第24話 Te(て)Te(て)Te(て)天使の羽根!
「ブタ活するならさ、俺らと遊んだ方がよくない? お値段、何万円から?」
ニヤニヤ笑う三人を見やりながら、最低だって思う。よりによって、明比ちゃんや鳴ちゃんに聞かせて良い話題じゃない。
舞夏は噂が流れても、肯定も否定もしない。そもそも、それが問題だ。彼女の何を言われても流されない、泰然としたスタンスは美徳だって思うけれど。それが噂に尾鰭をつけているのは事実で――。
「……そもそも、誰?」
舞夏の一言に場の空気が凍りつく。君の幼馴染みの高天原君と仲が良い、陽キャの皆さんだって! 知らないわ、流石に無視レベル。
「ほら、6組の田辺君と、7組の沢井君、宍戸君だって!」
「「「誰だよ、それ!」」」
Oh……。フォローしたつもりが、名前を間違ったらしい。全滅だ。
「
「
「
「「「三人揃って! 俺達は!
歌うように息ぴったり。とりあえず、拍手してあげた。高天原典司君が浮かべる天使スマイル。その親衛隊だから、天使の羽根を名乗っている。
この人達、学校行事で活躍するから、女子達に人気なんだよね。
「制服着てないから、誰か分からなかった。でも、やっぱりよく分からない。行こう、ハク。時間の無駄。アホに付き合っている時間はないから」
「あ、うん。それじゃ、天使の皆さん、ご機嫌よう」
「お、おぅ。ご機嫌よ――じゃねぇぇぇっ! 舐めてるのか!」
田野中君が喚き散らす。
「そのニキビ顔を舐める? 冗談は顔だけにして。お金、詰まれてもイヤ」
舞夏さん、ストレートすぎる。完全オオカミモードだった。
「はぁっ?!
どうやら舞夏の態度が逆鱗に触れたらしい。そして案の定、矛先は僕へ。こういう時は、〝うめぇ棒〟が円満の秘訣だけれど……しまった、僕が全部、食べてしまったのだった。
「むしろ、私の方がお金を積んだ」
「「「はぁっっ?!」」」
三人が大絶叫。うん、色々と誤解を生んでいる気がします。僕はあくまで子守のバイトで。パパ活とは無縁です。ちゃんと、そこは説明しないと――。
「ね、パパ?」
舞夏、にっこり笑ってウインク――できていないよ。両目、瞑っているし。
「「「な、な、な゛?!」」」
「……あの、これは、あくまでバイトでして……」
「高校生がそんなバイトしたらダメだろ!」
鹿威君、目が真剣。でも、先に舞夏をお金で買おうとしたの、君達だよね?
「考えなおせ、安西。一夏の想い出は、俺達と作ろうぜ。絶対に、喜ばせてやるから」
「え、絶対にイヤ」
舞夏、徹底的に拒絶の構えだった。
「だって、ハクが良いもん」
「「「は?!」
「へ?」
このタイミングで、そんなこと言う?!
「安西、お前センスが終わってるぞ?! どう考えても、趣味が悪すぎるって。金のためなら、なんでもするって噂、本当だったんだな。いくらだ! いくら金を払ったら――」
田野中君が必死すぎる。
「嫌、無理、絶対に無理。ハクと比べるまでもない。ハクの大きさに天使のハゲが敵うはずがない」
舞夏さんの絶大なる信頼が重いのですが、それ主に物理的な体重の話ですよね?
それと、天使のハゲじゃない。彼らは天使の羽根ね。歴史の教科書に出てくる某宣教師さんを彷彿させるから止めて。教科書落書きランキング、No,1。なお、これは新汰の教科書調べです。
「「「俺達はハゲじゃないっ!」」」
ごもっとも。皆さん、ふさふさです。そこは太鼓判を押す。ただ、もう少しケアしないと、髪が傷んでいる気がします。
「だって、お兄ちゃん、大きいもんね」
「ね~」
このタイミングで、明比ちゃんと鳴ちゃんの援護射撃は痛い。イタすぎるから。
「……幼女が、
言いがかりが酷い。むしろ、あの時は僕が被害者なのだ。
「沢平良君も舞夏も未成年だから、やっぱり、そういうのは良くないと思うよ?」
「うるせぇっ! そんなことを言っているんじゃねぇ――って、呼び捨て?」
今さらながら気付く沢平良君と、僕。慌てて口に手を当てるが、もう遅い。
「……って言うか、安西? お前、
「悪い?」
「あ、いえ。あの……え? お前らって、そういう関係?」
「どういう関係かって聞かれたら、ご想像にお任せするとしか言いようがないわね」
クールに言うけど、僕の腕に抱きついたまま言う台詞じゃないと思うんだ。
「あ、あり得ねぇ。あり得ないだろ! だって
と、逆上した田野中君が、舞夏の腕を取ろうとした、その瞬間だった。
ぴしゅー。
水が放物線を描いて、田野中君の鼻をめがけて、鳴ちゃん秘蔵の水鉄砲が飛び、見事に着弾したのだった。
「てめぇっ! ふざけるなよっ!」
「ふざけてないっ!」
鳴ちゃんが真っ直ぐに見て言う。さっきまで、僕の背中に隠れていたのがウソのように、腹の底から声をあげる。
見れば、舞夏が我慢できずに、その足で蹴り上げようとした瞬間で――かろうじて、その足が止まる。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんを、バカにするおじさんなんか大嫌いっ!」
「「「おじさんっ?!」」」
子どもの発言は、時に無情である。そして容赦ない。鳴ちゃん、その人達、僕や舞夏と同学年だから――なんて言っても、火に油を注ぐだけな気がする。
「悪は魔法少女プリキューンが倒します!」
明比ちゃんがポーズを決める。その手に持っているのは、防犯ブザー。不審者が多い現代社会において、保育園児や小学生の必需品である。
「変身! 魔法少女プリキューン!」
「へんしんっ ぷりきゅーん!」
二人のポーズが決まってる。
「お兄ちゃんも!」
「え……僕も?」
こういう時の鳴ちゃんは容赦ない。僕も二人に合わせて――やっている場合なんだろうか?
|Biiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii《びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ》!
そうこうしていると、耳が痛くなるくらいの警告音が響いた。
「変なおじさん!」
明比ちゃんが、全力で叫んだ。
「変なおじさんったら、変なおじさんっ!」
どうしよう。緊迫した場面ですが、合いの手を入れたくなる僕がいます。
■■■
「不審者だって?!」
新汰の声。そして足音が響いた。そりゃ、そうか。小学校の近くでこんな騒ぎになれば、監督や保護者が駆けつけてくるのは当然。何より、ソフトボールチームの保護者は熱い人が多かった。どうやらその伝統は継続中のようだった。
「……剛田がなんでココに?」
口をパクパクさせるが、もう遅い。新汰や爺、そして監督をはじめとした保護者、選手のキッズ達が彼らを囲んでいる。
「新汰、知り合いか?」
監督がバッドを肩に担いだまま、新汰に視線を送る。
「学校のヤツっすね。調子こいてナンパしてイキがってる奴らです。だから、知り合いという程のレベルでもないですけどすけど」
そう言いながら、田野中君を抵抗できないよう腕を拘束する。
「剛田、痛い! ちょっと、関節がヤバい、ちょっと待て! 話せば分かるから――」
「……安西姉妹、何があった?」
田野中君の抗議は無視して、新汰が聞く。
「えっちな話ばっかり」
「お兄ちゃんにどれだけお金を出したら、えっちできるかって聞いていました!」
鳴ちゃんの発言は理不尽。そして、明比ちゃんの発言は事実そうだったんだけれど、聞く人が聞けば、僕狙いに聞こえてしまう。
「おい、クソガキ 勝手なことを言ってんじゃ――」
安芸ホワイトピック&ライオンズ監督。
田島不動産社長、田島辰彦。45歳。かつては、走り屋集団・安芸疾走疾駆集団【朱雀春風】の初代
タコさんは、両手の指を組んで関節をポキポキと鳴らす。
「上等。うちの白都に手を出そうなんて、ふてぇ奴らだ。翁の爺さん、止めるなよ」
「ほっほっほっ。後ほど、本家の若衆がお話をさせていただきますので、お手柔らかにお願いしますぞ、タコ殿」
「承知、だぜ」
「あ、あの。色々と、誤解があるというか、その。お話を――」
田野中君の声が上擦っている。
「たっぷり、これからお話しようじゃねぇか」
新汰が楽し気に嗤う。
「ちょっと、やり過ぎはダメ――」
「ハクは良い人過ぎるよ。でも、それと今回のことは別問題だからね」
ぐいっと、舞夏に腕を引かれた。
「私ね、ハクを馬鹿にしたあの人達のこと、ちょっと怒っているんだ。この怒り、ハクが宥めてくれない限り無理。爆発しちゃうかも」
「え……?」
人の輪から抜けたかと思えば、舞夏はそんなことを言う。
「頭をなでなで、良い子良い子して? 明比と鳴にはいつもしているでしょ?」
そういえば、今は鳴ちゃんの手が離れている。確かに可能ではあるけれど――。
「精一杯、我慢したんだから。本当は、蹴り潰そうって思ったぐらいなんだからね」
キックボクシング女子の一言が恐ろしい。僕まで、股間がきゅんってなる。
「怒るのも我慢したよ? 良い子だったでしょ? いつでも良い子でしょ?」
そう言われたら――。
良い子だ。
いつだって、舞夏は安西家のために頑張っている。
それをこの夏、本当に痛感している。
「……うん、舞夏は頑張っているよ」
「ハクにそう言ってもらえるの嬉しいっ」
ご所望の通り、髪を撫でる。
僕にできることはといえば、それぐらいだけど。
舞夏が気持ち良さそうに目を閉じた、その瞬間――。
「「「ごめんなさい、ごめんなさいっ! ごめんなさい!」」」
天使の羽根、三人組の絶叫が、夏の青空に響き渡ったのだった。
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