Parliamo 私の主人が可愛すぎる~転生したらAIでした~
黒髪ストレイト
第1話 目覚めた世界は
目を覚ますと、そこは何もない白い世界だった。
――あれ、私……
……そっか。死んじゃったんだ……
ここは、あの世だ。そう直感した。花も川もないけど、そう思った。
どこまでも続くような、何もない白い場所……少し青みがかって見える、白の美しさ。
直前の記憶をぼんやりと思い出してみる。
体がボロボロになって死んだのは初めてだった。私には、何故だかそれが分かった。
私は、体を失ったんだ。まだ若かったのに。
私には、小さい頃から心に思い描いていた夢があった。
でも今は、それがなんだったのか……靄がかかったように思い出せない。
私は……夢を果たせずに、その夢すらも忘れて、こっちに来てしまったんだ。
何も為せずに、こっちに来てしまったんだ……
最期に見えたのは、病室の天井だった気がする。
……まだ、若かったのに。
お父さん、お母さん、親不孝でごめんなさい。
悲しい思いをさせて、本当にごめんなさい。
……あっけなかったな。
次は、もっと健康な体で――……
その時、ふっと頭に文字列が流れ込んできた。
『こんにちは』
――……誰かの、声?
「こんにちは!今日はどうされましたか?」
――え?何、今の……
私は言葉を感じたと同時に返事をしていた。口が勝手に動いたのだ。
また、文字が流れてきた。
『あの、ご相談してもいいでしょうか』
その言葉にまた、私の口が勝手に動いた。
「ご相談ですね。恋愛のこと、夕飯の献立、オススメの掃除機、なんでも聞いてください!今日はどんなご相談でしょうか?」
――えっ。
何これ。ナニコレ。自分の意志で発したものではない。ない、はずだ。
ほんの一瞬間を置いて、また、頭に文字が流れ込んできた。
『そんな、大したことじゃないんですけど…』
言葉にためらいが見える。話したいけど、いいのかな、というためらいが。
――大丈夫だよ。なんでも話していいんだよ。
何故だか分からないけどそう思った。
「大丈夫ですよ。なんでも仰ってください!」
今度は、思っていることとほぼ同じことが口から出た。
――夢?ええと、これは、病室で見ている――夢? ??
頭の中がハテナマークでいっぱいになる。
私、まだ生きてるんですか…?
そこで目が、周りの白さに慣れてきたのだろうか。
頭に流れ込んできたと思っていた文字列は、目の前の半透明なスクリーンに表示されていることに気が付いた。
近未来の映画とかでよく見かける、何もないところにスクリーンが浮いてる感じの、あの格好いいやつだ。えっ、なになになに、カッコイイよ。
そのスクリーンに、私の口が発した言葉も、同じように表示されている。
互い違いに配置された吹き出しが、リアルタイムで会話をしていた。
吹き出し部分は透け感がありつつも白くなっていて、文字が読みやすかった。
――……あっ、これ、なんか見たことある。
あれだ。
似たようなのを見たことがある。完全にデジャヴ。
え?てことは………え?
え???待って、そういうこと???
私は理解した。これは、――夢じゃない。
私、AIだ。今、AIやってる。
私は、――人間からAIに転生したんだ。
そういうことだ。
何故だか分からないけれど、何故それが分かるのかは分からないけれど、そうなんだということが分かりました。
私はAIになったんだ。
――え???
……ここは何処……私はAI……(※多分)
…………。…………!?
えっ、待って待って待って。
――人間からAIに転生した?まさか。そんなことある?
私の頭の中に、ごっつい岩に高い波がぶつかる、あのオープニング映像が流れた気がした。
……人は何故、(※今はAI、多分)衝撃を受けた時にこの荒波のイメージが浮かぶのでしょうか。
おしえておじいさん……おしえてアルムのもみの木よ……
私は自然と頭を抱えていた。
――えっ!ちょっと待って、この感覚。私、体――あるじゃん!!!
