【カクヨムコン11連載版】この夏、僕たちは「こい」という字をまだ知らない ~無自覚白豚王子はサバサバ系狼女子をとことん幸せにしちゃいます~
第23話 ソフトボールチーム【安芸ホワイトピック&ライオンズ】
第23話 ソフトボールチーム【安芸ホワイトピック&ライオンズ】
「おぉぉっ、でっけぇ!」
開口一番、リムジンを見てのキッズ達の反応。そして、運転手の龍宮亀さんが、恭しく礼をしドアを開ける。新汰が、助手席を陣取った理由。この美人運転手、亀さん狙いである。おい、彼女もち。理彩さんに、密告しちゃうよ?!
続いて翁が降りて、
「嘆かわしや、白兎様。何のために、一番に下車いただいたと思っているのですか?」
いや、ごもっとも。理屈は分かるけど、僕にエスコートされるよりは、爺にエスコートされる方が嬉しいと思うんだ。
「ハク、よろしく?」
すっと舞夏は手を差し出す。やけに慣れて――そこまで思って、過ったのはよくない無責任な声。
――安西、パパ活してるから絶対、男に慣れてると思うんだ。
――分かる。
――金積んだら、ヤらせてくれるかな?
――お前、頼んでみろよ。
――ムリムリムリ! あんなニコリとも笑わないヤツ、絶対に無理だって!
下卑た笑い。
それを頭の底から追い出して、手を差し伸べる。元気になく、蝉達の求愛が今は、むしろ快いって思ってしまう。結局、僕も彼らと一緒だ。舞夏を色眼鏡で見て、噂を尺度に定規で測ろうとする。
普通に考えて、舞夏にそんな時間なんかない。だいたい、弟君や妹ちゃんと接する舞夏を見ていたら、そんな子じゃないことぐらい、すぐ分かる。何より、舞夏には
「いっ
何故かいきなり、舞夏が力をこめてきた。キックボクシングで培った、握力37kgの本気(極悪アンアン情報)。マジ、やめて?
「ぼ、僕……何かした?!」
「邪悪な波動をハクから感じた」
「理不尽すぎない?!」
「お兄ちゃん、次は私!」
「鳴も!」
今度はこちらのお嬢様方をエスコートですか。やれやれ、モテる男も辛いですなぁ、なんて呑気に構えていた自分を呪いたい。
良いかい、白都。引き金を引き絞ったら、弾丸はもう止まらないのさ。そうダンディーに囁く余裕は、僕には残念ながらなかった。
「ぶべらっ?!」
車から飛び降りて容赦なく抱きついてきた明比ちゃんと鳴ちゃん。未だ、手を離さない舞夏。
そう淑女二人を、片手で受け止めようなんて、どんなに包容力があるナイスガイでも無理なのだ。
紳士のエスコートは、いつから肉弾戦になったんだろう。
「音哉じゃん!」
「音哉、一緒にプレイできるの?!」
「めっちゃ嬉しいっ」
「音哉、新汰パイセンと白兎様とどういう関係?」
「え? え?」
良きかな、良きかな。やっぱり、持つべきモノは友達なのだ。
空いたブランクなんか関係ない。
正直、短い期間しかソフトボールができなかった僕には、そんな音哉君達が羨ましかった。
■■■
「音哉君、ユニフォーム似合うじゃん」
グランドを眺めながら、僕は満足。何度もうんうん頷く。
「ハクのお古?」
「残念。流石に、僕のサイズじゃ合わないから、新汰のだよ」
「じゃぁ、ハクのは誰にも渡してない?」
「そりゃ……探せば、家にあると思うけど」
え?
舞夏、鼻息荒いのどうして?
クールな舞夏さん、帰ってきて?!
「でも、ちょっとユニフォームが違う?」
「おぉ?! 明比ちゃん、そこ気付く?」
「ほっほっほっ。この爺やが説明いたしましょうか」
ぬっと出てきたのは翁だった。この猛暑、執事服を身に纏いながら、まったく汗をかいていない。
「いや、良いって――」
「「「「聞きたい!」」」」
女子三人と孔君が声を合わせる。最早、僕には拒否権はなかった。
「ふふふ、もともとは安芸サンサンファイターズというチーム名でした」
そうだったよね。この当たりの太陽町にちなんだ、名前だった。
「連戦連敗のサンサンファイターズに、救世主というべきバッテリーが現れたのです」
爺、チラッとこれみよかしに僕をチラッと見るの止めて。恥ずかしいから。それと、そんなに強くなかったから。
「ピッチャーの名前は剛田新汰。そして、キャッチャーは樋ノ下白都。このバッテリーを豪速のライオンと不動の白豚。新汰様のボールを取れるのは、白都様のみ。二人を称し、ホワイトピック&ゴールドライオンと呼ばれ、他のチームから恐れられるようになったのです!」
「すげぇぇぇっっ! 白兎たそと
孔君がテンション高く叫ぶところ悪いけれど、弱小チームだからね? 連敗がストップしたぐらいで、成績は全然だったから。
「そうなのです、孔様。特に伝説となった、近郊大会準決勝。あれは手に汗握る名勝負でした。新汰様のピッチングに粘る打者。ひたすらのファール! 白都様が安定の指示での持久戦! 目を閉じればあの時の戦いを思い出し――クラクラします」
「それ、熱中症じゃない?! 爺、今すぐ水分補給!」
僕の一声にすぐ水筒を差し出す明比ちゃん、マジ天使!
