第7話-異世界転生?
しばらくして、彼女、ローズは俺からすぐに離れた。さっきまで落ち込んでいたとは思えないほど、素早い動きで。
忘れていたことに気づいた彼女は、すぐに俺に自己紹介した。そして、俺が目を覚ましたことをお父さんに伝えて、呼んでくると言って、急いでここから立ち去った。
一瞬、その行動に戸惑ったが、でもすぐに理由がわかった。
(あぁ……そっか、俺たち……体勢が――)
いや、それ以上続けるな。うん、もいい。俺はそれについてコメントするつもりはない。この話題から離れよ。うん。
それより……
いい機会だった。やっと一人になれたのだから、ほっと一息ついて……そして、ようやく自分の置かれた状況について考えることができる。
長いため息をつき、ようやく自分の今の現実と向き合った。
「俺は……俺はケイブラッドフォードじゃない……けど、今の俺は圭ブラッドフォードだ……」
この矛盾は、俺が彼ではないことを自覚していることからケイじている。なぜなら、俺は地球人だから。そしてこの世界……ケイブラッドフォードの世界は――
「ここは……この世界は、間違いなく……ゲーム、異世界フロンティアの世界だ」
その事実を認識した瞬間、突然、耐え難いズキズキとした痛みが頭を駆け抜けた。痛みに耐えながら、手で頭を押さえる。痛みを和らげるために頭を振っていると、ベッドの横の少し開いた引き出しの中に小さな鏡が見えた。
俺はそれを手に取り、鏡に映った自分を見た。
自分の姿を見た後、痛みは消えたように感じられ、代わりに腹の底から不穏なものがこみ上げてきて、苦いものを味わったような気がした。
鏡に映った顔は、俺が思っていた通りの顔だった……
そう、それは俺の顔ではなく――
「本当に……
…………
……
一旦状況を整理してみよう。
俺は……だれだ?
自分が誰なのかわからない……何も思い出せない……
自分自身の記憶がない。
でも、今、俺がケイブラッドフォード自身だということはわかる……最近のことはほとんど思い出せないけれど……過去から回想できる記憶がある。ケイブラッドフォードの幼少期の記憶を。
でも、その記憶はモザイクのようなものだ。記憶の中の声は静的なノイズに過ぎない。過去の記憶は、まるで映画のように部分的に切り取られ、過去の出来事を見せながらスキップしていく。
ともあれ、俺は彼じゃない……ケイブラッドフォードじゃない……それは確かだ。
いったい何が起こっているんだ? なぜ俺はケイブラッドフォードの身体にいる? なぜ、彼の記憶を持っているの?
えいぃ! 最近のことは思い出せないのか?
何でもいい。ただ、一体何が起こったのか、その答えにつながる詳細が必要なんだ!
「うーん……」
ダメだ……どれだけ考えても、眉をひそめても……何も浮かばない。
答えが返ってこないことに苛立ちながら、俺はベッドの後ろの壁に頭をぶつけ続けた。
それからどのくらい時間がかかったか……頭が痛くなってきた。また頭を押さえながら、最初はもう長いこと頭を打っているからだろうと思った。
「……あーっ!!」
しかし、その痛みは刻一刻と強くなり……ついには、頭をひどく揺さぶるような激痛が走るまでになった。でも、その後、痛みはようやく徐々に治まってきた。
そこでようやく思い出した。
「そうだ……俺は……死んだんだ」
でも、まだ何も覚えていない。どうやってか、なぜ死んだのか、まったくわからない。
しかし、このたったひとつの記憶が、あるひとつの答えに導いてくれた……
今ある現実の馬鹿げた説明……
もし俺が死んだとしたら……この状況はつまり――
「俺は、あのゲームの世界で……ケイブラッドフォードとして……転生した」
【異世界フロンティア】
複数の言語にローカライズされ、世界同時発売されたデビュー作であり、非常に物議を醸した人気のあるゲーム。
XXXX年、VRMORPGのアプローチとして、ゲーム開発者はオープンワールドMMORPGに投資し、そして標準となった。
VRMMORPGは、数十年前に大きな期待と興奮をもって迎えられたが、開発には大きなハードルがあった。
バーチャルリアリティを実現し、プレイヤーに提供するために必要な技術は、まだ十分に開発されていなかった。
