11月9日(日) ラッパーみたいな “よう!よう!” の裏側にあるもの

急に寝たきりになってしまったおじいちゃんは、きっと不安なんだと思う。


あの日以来ずっと、

力を振り絞るような声で私たちを呼び続けていた。


「よう! よう!」


その声が聞こえるたび、

私は部屋へ向かう。


何か頼みごとがあるわけじゃない。

ただ私の顔を見て、ひと言二言話すと、

安心したように目を閉じる。


でも——

部屋を出ると、すぐにまた始まる。


「よう! よう!」


しばらく様子を見ていると、

次第にテンポが速くなる。


「よう、よう、よう」


しまいにはリズムが付き始め、


「ヨウヨウヨウッ」


その様子を見た悠斗が、

呆れたような、でもどこか優しい顔でつぶやいた。


「じいちゃん……ラッパーかよ。」


その瞬間、思わず吹き出してしまった。

この状況で笑うなんて思ってもみなかったけれど、笑うことで心が少し軽くなった。


でも、この「よう!よう!」の裏には

きっと——


・歩けなくなった恐怖

・自分のいる場所が分からなくなる不安

・誰かにそばにいてほしい気持ち


そんなものがぎゅっと詰まっているのだと思う。


だから私はまた部屋に戻り、

そっと微笑んだ。


「きたよ〜。ここにいるよ」


その一言で、おじいちゃんの顔がふっと緩んだ。



---


◆ 明日への不安と、小さな覚悟


明日は脳外科へ連れていく日だ。


急に歩けなくなったこと。

認知機能が大きく落ちたこと。

血液をサラサラにする薬を飲んでいること。


——もしや。

そんな予感が頭をかすめる。


でも、まだ何も分からない。

結果も出ていないのに、先回りして落ち込むのはやめよう。


不安の影はたしかにそっとついてくる。

でもそれと同じくらい、


“どうにかなる気配”


もすぐ近くに寄り添っていた。


きっと明日は、

また新しい現実が見えてくる。


どんな結果でも、

私はまた向き合う。


そう自分に小さくうなずき、

長い一日をゆっくり閉じた。



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