第2話 モチベーション
「何が『実働はお父さんに頼みたいねん』や。なんで父ちゃんが、お前の宿題やらなあかんねん。」
僕はアホらしくて、読みかけの小説を本棚から取り出して、ソファに寝そべった。
エアコンの冷気が直撃して、まとわりついた熱気を吹き飛ばす。
「ちょ、ちょっと待ってや、お父さん。」
康太が慌ててテキストを放り出してやってきた。
「僕、自由研究が好きやねん。いろんなことを教えてもらって、へーって思うのも好きやけど、自分でテーマを決めて、研究したり調べたりするのって、おもろいやんけ。」
康太の目は輝いていた。
僕は、自分が子供の頃に、こんなふうに学ぶことに対して面白みを感じたり、積極的に取り組むことがなかったことを思うと、康太の自由研究に協力してやりたいような気もする。
僕はごろついたまま、
「研究するテーマ、決まってんのか?」
そう言うと、康太はソファに飛び乗り、
「え、手伝ってくれんの?」
と、嬉しそうに僕を見た。
そんな目で見られたら、父親としても協力しないわけにはいかない。
「せや。手伝ったる。でもな、自分のためにも、お母さんのためにも、塾の勉強も頑張んねんで。それが父ちゃんが手伝う条件や。」
「ありがとう。ほんまおおきにやで。うわー、どうしよう、何を研究しよ? ちょっと待ってな。」
「何も今決めんでもええがな。ゆっくり考え。」
しかし、康太は僕の声など耳に届かない様子で、
「ねぇ、自由研究のテーマ、何がええやろか。」
と聞いてきた。
僕は本から栞を取り出し、片手で本を開いたまま康太に、
「父ちゃんが決めてええんか?」
と聞いた。
「まぁ参考意見を出すのは自由や。いい案やったら採用しないこともないで。」
「ごっつ偉そうやな。」
僕は呆れて言った。
「そら、自由研究のプロデューサーやからな。」
康太は、プロデューサーを巻き舌で格好良く言おうとしたが、下手すぎて、ろれつが回っていない酔っ払いみたいな言い方になった。
僕は苦笑して、
「せやな。定番なのは、月の観察や塩の結晶を作ったりとか、そんなもんか?」
僕の提案に、康太は明らかに不満そうな顔をした。
「そういうありきたりのじゃないねん。そんな『自由研究をしよう!』的なテキスト本にあるみたいな典型的な研究の、どこが面白いねん。」
「まぁ、そうやな。」
「そもそも、月を観察したり、塩の結晶を作ったりしたいのかっていう話やん。お父さんはどうか知らんけど、僕はしたないで。」
「いや、父ちゃんもしたないけどな。」
康太は自分の顎を右手でさすりながら思案し、
「やっぱり、自分がしたいことでないと、調べようとか研究しようっていう気にはならんやろ。モチ、モチ、モチ……何だっけ? 上がらないやつ。」
「モチモチパンか?」
僕が笑いながら言うと、康太も、
「なんでパンやねん。モチモチパンは最高にふわふわでおいしいけど、ちゃうがな。」
と笑いながら答えた。
「モチベーションか?」
「それそれ、それやがな。そのベーションが上がらんやんけ。」
言葉が見つかって嬉しそうな康太に、僕は冷静に、
「実働でやるのは父ちゃんやけどな。」
と言った。
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