人間の五感を完全に再現し、ありのままで現実を知覚するように仮想現実を完全に知覚するには、当時の技術では膨大な負荷がかかり、実現には途方もないコストがかかるため、とても実現できない。
そこで、バーチャルリアリティの技術が発展途上であることから、オープンワールド型MMORPGに投資が行われた。
オープンワールドMMORPGは、ゲーム開発者が【バーチャルリアリティの世界を開発するための数ある大きな一歩】と位置づけているように、世界観の再現が可能だ。
グラフィックの豊かさ、ストーリーの深さ、自由度の高さがその三大基準であり、VRMORPGを実現するために必要な変数であった。
それからX年後のXXXX年、小規模なインディーゲーム会社が公開したグローバルオープンワールドMMORPG【異世界フロンティア】は、その3大基準に対して多くの批判と賛否両論を浴びた。
しかし、その結果、世界中から注目を浴び、大きな人気を博すことになった。
にもかかわらず、『異世界フロンティア』、通称『イセフロン』は、多くの競合他社に比べて長続きしなかった。メインストーリーが完結してしまったからだ。.
「発売から1年後かな……プレイした記憶があるが……んん……」
だめだ……今思い出せるのはここまで……
「うーん……この顔、今よく見てみると、悪くないな……うん。俺のと比べたら、ハンサムと言ってもいい。前の顔なんて、こんなもんじゃなかった……へへっ」
鏡で、今の姿を見ている。現在、俺(ケイ)の整った顔が映っている。
「まぁ、自分の顔は覚えていないけどな。あははははっ……って、こんなことやってる場合じゃなかった……」
俺が転生した人物は、『異世界フロンティア』の人気キャラクターの一人、ブラッドフォード公爵家の三男、ケイブラッドフォード。
プレイヤーたちの中では、男女問わず好かれたキャラクターだ。
この世界では、公爵の息子にふさわしい才能と頭脳の持ち主として知られている。
そんな彼に転生というのは、厳密に言えば、俺にとって素晴らしい状況以外のなにものでもない。
しかし、彼はゲームの主人公ではない。
ケイブラッドフォードは、物語の脇役の一人だ。
でも……それはあまり問題ではない。
ぶっちゃけ、そんなことはどうでもいい。
確かに、こだわるなら、主人公に転生した方がよかった。しかし、まさか死んで転生することになるとは思っていなかった身としては、それについてとやかく言うつもりはない。
転生そのものについては……正直なところ、妄想はしたことがあるものの、不思議とあまり実感がない。ポジティブな感情もネガティブな感情も湧き上がってこない。
でも、せっかく転生したのだから、ここはポジティブに、新しい世界での第二の人生を有意義に過ごしたいと思っている。
しかし……
ここで、問題が発生する。
ケイブラッドフォードに関するとても重要なことについてだ。
彼は、大きな重荷を背負っている。
それは彼が生まれながらにして持っているものであり、彼にとっては避けられないものであり、ゲームの中で彼のキャラクターとしての運命を決定づけたものだ。
俺の記憶が正しければ……
ケイブラッドフォードは――
呪われている。
彼は幼い頃からその呪いを知っていた。このことが、彼の性格、諸々の決断、そして彼の人生そのものに影響を与え、決定付けてしまったのだ。
「呪われた人生……生まれてすぐに死亡フラグが立った……」
彼は、どんなイベントや物語の中で何が起きても死ぬ運命にあるキャラクター。文字どおり死のキスをする呪いをかけられている。
その呪いについては、ゲーム中ではあまり深く語られていない。俺の記憶では、呪いについての情報はほとんどないし。いくつかの説はあるにはあるが、どれも確定したものではなかった。
簡単に言えば、つまり……俺、圭ブラッドフォードとして、俺は――
「もうすぐ死ぬ運命にある……と」
やはり人生って……素晴らしいことが起こると必ず裏があるものだな……
「って、そんなあっさりと受け入れてくるか! 何なんだこのクソみたいな状況は!!」
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