせないで」

「くくく……なあ二宮、流れ弾は臆病者に当たるって言葉、知ってるか?」

「何よ、それ」

「アメリカで戦争を怖がる兵士に言う台詞らしくてな、恐れている者はその恐れている事柄に必ずぶち当たるという意味だ」


 栄斗の言葉に、二宮はギロリと目を大きくし、怒りの表情を浮かべた。当然だろう、その言い方じゃまるで……


「あんた……絵里花が死神に殺されるって言いたいの?」

「!!??」

「馬鹿言うなって。俺は助言しているだけだぜ、怖がり過ぎるのは逆効果だって」

「どう見たって面白がってるじゃない!!」

「美南、やめて!!」


 栄斗の胸ぐらを掴んで激昂している美南を、絵里花が止めた。栄斗は相変わらず、不敵な笑みを浮かべている。


「一ノ瀬君の言う通りだよ……確かに怖がり過ぎるのは良くない」

「絵里花……でも言い方ってものが」

「私は大丈夫だからさ、行こう」

「う、うん……」


 美南は栄斗をギロリと睨みつけた後、絵里花と一緒に自分の席に戻っていった。教室の雰囲気は更に異様なものになり、憲治はため息をついた。


「おい一ノ瀬、俺もさっきのはどうかと思うぞ」

「おやおや、面白いネタを見つけた新聞部の台詞とは思えないねえ、氷上」

「面白いって……さすがに笑い飛ばせるような話じゃないだろ、今回は」

「果たしてそうかねえ。他人の不幸は蜜の味って言うだろ、世の中の報道だってそういうもんだ」

「ちょっと、一ノ瀬君!!」

「おっと、クラスのアイドルまで敵に回すのは得策じゃないか。俺はじっくり見物させてもらうよ、冥恐の死神伝説の……幕開けを」


 帆乃に注意された栄斗は肩をすくめ、自分の席に戻っていった。未だにやまない強い雨の音が、栄斗の言葉を不気味に彩っていくのであった。


***


 放課後になり、憲治と帆乃は一緒に下校していた。普段は新聞部の活動があるのだが、昼休みにやったことと、あまりに色々なことがあったせいでみんな精神的に混乱しているだろうという愛音の気遣いで、今日の放課後の活動は無しになったのだ。


「何て言うか……部活休みになって良かったな。正直、今日はまともに活動できる気がしない」

「そうね、冬野先輩には感謝しないと」

「……なあ、帆乃」

「何?」

「本当に……復活したと思うか? 死神が」

「……」


 憲治の言葉に、帆乃はどこか不安そうな表情を浮かべた。本当は話題にするべきじゃないのかもしれない、心が不安に包まれるのは目に見えているから。だけど……どうしても頭から離れてくれない。


「そんなわけない、って言いたいんだけど……真っ向から否定できない、って感じかな」

「……やっぱりそうか」

「200年もの間撤去されなかったっていうのは、やっぱり何かしらの理由があるんじゃないかって思うの。最も、こういう状況になって初めて言えることだけどね……前までは迷信だって一蹴していたし」

「……何も起きないと、良いんだけどな」

「そうだね……」


 憲治と帆乃は半ば祈るような感じで呟き、傘をさしたまま帰路についた。雨は一向に止む気配がない……まるで彼らの希望を溶かしていくように。


***


 翌朝になって雨もやみ、憲治と帆乃は一緒に登校していた。幼馴染な上に家も近いので、こうして一緒に朝登校することは珍しくない。今日は昨日のこともあったので、前日のうちに示し合わせておいたのだ。


「雨やんで良かったな」

「うん。死神の呪いかな、とかちょっと思ったけど……考えすぎだったみたいね」

「全くだな……って、あれ?」


 学園の校門近くに、警察官が何人かいる。何やら慌ただしい様子だ……憲治は不安になり、帆乃を連れて校門をくぐって、丁度見つけた知り合いに声をかけた。


「なあ、警察が来てるけど……何かあったのか?」

「俺も詳しいことは分からないけど……殺人事件みたいだ」

「!!?? 誰が殺されたんだ、場所は?」

「誰かは分からないけど……場所は音楽室の前らしい」

「音楽室……別館か!!」

「ちょ、憲治!!」


 憲治は別館に向かって走り出し、帆乃もそれを追いかけた。織音学園は生徒が授業を受ける通常教室や職員室・図書室等使用頻度の高い特別教室は本館、それ以外の特別教室は別館という配置になっている。音楽室は……別館の2階にある。


 憲治と帆乃が音楽室の近くに辿り着くと、多くの生徒が集まり騒然としていた。音楽室の前の壁に赤い染みのようなものが遠目に見える……憲治と帆乃は人ごみをかき分け、そこに向かった。


「通してくれ!!」

「お願い、通して!!」


 そこに辿り着くと、憲治と帆乃は顔を青くし、息を飲んだ。体はガタガタと震え、全身から冷や汗が滝のように流れた。血まみれになって、壁にもたれかかるように力無く倒れていたのは……昨日も一緒に話した友人だったからだ。


「聖澤……」

「絵里花……う、嘘」


 帆乃が瞳から大粒の涙を流している横で、憲治は悲しみをこらえながら冷静に絵里花の死体を観察した。織音学園の制服であるセーラー服の上着やリボン、スカート、全てが大量の血で塗れている、死因は出血多量で間違いないだろう。


 ここまで大量の出血となると、考えられるのは……やはりそうか、喉が切り裂かれている。それに……表情は恐怖に満ちている。まるで……恐ろしい怪物に遭遇して、恐怖のどん底に叩き落されて殺されたみたいだ。


「これは……まさか」


 憲治は目の前の事実に背筋が凍った。すべてが……同じだ。少し前まで、迷信だと一蹴していたことと。


「冥恐の……死神伝説」

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