第6話 白豚君のバイト許可と安西家の諸事情について(解説回)
ご当地密着食い道楽系美少女Vtuber、
ゴスロリ
現実とバーチャルを複合させて。かつ、違和感のない動画編集は新汰の独壇場。そして安芸白兎である。時々、言葉の端々に男のようなガサツさが溢れるのが、思考に萌えるとはネット住民の弁。そりゃ、そうでしょ。僕は男だし。
ただ、ネット住民達が推してくれる理由は別にある。
「
食卓でタブレット端末を見やりながら、ワクワクしているのは僕の母さん。
新進アパレルブランド――
一方、こんな僕にも父と言われる
成長する僕を見て托卵の子だと信じられなくなった元父。
まぁ、気持ちは分からなくもない。父はロックバンドのボーカル。母は元アイドル。夫婦そろって美男美女なのだ。そんな二人だから、僕みたいな子が産まれたらそりゃそうでしょと思うが、母さんは違った。
多分、本気でキレた母を見たのがアレが最初で最後。自分の愛を疑われたことに対してじゃない。僕のことを疑ったことに対してだった。
――君は白ちゃんのことを何も見ていなかったんだね。
こんなに可愛いのに。
こんなに優しい子に育ったのに。
こんなに真っ直ぐなのに。
僕に対して、母さんは暖かい。
でも、父だった人に対しては、とても怜悧で。
DNA鑑定で、保証されても。
父方の曾祖父が、ふくよかな体型であったと知らされても。
母の愛が、父を抱きしめる機会。それは永遠に失われた。離婚に至る元父の阿鼻叫喚は割愛する。愛し合う二人には、越えてはいけない境界線がある。そんな真理を幼いながらに悟った、樋ノ下白都。7歳の夏のことだった――と現実逃避しても、母さんの猛攻を躱せるはずもなく。
安芸白兎もとい樋ノ下白都のファンNo.1を広言する母。うん、そろそろ僕から子離れしようね。
「ご飯食べながら、タブレット見るのはお行儀が……」
「白ちゃんの配信は別。もちろん、白ちゃんのご飯は味わって食べています!」
チキンソテーを前にそこまで気合いいれなくても良いと思うのです。今日は手抜きだし。
美貌に恵まれ、惜しまれつつアイドルを引退。その後は起業家としても成功した樋ノ下都。しかし神は万物を与え給うことをしなかった。母は致命的に料理が下手だったのだ。学校給食を食した時、これほど美味しいものが世の中に存在したのかと感涙したものである(言い過ぎ)
それはそれとして、安芸白兎である。
あぁ、きちゃう。
このシーン。
お好み焼き【アヤモリ】で自慢のお好み焼き(HIROSIMA)を白兎が食す。その瞬間だった。
『うまぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃぃっ! ぶち、うまぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃぃぃけぇっ!』
叫びながら、背景は銀河に切り替わる。
その目から、レーザー光線が飛び出るの何度見ても違和感しかないのですが。VTuberならではの演出と言えば、そうなんだろうけれど――。
『美味い! 美味い! めっさ、うまぁぁぁっ』
分かったから落ち着けって、当時の僕。
この台詞は、新汰がしっかり録音してくれたものだ。つまりボクの生声。白豚ボイスである。なまじ、音楽経験があるだけに音響機材がハイスペックなのが憎たらしい。
昭和の料理漫画のエッセンスを取り入れたらどう? という母のアドバイスが功を奏し。今やこのシーンが安芸白兎の定番となっている。
「今日も最高だよ、白ちゃん」
という母の声と、
「今日もご馳走様でした」
画面の向こう側で。安芸白兎がにこやかに合掌する声が重なった。
■■■
「……白ちゃんがバイト?」
母さんが、目をパチクリさせる。ようやく本題に行き着いた。未成年である以上、親の許可は必要なのだ。
「アンアンちゃんのところで?」
「そうだね」
安西食堂、店主の安西安蔵。元プロレスラー、極悪アンアンは、母さんとは小学校からの付き合いというから驚きだ。知らない仲ではないので瞬殺で快諾――と思っていたのだが、母さんの顔はなぜか浮かない。
「あれ? だめ?」
「……ダメじゃないんだけどね」
母さんは、お茶を啜る。
「あそこの家、ちょっと複雑なのよ」
「複雑?」
「そう」
