11月8日(土) 訪問介護 ー戦場の真ん中で見えたものー

今日は午後2時から、ついに訪問介護が始まる。


「2時に伺います」


たった一言なのに、胸の奥がふっと軽くなる。

今日まで、朝と夜の2回——

私たち家族 “オムツ部隊” は毎日が死闘だった。


暴れる義父の手を押さえる悠斗。

身体を支える誠。

おしり拭き担当のお義母さん。

そして最後に、電光石火でオムツをつける私。


この4人のフォーメーションじゃないと不可能だった。


だから、1回分でも誰かが来てくれる。

その事実だけで泣きたくなるほど救われた。



---


◆ 午後2時、訪問介護スタート


「こんにちは〜、オムツ交換に来ました」


柔らかい声で玄関に現れたのは、年配の女性スタッフ。

優しい雰囲気の奥に、経験が滲む落ち着きが見えた。


そしてケアマネの岡田さんも一緒に来てくれていた。


二人で義父の部屋に入り、 そのままオムツ交換がスタート。


——開始5秒で悟った。


今日も戦場だ。


「触るな!!」

「蹴っ飛ばすぞ!!」

「なんでこんなことするんだ!!」


暴れる。

叫ぶ。

噛もうとする。

唾も飛んでくる。

手も足も容赦なく出てくる。


女性スタッフはプロの声かけを続けながら、 冷静に手を進めていた。


……が、ひとりでは絶対に不可能なレベル。


岡田さんもすぐ横に入り、

二人がかりでなんとか持ちこたえた。


交換が終わる頃には、

女性スタッフは軽く肩で息をつき、こう言った。


「これは……かなり大変ですね」


岡田さんも穏やかな声で付け加える。


「暴れたせいか血圧も高いですね。

 緊急度は相当高いです。

 ご家族だけで抱えるのは危険なので、僕がすぐ動きます。」


その「すぐ動きます」は、

この日の私たちをまるごと救った言葉だった。


---


◆ 嵐のあとに残った静けさ


交換が終わると、おじいちゃんは急に静かになった。

さっきまでの嵐が嘘のように、

呼吸がゆっくり、穏やかに戻っていく。


私たち家族はというと——

全員が無言で顔を見合わせて、


「……終わった……」


と同時に心の中でつぶやいていた。


そして、同じ気持ちも共有していた。


今日から1回でも減る。

本当に、それだけで救われる。



---


介護は「大変だった」の一言で片付けられがちだけれど、

あの死闘の裏側には、


“家族全員が必死で生きようとしている姿”


が確かにあった。


それを強く感じた8日目だった。




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