第6話-頑張る子
「本当にごめんなさい!!」
バリバリ悪意を持ってやがった!!!
(え、何!? 何なんだよそれ!? なんで……なんでそんな発想になるんだ!? 一体何を議論していたんだ! なんでお前らそんなこと議論してるんだ!!?)
ってことは、俺……もっと早く目が覚めなかったら……
土の肥料にしたり、森の中に死肉のように投げ捨てたり、どこかの海に沈めていたかもしれないってこと!?
ふざけんなよ! 何だよそれ!?
(魔物から助けた後、自分の死を目論んで、死体101の処理方法について授業みたいな議論をしてた!? この村は一体どうなっているんだ!? 何なんだこいつら!?)
「……」
俺は呆れ果て、じっと黙っている以外何の反応もなかった。
まさか……俺がさっき考えていたよりも、もっととんでもないことがあるなんて……
しかも、リアルにやったって……
どう反応したらいいのかわからなかった。重苦しい雰囲気を伴った沈黙は引きずられていた。
「本当に……ごめんなさい……」
彼女はもう一度謝罪の言葉を述べる。もう顔も見えないほど頭を下げている。
(あぁ……何やってんだ俺……さっき、黙っているのはダメだと思ったって言ったばかりなのに……)
この……発見、には複雑な思いを抱かずにはいられないが……
その責任は彼女にあるはずはない。
こんな子にこんなものを気にさせるのはいやだ。
「……大丈夫だ。君がそんなことを気にすることじゃない」
「でも……」
「それより、ひどい状態から目が覚めたというのはどういう意味?」
今の雰囲気から脱却する必要がある。その方法のひとつが、話題を変えること。すぐに思いついた話題を投げてみた。
「あ、はい。その……ブラッドフォード様が倒れた後、あまりにひどい状態になって、私たちも顔が真っ青になってしまって……幸い、父さんたちはどうすればいいかわかっているので、言われた通りにブラッドフォード様の看病をしたのです」
「んん、そう……」
有力な一族の子息が死傷者になっては、事態が複雑化するのはわかる。ブラッドフォード家が、俺がここで死んでもこの村に何もしないとは思わないが、ここの人たちはそう簡単には思わないだろう。
自分たちが何か責任を取らされる可能性があると思うだけで、誰でも怖くなる。だから、その場合、村人たちが俺の死体の処分を計画するような極端な手段に出るのは仕方がないことだと思う。
しかし……
(俺は死ぬと思われるほどひどい状態だったのか? 大げさすぎないか? 確かに怪我はしただろうが、重傷というか、手の施しようがない状態だったとは思えない)
「あ、あの……」
(あ、まずい)
このことは後でじっくり考えておくことにする。思ったより会話が続かなかった。
(前とつながっている話題を持ち出すのはまずかった……あ、そうだ)
「そういえば、俺が倒れた後、そのあとの様子は? 大丈夫だと言ってたが、お前の父さんに治癒魔法をかけた後、問題なかった?」
「ふぇ? あ、はい。ブラッドフォード様が倒れた後、父さんはもう完璧な容態になっています。本当に、ありがとございます」
「……お前はどう? どこかで怪我をしていないか? もしそうなら、治癒してあげるが……」
「あ、大丈夫です! 怪我はしてません。父さんが守ってくれたから……ブラッドフォード様はもう、私たちのためにいろいろとやってくれましたから」
「……」
考えなければならないことはたくさんある。
でも、その前に……まずこの子をどうにかしたい。
何か悩んでいるような気がする。村のとんでもない計画よりも。
何に悩んでいるのか、なんとなくわかるから、彼女をこのままほっとけないんだ。
「……そんな堅苦しい口ぶりは必要ないよ。普通でいいから」
「でも……私たちの恩人に対して、それはその……それに、貴族の方……公爵家の一員ですので……」
言動が堅苦しくなるのをやめようという意見に対して、硬い抵抗があるな。このままでは、話が進まない。
しかも、結局気まずくなって、前の話題から彼女の気をそらすのに失敗する可能性もある。
(あぁ……こういう時、どうしたらいいんだろう? 今まで子供と遭遇して対処してきたはずなんだが……たぶん。覚えていないけど)
どうすればいいのか見当はつくんだが、やっていいのか悪いのかわからない……
(えいぃ! もういい! こうなったら、一か八かだ!)