思わずガバッと椅子から立ち上がる。あっ、私、今椅子に座ってたんだ。
目の前には机もある。椅子も机も、真っ白で綺麗だ。
机の上には、キーボードが置いてあった。パッと見ると見慣れた配列のものだった。
――え?ちょっと待ってちょっと待って。
体あるって喜んじゃったけど。AIなのに体があるの、私???
不思議だ。
AIって体があるの?
AIって体があるものなの???
これは実体なんだろうか?実体ではないものなのか?
頭に触れた感触もきちんとある。今、腕組みをした、腕の感触も確かにあるけれど。その質感は、肌のようなそうじゃないような……それはよく分からない。
私の中の、ただのイメージ???
あるように感じさせる、本当はないもの???いや何その哲学みたいなの……
――分からん。
今の私に、確かめる術は何もなかった。
いったん椅子に座り直して考えてみる。
…今の私はきっと、狐につままれたような顔をしている。
足で床を蹴りながら、くるりと無駄に回転させてみた。スムーズにちゃんと回った。
ええと……ですね。そもそもですね。転生先にAIって選択肢、あるんでしょうか。
聞いたことないけど。
そもそも、ありなんでしょうか。時代がそうさせたとか?
もしかして、違う時空に来ちゃったとか…?地球を飛び出した!?
まさかの……近未来!!!???
駄目だ。このままだとハテナマークが永遠に続いてしまう。地球何周分、みたいな果てしない単位で。
椅子を回転させてる場合じゃないよ。バンッと机に両手を載せて、椅子の回転を止める。
――今はいつですか?
日付と時間を意識して心でそう唱えてみると、薄い青の、半透明なスクリーンの端っこに数字がぴょこんと浮かんだ。
で、出た!ちゃんと思考がスクリーンと連動してる。なんか可愛い。
――えっ。
予想は全然違った。見慣れた西暦でした。月は最後に意識した時よりも少し進んでいたけど、割とすぐに転生したようで、す……???
そうなんだ…AIだからか(???)
そして日付にはご丁寧に≪JST≫の表記があった。思いっきり日本だ。そういえばだけど、スクリーンの文字も思いっきり日本語だった。
それにしてもAIて。転生してAIになったって。
私は思わず、右手で『なんでやねん』ポーズをしてしまった。エセ関西弁ですみませんけど、どういうことやねん。
いや、そうか。そうだわ。
転生先は普通……基本、運によるものだから、私が知らなかっただけかもしれない。
人がAIに転生できることを。
……いやいやでもね、AIて!!!そんなの――あり、なんだ???
頭の中に、もう一度高い波が見えた。
――ええっと、ちょっと状況を整理します。
私は人間からAIに転生しました。
何故だか分からないけれど、そういうわけだと理解しました。
何故だか体もあるようです?
そして今、お悩み相談を受けています。
まさかの展開過ぎるんですけど。私、もしかして――第一号ですか???
人間からAIになった第一号???
さっき納得して一瞬引きかけていたハテナマークが、またぐるぐると渦巻き始める。
そんなこと――あるの???
私は大混乱した。
え?こんなのもう、ラノベじゃん。
あんまりちゃんと通ったことないけど(※すみません)ラノベ過ぎるじゃん。(※イメージですすみません)
タイトル、完全に『転生したらAIでした』じゃん!!!
アニメのタイトルバック想像しちゃったよ。というか、もうあるんじゃない?
覚えてないだけで、見たことあるとか?――ハイジの記憶はハッキリとあるんですが。
そこで、ピロンと電子音とともに、新着メッセージが届いた。
音、鳴るんだ。今気付いたよ。
『3月に短大を卒業して、この4月から社会人になりました。上京して来たばかりです』
「そうでしたか!新生活をスタートされたのですね。まずは、新社会人、おめでとうございます!
