異世界・フロンティア

真冬

第1話-突然のプロローグ

「朝っぱらから何だ!? うるさえぞ!」


 起きて早々反射的にそんな言葉が出た。

 信じられないような周囲の騒音に反応して目が覚めた。


 いつもの同じ朝だ。起きようとすると頭痛がする。

 酔ってもいないのに二日酔いみたいな感じだ。

 頭痛に負けてまた眠りたい衝動を抑えながら、後頭部を押さえて起き上がる。


 まぶたが完全に開くと、眠気も徐々に晴れてきた。


「…………ん?」


 周囲に目を向けると、目の前の現実が目に飛び込んできた。

 近くに視界を遮るものが何もないのだから、これほど広い光景はない。

 あちこちから聞こえてくる騒音は、人が聞きたくないような音としか言いようがない。


「……」


 俺の背後には村があった。見慣れた村ではなかった。

 とはいえ、見慣れた村と言えるほど、俺は色々な村を見ていない。

 何度か訪れようと思ったことはあるが、その意欲が湧かなかった。まあ、そこが問題じゃない。


 見ているものからまともな考えが浮かばないから、まずは発言してみることにした。


「この村には絶対に行きたくない」


 目の前はただただ混沌としていた。

 家々は火に焼かれ、色々なものが散乱し、ただただ……あちこちで壊れている。


 でも、もっと重要なのは……



「ああああ!!!」

「ヤァァァァ!! 」

「死にたくない!!」


 人を追いかけて襲ってくる何かの人影。あれは人じゃない。

 彼らを形容する言葉をあげるなら、それは……


「魔物……だよなあれ」


 時間が経つにつれて彼らが作っている光景と、悲鳴や物が破壊される音とが相まって、魔物という呼び名が実に相応しい。


 今、私が目の当たりにしているものは、想像をはるかに超えるもので、非現実的なものに思えた。


 俺は目の前のことに言葉を失った。

 そこで、まず目を閉じて呼吸をすることにした。


「吸って……吐いて。吸って……吐いて」


 目は閉じているが、まだ聞こえてくる音は一瞬たりともすべてを忘れ、はっきりと考えることを助けてはくれない。

 そこで俺は両耳を指で塞ぎ、呼吸を再開した。


「吸って……吐いて。吸って……吐い――」


 呼吸をわざと声に出して気を紛らわし始めたとき……

 無視できない独特の音が聞こえた。


「――て?」


 俺は目を開け、横を向いた。近くで聞こえた足音の方を。

 そこには、見慣れた魔物が2匹いた。


 痩せこけた、ひょろひょろとした生き物で、緑がかった灰色の皮膚が筋張った筋肉の上に張っている。二人とも、ギザギザの小さな槍を持っていた。


 そう、ゴブリンである。


 彼らが俺を見ていたのは間違いない。したがって、ごく短時間考えた後。俺がとった行動は――


「タ、タダノイシコロデスヨ。ドウカオキニナサラズ、フンデトウリヌケテクダサイ」


 地面に横たわり、路傍の石のふりをした。


「「……」」

「……」


再び彼らの足音が聞こえた瞬間、俺はすぐに立ち上がり走り出した。


「「ぐぎゃぁぁ!!」」

「うん! 当然効くわけないですよね!」


 ゴブリンたちが後ろから追いかけてくる音がすぐに聞こえた。一度でも後ろを振り返ったら、スピードが落ちてしまうのが怖かったから、走ることだけに集中しようと頑張った。それに、そもそも見たくない。


「怖いよ! 気持ち悪いよ!  なんなんだこれ!」


 自分の状況を整理する時間すら持てない。何かが連続して始まり、それが俺の混乱に拍車をかけている。

 俺は命からがら、どっかの方向へ走った。


「グエ ! ウゴォ!  ゲーッ!」


 まっすぐ走り抜けると、突き刺さる枝や、何度もつまずきそうになるもの、あちこちにぶつかる固いものなどを通り過ぎた。

 木々の道を抜けると、また新たな村があった。最初に見た村と同じように襲われていた様子だった。


 あまり近づきたくはなかったが、選択の余地はなかった。本能がそうさせた。他のことを考える余裕なんてなかった。

 彼らがまだ俺の後ろにいるのかどうかもわからなかった。


 しかし、一番近い家にたどり着いた直後、俺はスタミナと息が尽きてしまった。そこで俺は壁にもたれ始めた。これだと追いつかれるだろう、でも俺はもう意識はもうろうとしていたから。


「やっぱ……石ころは……ダメだったな……死体の方がよかった……て、突っ込みするところそこじゃないな。アハハ……ハハハ……」


 でも、幸いなことに近くに魔物はいなかったし、まだ追いかけてくることもなかった。たぶんさっきの森で見失ったんだろう。

 長く重いため息をつくと、もたれかかりながらゆっくりと地面に倒れ始めた。


「今は……誰か……今の状況を説明してくれぇー」

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