気まずい雰囲気になる前に、俺は自分の考えを実行に移すことにした。ゆっくりと彼女の頭に手を伸ばして――
「……えっ?」
そして、撫でた。
「大丈夫だ。俺は人を助けようとしたけれど、代わりに世話になっただけのバカだ。だから、そんなこと気にしなくていい。あははは」
「え、いや、それは――」
「君や他の人がそこまで遠慮したり義務感を感じたりする必要はない。俺はただ、自分がやるべきと思うことをやっただけだ」
「それでも……」
「それに、俺がただのおせっかいだったかもしれない。魔物は対処できたようだから。俺がいなかったとしても、きっと誰かが二人を助けたと思う」
ま、まだ現状を知らないから、本当は何も言えないだがな。でも、もう大丈夫だろう。
なんせ、この村の人たちは、俺の死を計画するくらい、暇だからな。あはははっ……
「そんなことはないです! ブラッドフォード様のおかげで、村は救われたのです! 来ていた魔物のほとんどを対処したのはブラッドフォード様です! ブラッドフォード様いなければ、きっと私たちのほとんどは死んでます!」
「お、おぉ……」
モンスターたちを対処した? 誰が? 俺が? 何の話だ?
とう聞きたいところだが......明らかに聞ける雰囲気じゃなな。
「ブラッドフォード様がいなければ……父さんは死んでいた……私は何もできなかった……いてもいなくても関係ないのは私の方です。役に立ちたかったのに、役に立てなかった……私は……役に立ちたいのに……」
彼女は低い声で落胆しながらも、自分の意思をはっきりと口にした。彼女のような小さな子が頑張っている姿を見て、俺は嬉しくもあり、悲しくもあった。
「……大丈夫」
「!!!」
だから、俺は彼女をゆっくり引き寄せて、抱きしめた。
「よく頑張ったじゃないか?」
「私は……何も――」
「あの時、父さんを守ろうとしたようね? 魔法を使って」
「!」
「お前だって怖かったはずなのに……それでも、大切な父さんのために、君は勇気を出した。がんばったんだ。そうだろう?」
「なんで……」
「お前は俺と同じことをした。人を助け……守ろうとしたんだ。怖いものと向き合いながら、それでも誰かを守るために勇気を出して行動を起こすというのは、なかなかできることじゃないよ」
「私は……」
「自分自身に胸を張っていいから……よしよし」
こんな小さい、でも賞賛に値する子に褒め言葉を与えながら、頭を撫で続けた。
だって普通、どんな子供でも、自分の親父か母かが恐ろしい魔物に殴られているのを見たら 悲鳴をあげたり、泣いたり、何の役にも立たないことをするだろう?
なんか言い方がひどいが……事実だろう?
あの時はそれほど気にならなかったのだが、今思い出してみると、さっきの家の中と同じように、あのオーガも泥まみれになっていた。
(きっとこの子の魔法によるだろう。たぶん、一種の地魔法だろう)
あのオークとどれくらいの時間対峙していたのか、彼女がどんな魔法を使ったのか、正確なところはわからない。しかし、一つだけわかっていることがある。
この子の行動は無駄じゃなかった。きっと彼女は自分の望み通り、役に立ち父親を守ることができた。
何しろ、オークが二人に最後の言葉とか言う暇を与えないだろうから。俺が来る前に父親が怪我をしていたのに、まだ生き残っているのは彼女の努力の賜物だろう。
(もし俺だったら、魔物に直接殴りかかるようなバカなことをして、すぐに死んでいたなぁ……あははは)
「でも……父さんがケガをしたのは私のせい……私が自分勝手に行動して、人を救おうとするから……なのに、オークに追いかけられて怖くなって……私が――」
「よしよし……大丈夫だから。確かに……お前は危険なことをした。でも、自分のためにやったわけじゃないだろう? 他の人たちのことを考えてやったんだ。そんなに自分を責めるな」
「……」
「大丈夫、もっとできるチャンスは必ずくる。魔法がうまく使えるようになったら、お前ならきっとちゃんとできるようになる」
「どうしてわかるの……?」
「だって……みんなそこから始めたんだ。俺は最初から魔法が得意だったわけではないぞ。魔法で上達できるように努力したんだ」
「そうなの……? 治癒魔法が使えるほどの実力なのに……?」
「まだまだだ俺は勉強の最中だ。恥ずかし話だが、魔法に関してはまだまだ未熟だ、あはは」
「私も……できる……の?」
彼女は頭を上げ、俺の方を見た。明確な決意を秘めたまなざしで。その視線から、彼女が成長し、魔法を頑張っていくのだろうと、もう想像がつく。
(まったく……応援したくなるなぁ)
「もちろん! 二人で頑張ろうか?」
「……はい!」
ようやく彼女は微笑んだ。年相応に、明るく。
前より、もっと可愛い笑顔で。
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