コクンと頷く。
「子連れ同士の再婚なの。美晴ちゃんとは、中学の時から一緒だから。よく知っているんだけどね。良い子よ」
料理研究家、安西美晴。インフルエンサーとしても関心があったが、今日接して本当に良い人だと思う。
「アンアンちゃんの子が、長男の
「へ?」
情報量が多すぎる。あの家、もう一人お兄さんがいたんだ。
「美晴ちゃんの子が、長女の舞夏ちゃんと、次男の音哉君。舞香ちゃんとは保育園が一緒だったんだけど、憶えてない?」
「そうなの……?」
そう言われても、まったく憶えがない。幼少期の記憶なんてそんなものだろう。幼馴染みなんてラノベの中の話しだ。第一、安西さんには
「あれ、鳴ちゃんは?」
「すっかり安西家通になったのね、白ちゃん」
「茶化さないでよ」
僕はぶすっと頬を膨らます。肉の膨張率アップさせても可愛くないのは自覚ありです。
「鳴ちゃんはね、アンアンちゃんと美晴ちゃんの子だね」
「おぉ、そういうこと」
極悪アンアン、やることやってるんじゃん。童貞の僕は見直すことにした。あんた、
「……それにしても、それはすごいね」
和気藹々とした安西家だけれど。その調和は一人一人の努力があったから。安西さん、本当に頑張ったんだと思う。
「でも、良いことなのかも」
唐突に母さんは、そんなことを言う。
「へ?」
「白ちゃんが、昔の約束を守る日が来たってことだよね。これは私からすると胸熱展開だよ」
「母さん、言っている意味が分からないんだけど?」
母さんは、こうやって時々暴走するのだ。
「とりあえず、バイトは賛成ってこと。ただ、安芸白兎の収録も頑張ってね」
「それは、二人の回復次第だと思うけど……うん、がんばる」
新汰と理彩さんの顔を思い浮かべる。あの二人は、付き合い始めたばかり。デートしただろうし。安芸白兎の活動はそこそこに抑えた方が良いかもしれない。幸い、今回のバイトは良い口実になる!
「無理に頑張らなくて良いのよ。白ちゃんは、そのままで良いと思うの。でも、まぁ良いか……この話しはこれぐらいにして。洗い物をしちゃおうかな」
「母さんは仕事してきたんだから、休んでいて良いって」
「白ちゃんがご飯を作ってくれたんだもん。これぐらい、頑張らなくちゃ」
力コブを作るポーズ。ここでアイドルスマイルしても熱狂するファンはいませんけど?
「いや、ご飯って……手抜きだし」
「そんなことない。すごく美味しかったよ。今日のソテー、レストラン【エルキュール】のディナーの味つけじゃない?」
「母さん、凄すぎるって。それでなんで料理が下手クソなんだろう?」
「白ちゃん、あなたは開けてはいけないパンドラの箱に触れてしまったようね」
「ちょっとやめて、母さん! 脇腹、つままないで! そこ弱いの!」
「うりうりうりうり。母さんを怒らせたら、こうなのだー! こちょこちょこちょこちょ~」
「やめ、やめ、ひゃは、くすぐったい、やめちぇ、母さん――」
そんなくだらない押し問答をしながら、樋ノ下家の夜は更けていく。
■■■
――困ったことがあったら、すぐに助けに行くから。僕を呼んで。
■■■
母さんとの攻防の最中、そんな言葉が脳裏を
おとこのこ
だからといって
胸揉むな
思わず辞世の句を詠んでしまった僕でした。
________________
【安芸白兎の広島講座】
「ぶちは『〝とても〟とか、〝めっちゃ〟という意味なんですよ~。ちなみに広島で『広島風お好み焼き』というと戦争が勃発します。お好み焼きは宗教問題とイコールだからね。広島では『広島風お好み焼き』も『広島焼き』も
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【作者】です
たくさんの方にお読みいただいています。ありがとうございます。
ちょっとだけ、設定変更。
安西家の三男、辰を音哉に名前を変更しました。
こちらのメッセージは数日したら削除予定です。
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ビジネス研修の課題に取り組んでいる最中ですが、この作品とカクヨムコンを集中し楽しんでいます(マテ
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