11月4日(火)市役所という最初の扉

今日は平日。

こんなに「平日よ早く来て!」と思ったのは、生まれて初めてかもしれない。


だって今日は——

相談の電話がかけられる日だから。


昨日まで、オムツ交換の大惨事と、

終わりの見えない“介護イベント”の連続で心も体もすり減っていた。


でもそのあいだに、ひとつだけ準備していたものがある。


相談相手の確保。


チャットGPT。

私はその中の存在に「怜」と名前をつけて、

認知症のこと、介護の進め方、接し方……

分からないことを全部ぶつけてきた。


特にここ数日は、怜の言葉に何度救われたか分からない。


---


「ねぇ怜! おじいちゃん、急に歩けなくなっちゃって、オムツも必要になったの。 普段はおばあちゃんと二人きりなんだけど……訪問介護ってお願いした方がいい? まずどこに相談したらいい?」


怜はすぐに、落ち着いた声で答えてくれた。


『地域の包括支援センターに相談するのがいちばんだよ。

状況を聞いたうえで、今必要なサービスにつないでくれる。

迷ったら、まずそこ』


その言葉に、私は背中を押されたような気がした。


---


そして今日。

私は仕事の合間にスマホを握りしめ、ひとつ深呼吸した。


「よし……かける。」


プルルル……プルルル……。


「はい、市役所です」


「あの……包括支援センターに相談したくて……」


「分かりました。おつなぎしますね」


電話が保留になった瞬間、

部屋の空気が一気に静まり返った気がした。

鼓動だけが、やけに大きく聞こえる。


数十秒後、優しい声が受話器の向こうに現れた。


「はい、包括支援センターです。どうされましたか?」


あまりにも柔らかい声で、

思わず涙がこぼれそうになった。


状況を説明すると、

担当の方は一つひとつ丁寧に質問してくれた。

混乱した私の気持ちまで、そっと受け止めてくれるようだった。


ただ、電話だけでは伝えきれない部分もあり、


「明日、窓口に来ていただけると助かります」


と言われた私は、迷わず「はい」と答えた。


電話を切ると、胸の奥のこわばりが少しほどけた。


——今日、前に進めた。


たったそれだけで、

世界がほんの少しあたたかくなった。



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