第2話-魔物と魔法

「イヤアァァァ!!」


 立ち上がって自分の考えをまとめようとしたとき、子供の悲鳴が聞こえた。


「あぁ、もう!」


 さっきは、目の前で起きていることを考える余裕がなかった。しかし今、やはりさっきまでのように無視するわけにはできなかった。

 

 俺はかすかに、しかし絶え間なく聞こえてくる魔物の遠吠えを頼りに、子供の居場所を探し回っていた。 

 近くにいる魔物の居場所を探してみた。外には見えないから、きっとどこかの家の中にいるはずだ。

 何軒か探してみると、ごちゃごちゃと泥だらけの家を見つけた。そして、その中を覗いてみると――


「いや……来ないで! やめて!」


 オーガのような魔物が人間を襲っている光景を見た。


 魔物はうめき声を上げながら、子供と家の中の怪我をした男に近づいてくる。子供は怪我人を掴みながら、魔物から引き離そうとしている。


「これが、オーガ……魔物……なのか」


 さっきゴブリンに遭遇した。あいつらは俺を追いかけようとしていて、もしかしたら殺されるかもしれない。

 それだけでなく、遠かったとはいえ、他の村で魔物が人を傷つけたり…………殺したりするのを見たんだ。


 しかし、この魔物、オーガの存在感は全く別のものだ。


 この感覚に遭遇したことはなかったが、直感で、殺気 に満ちていることがわかった。圧倒的な魔物の気配を放っていた。


 ――――――――怖い。


 単なる一言だけだが、これまでの人生で経験したことのない強烈な感覚だ。

 さっき見た光景のことは考えないようにしていた。しかし、この魔物を間近で見ただけで、認めたくなかった真実に引き戻される……


 今、俺が見ていること、経験していることは現実なのだと。


 筆舌に尽くしがたいものを感じた。目の前で起きていることに反応できず、しばらく立ち尽くしていた。


「うおぉぉぉ!」

「うぐっ!」


 子供が作ったわずかな距離に魔物が追いつき、その拳で男を殴った。


「いや! 父さんを傷つけないで! やめて!」


 子供は泣きながら傷ついた男の背中をかばおうとした。


「ローズ……早く逃げろ……」

「いやだ!」


 こんな状況にもかかわらず、父親を救おうとする子供の必死の行動に、俺は思わず拳を丸め、正気に戻った。


(何やっているんだ俺! なんで俺はのうてんきにこの状況をただ見ているんだ!!)


「ウオオ!!!」


(!!)


 魔物がまた二人を襲うするが――


(させるか!)


「え……?」


 俺は魔物の横を走り抜け、2人の前に入った。背中でオーガの攻撃を防いだ。

 その攻撃を思いっきり受けて、全身が震え、血を吐きながらよろよろと前に進む。


(くっ……くそがぁー……くそ痛…………本当に……俺は、何をやってるんだ……)


「だれ……?」

「ウオォォ!!」

「「!!」」


 魔物の遠吠えのおかげで、痛みで意識不明にならずに済んだ。しかし、状況は以前と変わらず深刻であることも思い知らされた。

 次にどうすればいいのか、まったく見当がつかなかった。彼らの状態で親子がすぐに逃げ出すことは不可能だった。しかも、俺に数秒以上の時間を稼ぐことは不可能だ。


 痛みに胸を押さえながら、俺は魔物に立ち向かった。

 再び襲いかかろうとしていた。実際、すでに拳を振り上げている。

 このような状況では、時間はゆっくり流れるものだと思っていたが、そうではなかった。


 一歩前に踏み出し、何をすべきか考えている間に体が動いた。


 オーガが俺を狙っているのが見えたが、その攻撃までは見えなかった。しかし、オーガにやられたと思った瞬間――――

 

 俺の体は本能的にしゃがみ込み、魔物の拳を避けた。

 

 その後、俺は何をしたのかわからなかった。

 意識せずとも、すべてができてしまったのだ。


「光よ、眩惑力を与え給え――」


 中二病みたいなことを唱えていた。

 不思議と違和感はなかった。それはまるで俺にとって自然なことだった。

 そして、そのおかげで俺が何をすべきかがわかった。


 もう一度、俺はオーガに向かって一歩前進し、近づく。


(死ね! このクソオーガが!)


「【レイ】!」


 オーガの胸の前で魔法をかけた。光の魔法みたいなものはオーガの体を貫き、ゆっくりと倒れながら死んでいった。

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