第8話 もう仲良くなったんだ

 メアリー先輩から勝負を持ちかけられ、戸惑う俺。絶対に変な勝負に決まってるだろ。


 そのメアリー先輩だが、はち切れんばかりの巨乳を突き出しながら「うんうん」とうなずいている。

 もう目のやり場に困るってレベルじゃねーぞ。


「うーん、そうだ! あたしをおんぶして校内一周――」

「絶対無理です」

「じゃあ、俊が馬になってアタシが上に――」

「潰れます」

「ぐぬぬぬぬぬ!」


 しまった! ついハッキリ言ってしまった。

 もうそれメアリー先輩の体重が重いって言ってるようなもんだぞ。


「キミねえ、Mっぽい雰囲気出してるのに意外と言うよね」

「す、すみません……」

「もしかして誘ってる?」

「誘ってません!」


 人を誘い受けみたいに言うな。


「じゃあ何が良いのさぁ?」

「密着しないのにしてください。先輩とくっつくと色々と不都合が……」

「ぬふっ!」


 メアリー先輩がニマァっとイタズラな顔になった。


「キミは純情だなぁ。チラ見するけど触れるのは拒否るのかい? むっつりかな?」

「付き合ってないのにエッチなのはダメでしょ」

「うっわぁ♡ 純情かよぉ。ドーテーっぽい!」


 どどど、どーてー言うな!


「メアリー先輩は、さぞかし経験豊富なようで」

「えっ、あたし? あたしは未経験だけど」

「はぁ! この胸とエロさで処○だと!」

「あ、あたしは良いんだよ! てか、胸は関係ねーだろぉ」


 少し照れた顔のメアリー先輩は、ポリポリと頭を掻く。


「じゃあ何が良いんだよぉ」

「だから近いですって!」


 目の前には大きく開いた胸元から覗く深い谷間。そのテカテカと艶やかな肌には玉のような汗が浮き出ている。

 目を逸らそうとするも、首筋や胸元から流れた汗が、ツツーっと谷間に消えてゆくのを視界に捉えてしまった。


 先輩の汗の臭いと女子特有の甘い香りが混ざり合い、とんでもない破壊力だぞ。


「ゴクリっ」


 あっ、ヤベッ! 思い切りガン見してた!

 こ、これはしょうがないんだ!

 こんなの眼前で見せつけられて、正気を保ってる方がおかしいだろ!


「ぬふふふぅ♡」


 案の定、もう必然と言うべきか、メアリー先輩はジト目で俺を見つめる。


「やっぱりキミは正直だな。もう煩悩マックスじゃないか」

「すす、すみません! これはもう抑えようのない本能と言いますか」

「ふーん、これはお仕置きが必要だよね♡」


 メアリー先輩がペロッと舌なめずりする。

 そして、何を思ったのか片方の上履きを脱ぐと、それを俺の眼前に持ってきた。

 履き古してボロボロだ。踵はペチャンコに潰れているし。


「あ、あの、その上履きはどういう……」

「こうするのさ」


 ガバッ!


 躊躇ちゅうちょなくいった。

 くたびれた上履きが俺の顔に押し当てられる。主に鼻のところに。


「くっさぁああ! ガチで臭っ!」

「女子に臭いとか失礼な後輩だな」

「誰のせいだよ!」

「ほら、勝負だよ。一分間我慢できたら兼部してあげるよ」

「ちょ、そんな!」

「ほら、1、2、3……」


 何じゃこりゃぁああああ!

 まさか上履きを嗅がせる女子が存在したなんて!

 もう世も末だよ!


「31、32、33……」

「く、臭くて眩暈めまいが……」

「まあ一度も洗ってないからね。36、37……」

「たまには洗ってください!」


 これはキツ過ぎる!