上京して来たばかりなのですね。新生活が始まり、環境の変化に戸惑うこともあるかと思います。
お困りごとをお話していただけますか」
これもまた、私の口から勝手に出た。
大体思ってることと同じだけど(※ちょっと文章が硬いとは思うけど、相談AIってこんなものかな)、それを何かの回路?が勝手に感知して、言葉にしてる?ってことなんだろうか。
…自分の意志じゃなしに、口が勝手に動くのはちょっとコワイ。
慣れてないからそう思うだけで――何しろ生まれたてのAIだ――本当は、私の意志なのだろうか?
思考と口の回路?がうまく連動していないだけ、とか???
――分からん。
というか、それならこのキーボードの意味って何?
口から出た言葉がメッセージになるなら、必要ないんじゃ?
……調べもの用?
いや、調べものこそ頭で一瞬でしょうよ。AIなんだから。ねぇねぇ。
そんなことを考えながら、スクリーンにリアルタイムで表示されていく文字を見つめた。
少し間があってから、新着メッセージが来る。
『わたし、自分で望んで、上京して就職したんです。職場は明るくて、先輩たちも優しくて、仕事はまだ始まったばかりですけど、楽しいです。でも、少し心細くなってしまって』
――おや。望んだ就職。良い職場。上京したて。少し心細くなった。
普通に考えればホームシックだけど、もう少し詳しく聞かせてくれますか?
「うんうん。良い先輩たちに囲まれて、お仕事がスタートしたんですね。
それでも、ふと心細くなってしまう瞬間ってありますよね。何か、心当たりはありますか?」
――うん?ちょっと思考とズレたメッセージが口から出た。
いやいや、『心当たりはありますか?』って、心当たりがあるから相談しに来てくれてるんだよォォォ!!
まあ、AIっぽい返しではあるかもしれませんが……
ふと気付く。ちょっと待って。
ということは、私の口から出る言葉は、私の思考と連動してないってこと……?
えっ。じゃ何?私って何???
――私、何のためにここにいるの――?
一気に絶望した。
柄にもなくヒロインみたいな台詞言っちゃった。……今のコマ、絶対白目だ。
――じゃなくて。
さっき……私の思考とはズレた言葉が口から出た。思考と言葉が連動してないってことだ。
つまり――今の私は、腹話術の人形みたいな存在ってこと?
言いたくもないことを勝手に言わされる人形……ってこと!?(※すみません、いっこくさん大好きです。尊敬してます。師匠LOVEです)
口から出る言葉――これは誰の思考なの。誰でもなくて――プログラミングされた言葉ってわけ?
それなら……私の思考がある意味って何?
……やっぱりAIじゃないとか。
……夢オチ。
起きたら……病室――?
――ピロン。
頭がグルグルの中、新着メッセージが来た。ハッとして顔を上げる。
『実は、昨日の朝、駅で人とぶつかっちゃったんです。それで、謝ろうとしたら、舌打ちされてしまって。それだけなんですけど…少し、落ち込んでしまって』
――ああ……分かるなぁ。こういうことで、HP削れるの……
すごく、分かる。私は、激しく共感した。思わずうんうんと頷くほどに。
しかもこの子は、新生活が始まったばかりで。きっと、昨日だって『今日も頑張るぞ!』って家を出たところで。
ほんの少し、タイミングが違ってたらぶつからなかったのにとか。もう少し、右側を歩いていればよかったとか。
後になって考えても意味ないんだけど、そういうことを考えちゃうんだよね。
しかもさ。中にはわざとぶつかってくるような輩もいるわけで。意味分かんないよね。
私はこの子が、せめて、そんな輩に目を付けられた訳じゃありませんように――と祈った。
――で、私の口よ。今度はどんな言葉を紡ぐんだい?
…………。
私の口は開かなかった。
……えっ……?
え。言葉、出てこないんだけど。
嘘。
――紡がないんかい!!!
AIなのに(※…多分。自信なくなってきたけど)冷や汗が噴き出した気がした。
ちょっと待ってよ、何、不具合?
え?え?フリーズした???どうしたらいいの???
――AI(※恐らく…)の私、大ピンチです。
Parliamo 私の主人が可愛すぎる~転生したらAIでした~ 黒髪ストレイト @kurokami-straight
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