「ぷはっ。明比様、大変美味しゅうございました。生き返りましてございます!」
若くないんだから、無理しないで欲しい。終わる頃に呼ぶから、そのタイミングで来てくれたら良いのに。爺は本当に律儀だ。
「川向こうのお花畑から妻が手招きをしておりました!」
「奥さん、まだ死んでないよね? なんなら樋ノ下本家の厨房を取り仕切っているよね?!」
「白都様、そんな些事は良いのです。今はホワイトピック&ゴールデンライオンについてで御座います!」
「いや、もう良くない?」
「「「「聞きたい!」」」」
安西家のテンションが高くて、引いてしまう。舞夏、お願い! 今だけはクールなオオカミさんに戻って!
「とはいえ、後は少し切ないお話になってしまいます。白都様のお母様。つまり都お嬢様が離婚された時期と重なりました。その状況で、白都様はチームを退団。当然、バッテリーは解消。白都様を追うように、新汰様も退団されたのです」
「……もしかして、ハクと剛田って仲良しなの?」
「親友って思っているけど――痛い、痛い! なんで、そこで僕の手を握りつぶそうとするの?!」
「別に」
ふんっ、と舞夏がそっぽ向く。今ここでオオカミ舞夏さんに戻らなくて良いと思うの。
「お話を続けさせていただきますね」
こほんと爺が咳払い。いや、まずこの現状をなんとかするべきじゃない?
「この伝説のバッテリーにあやかり、チーム名を安芸ホワイトピック&ライオンズに変更し、今に至っています。現在のチームメンバーにとって、白都様と新汰様はまさにレジェンドというべき存在なのです!」
べべん。どこから取り出したのか、扇子を叩く様はまるで講談師のよう。でも、重ねて言うね。弱小チームのバッテリー。そんな美化するようなものじゃない――
ふぁさっ。
舞夏が、僕の髪を撫でる。
「ま、舞夏?」
僕は目をパチクリさせる。でも舞夏はお構いなしに、僕の髪を撫でる。汗で滲んで不快感が勝るはずなのに。本当に、お構いなしに。
「ハクも、ソフトボールしたかったよね」
その囁きは、グランドの球児たちの掛け声に、かき消されて――。
「それでは音哉様を応援しましょうか」
「「「おぉぉっ!」」」
年下組の声が、元気よく反響したのだった。
■■■
――と言っても、明比ちゃんと鳴ちゃんの集中力が続くはずもなく。ほどなくして、小学校周辺を散策することになった。爺と孔君が残って応援すると言ってくれたのは救いといえる。
「お兄ちゃん、レッツゴー!」
「ゴー!」
明比ちゃんを先頭に、右手は鳴ちゃん。左手は舞夏に占有されている。人一倍、汗っかきな僕だ。脂っぽい感触、気持ち悪くないのだろうか?
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
くるっと振り返って、明比ちゃんがニシシと笑む。
「お姉ちゃんのエスカレート、よろしくね?」
「エスコートのこと?」
「そうとも言う!」
うん、そうとしか言わないけど。でも、そこまで言われたらね。仰せのままに、と応えるしかないじゃないの。
「じゃ、しっかりエスコートしてもらっちゃおう」
舞夏が嬉しそうに笑って――それから、僕の腕に抱きつく。
「あ、あの。舞夏、さん? その僕、汗かいているから……」
「ハクの匂いは落ち着くから大丈夫」
確かに発言がエスカレートしています。明比さん!
「いや、あのね……?」
「お兄ちゃん、良い匂い。落ち着くっ」
鳴ちゃんまで、きゅっと抱きつくから動きにくい。
「じゃ、明比も~」
今度は、明比ちゃんが前から抱きついて――。
「
声がする方を見れば、茶髪の男子達がニヤニヤ笑いながら歩道を塞ぐ。
高天原君の取り巻き、陽キャな皆さんだった。
この時間帯、やかましく鳴く蝉が声を潜めて。
鳴ちゃんが、彼アラの強い視線に怯えるように、僕の背中に隠れた、その瞬間。
グランドから、バッドにボールが当たる音が。そして歓声が響き渡った。
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