エピローグ(17日目の夜)ニュースの向こうに見えたもの
その夜、家に帰ってテレビをつけた瞬間だった。
「102歳の母親を殺害した71歳の娘の判決が下りました——」
——なんというタイミングなんだろう。
胸の奥が、静かにきゅっと締めつけられた。
介護の限界は、外からは見えない。
叫び声も。
徘徊も。
暴言も。
涙も。
ニュースの字幕には、何ひとつ映らない。
でも——
あの娘さんはきっと、今日のおじいちゃんのように、
興奮し、怒り、混乱し続ける母親と、
二人きりで、何年も、何十年も、向き合ってきたのだろう。
あたりまえだけど、報道が映すのは “結果” だけだ。
そこに至るまでの、数えきれない夜のことは、
誰にも知られない。
たった17日間の介護だった。
それでも私は、この人の苦しみを“想像できる人間”になってしまった。
“悪い”とか“許されない”とかじゃない。
そんな単語では到底測れない世界が、介護にはある。
ただ——
私はこの人を責めたくなかった。
むしろ、理解してあげたいと思った。
介護を裁くって、何を基準にするんだろう。
そして、
本当の“罪”はどこにあるんだろう。
静まり返った部屋の中に、
その問いだけが、静かに残った。
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