 しかし、あと少し我慢すればメアリー先輩を入部させられる。


「55、56、57、57、57……」

「ちょっと! イカサマだよ!」

「57、56、55、54……」

「ぷっはぁあ~っ!」


 もう限界だ。カウントが戻った時点で、俺は顔を背けてしまった。

 これ以上続けていたら、臭くて異世界転生しそうだから。死因が上履き責めじゃ最悪だ。


「はあっ、はあっ、はあっ……。先輩、最初から真面目に勝負するつもりなかったでしょ」

「バレたか」


 メアリー先輩はお茶目な顔して舌を出している。

 この人は……。


「はははっ、ごめんごめん。ちょっとからかってみたかったんだ。文芸部を兼部するから許してよ」

「えっ?」


 あっさり兼部が決まってしまった。


「俺は一体何をやらされていたんだ……」

「あははっ、災難だったね」

「だから誰のせいですか!」

「まあまあ、じゃあ部室に行こうか。ほらほら」


 先輩は俺の背中を押す。


「それにさ、ちょっと新鮮だったんだよね。あたしに告る男子って、あからさまにエッチ目的の陽キャが多かったから。キミみたいなのは初めてだよ」


 そう言って笑うメアリー先輩は楽しそうだ。


「だから告白じゃありませんって」

「ほら行くよ、俊」

「ちょっと! 近いですって!」

「照れるな照れるな」


 俺はメアリー先輩に腕を組まれ、引きずられながら部室へと連行されてゆく。

 部室はそっちじゃないけどな。



 ◆ ◇ ◆



「やあやあやあ、新入部員の登場だぞ」


 文芸部の扉を開けるやいなや、真っ先にメアリー先輩が部屋に飛び込んでいった。

 部屋の奥でキーボードを打っていた瑛理子先輩が、目を丸くして俺たちを見る。


「えっ、もう彼女の勧誘に成功したの?」


 瑛理子先輩は驚きを隠せない。ちょっと引き気味なくらい。

 対して、メアリー先輩は馴れ馴れしい。瑛理子先輩のところまで行くと、勝手にパソコンを覗き込んだ。


「どれどれ、ホントに小説を書いてるんだ。凄いね」

「ええ、官能小説よ」


 官能と聞いたメアリー先輩が前のめりになる。


「あたし、あまり本は読まないんだけどSMっぽいのは好きなんだよね」

「合格よ!」


 合格なのかよ! そんなんで良いのか?


「さすが私が見込んだ女王ね。ドSの素質あるわ」

「ぬへへぇ、照れるねえ。えっと名前何だっけ? 孤高の女王様って呼ばれてるよね」


 誰だそれは? 瑛理子先輩って、そんな二つ名があるのかよ。


万里小路までのこうじ瑛理子えりこよ」

「そうそう、そんな名前だったね。あたしはメアリーね。よろしく瑛理子」

「よ、よろしく、黒森さん」


 おっ、あの瑛理子先輩がペースを乱されてるぞ。レアだな。


「そういえば、よく文芸部を兼部してくれたわね」

「そうなんだよ。俊のこと気に入っちゃってね♡」


 グイッ!


 メアリー先輩が俺の腕を引く。自分の方に寄せるように。


「ちょ、メアリー先輩!」

「はははっ、上履きを嗅がせた仲じゃないか。よいではないか♡ よいではないかぁ♡」


 上履きと聞いた瑛理子先輩は、目の色を変える。


「上履きを嗅がせたって、どういうことかしら?」

「ぬへっ、言葉どおりの意味だよ。俊はあたしのモノだからね。はははっ!」


 メアリー先輩は意味深な顔をして、挑発するように笑う。


 バンッ!


 部室に机を突く音が響いた。

 俺たちの絡みを見ていた瑛理子先輩が、突然立ち上がり手を突いたのだ。


「えっと、瑛理子先輩……どうかしましたか?」

「べ、べつに……」


 瑛理子先輩は不機嫌そうに横を向く。

 それを見たメアリー先輩の顔が緩んだ。


「ははぁ~ん、もしかして嫉妬かな? ほら、『私の俊が取られちゃったぁ~!』みたいな?」

「ち、違うわよ!」


 違ったのか。ちょっと期待しちゃったじゃないか。


 相変わらず不機嫌な顔の瑛理子先輩は、俺をチラチラ見ながら言う。


「べつに私に恋愛感情は無いわね。そうね、言うなれば、私に懐いていた犬が、他の女から餌を貰っているのを見た感じかしら」


 やっぱり犬なのかよ!


「不愉快だわ。誰が飼い主か躾けないといけないみたいね」

「俺は誰の飼い犬でもないですよね。部員ですよね」


 俺は部員なのを強調しておく。なし崩し的に犬にされるのは遠慮したい。


「う、うるさいわね。あなたは黙って私の足を舐めなさい」

「舐めませんって。何でそんなに舐めさせようとするんですか」

「もうっ、もうっ! また踏んで躾けるわよ」


 瑛理子先輩がそっぽを向いてしまった。


 何だろうこの感じ。言葉はキツいのに、態度は寂しがり屋の子供みたいで可愛いのだが。

 ツンデレならぬエスデレかな?


「ぬへへへぇ♡ 愉快な部活で面白い関係性だね」


 一連の流れを見ていたメアリー先輩が、意味深な顔をしている。


「俊も良いけど瑛理子も良いね」

「べつに、あなたに好かれたくないわ」

「またまたぁ、照れちゃって」


 メアリー先輩が瑛理子先輩の耳に顔を寄せる。


「瑛理子が要らないなら、あたしが……を取っちゃうよ(ボソッ)」

「なっ、何ですって!」


 えっ? 何を取るって? 声が小さくてよく聞こえなかったけど。


「むぅううううぅ~!」

「あはははっ!」


 苦悶の表情の瑛理子先輩と、朗らかに笑うメアリー先輩。性格も対照的だ。

 ドSなのは似ているのに。


 二人の女王様に挟まれた俺は、今後とんでもない展開が持ち受けていそうで、ゾクゾクと腰の震えが止まらなかった。







 ――――――――――――――――――――

 瑛理子先輩が嫉妬?

 金髪ボーイッシュのメアリー先輩が参戦で、ドS級美少女の争いはどうなるのか?


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誰にも媚びない孤高のS級ヒロインが、最近なぜか俺にだけ優しいのだが ~ドS級美少女の瑛理子先輩は、俺が好きすぎてデレを隠し切れない~ みなもと十華@書籍&コミック発売中 @minamoto_toka

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