14 あの片翼をもげば楽勝よ
ヒースは左手でブロードソードの
右手を柄の上に軽く添えて体の正面で構えた――日本刀を握るような
腹の真ん中に力を入れ、息を吸って意識を剣へ一点集中させた――オレンジ色の光がヒースの全身を包むと、ブレードから炎が噴き上がった。
ボオオオォォゥッ――!
刃全体を覆う炎に、観客席からワッと歓声が上がった。
「見ろ! あのガキ、イントルーダーだ!」
怒号と歓声を背に、ヒースはクモ型の
ヒースが蹴った地面から砂煙が舞い上がる。
「悪ぃけど――行くぜ!!」
巨体の目前で踏み込んだ瞬間、クモ型の
天井を覆うような影がヒースの頭上に落ちる。
「でけぇ……」
目の前へ振り下ろされる脚――。
ヒースは
ガァンッ!
鋭い
「っぶねぇな!」
反動を利用して跳躍し、そのまま背へと飛び乗った。
「
クモの背に炎をまとった剣を全力で叩きつける。
――ギィンッ!!
「は……?」
鈍い衝撃とともに、折れた剣の半分が空へ弾け飛んだ。
どこにでもあるブロードソードの素材では、硬すぎる
「おいおいマジかよ! あいつらにこんなボロい剣、渡してたのか!?」
ヒースが入場前に預けた
だが今は違う。
ヒースが握る短くなった剣でも依然、炎は揺らめくが、地面には折れた剣の先。
巨大クモの複眼がヒースを
再び前足がヒースの頭上へ振り上げられる――!
「ヒース!! 下がれ!! 」
ミツヤの怒声と同時に
彼の左手には、いつの間にか空気中の電気が集められ、バレーボール大の
ミツヤが空へ放った雷玉は既に巨大グモの頭上5メートル上空にあった。いや、もうミツヤの右手もそこに届いていた……!
「っらああああああああ――!!」
真上から、ジャンプスパイクの姿勢で腕を振り抜く。
「
バリバリバリィィィィィィィ――――ッ!!
雷玉は直下のクモ型の
ミツヤが着地した瞬間、巨体は
自然界における
ミツヤはその散在する電荷を無意識に集束させ、雷のエネルギーへと変換する。
家電レベルの数十ミリアンペアから、落雷に匹敵する数十キロアンペアの電流量すら自在に操ることができるのだ。
もっとも本人は理屈までは理解してはいないのだが。
アリーナ全体は爆発するようなどよめきに包まれる。
「やっべぇ……やっぱミッチーすげぇな!」
「……すげぇな、じゃないだろ。ほら見ろ、衛兵が動きだしたぞ!」
ミツヤの指さす方へ視線を向けたヒース。
観客席の外周から衛兵たちが十数名、足並み揃えてなだれ込む。
彼らは、まだ息があるものの戦闘不能となった
「イントルーダーどもを捕えろお!」
「あーくそっ。逃げるか!?」
ミツヤは呼吸を整えながらも、ヒースと同じく複雑な感情が胸に渦巻いていた。
命があった
しかし、たとえ皆の前で大立ち回りをしようとも、あの場面では
ミツヤは考える。逃げるか、このまま捕まって訳を聞いてもらうか――。
――さて、2階席の端。アリーナの様子へ視線を送る異質な2人がいた。
この国では見かけない、白い軍服に身を包んだ女性とフードを被った人物。ミツヤの
「見たでしょ……あれが《
すると隣のフードの人物が観客の歓声に、両手で耳を
「確かに
「あ、あら……上手いこと言うのね。
と、いいつつも、彼女は満更でもないといった風にアヒル口をつくった。
「いい? 『
ふっくらした唇をつり上げる。
「だから、崩すならミツヤとアラミスという両翼から潰すわ」
ポニーテールの女がアリーナ中央を指さす。その先で、フードの人物の視線は獲物を定めた捕食者のようにミツヤを捉えていた。
「
「フフッ、そうね……あの片翼をもげば楽勝よ……! けどあのヒースとミツヤは特に鉄壁のバディ、すぐには崩れない。だから――」
と、彼女はフードの人物を見た。
「左方向……二階席、二列目の。ほらあそこ」
ポニーテールの女は首を僅かに傾け、左上へ目配せする。
「アラミス――金髪スナイパーに仕掛けるわ。こっちから先に崩すことにした」
フードの人物はほくろのある口元を
「先輩、まさか正攻法ではなく、色仕掛けですか?」
ポニーテールの女は、組んだ膝の上に肘を置いて
「そう。彼らの懐に入り込めば、他のメンバーを
そう言った後、彼女の淡いグリーンの大きな瞳が
「さすがは先輩。先輩の
「だから、その前にひとつやっておかないといけない」
再びアリーナへ視線を戻すと、束ねたライトグリーンの髪がふわりと
「このままだと、恐らく今日のイベントを荒らした2人は、あの犯罪者と一緒にムショ送りよ。それじゃぁいつまで経っても手が下せない、一旦ヒースからミツヤを引き離すわ」
「ミツヤだけ牢から出すと?」
彼女はゆっくり口元を吊り上げた。
「そう、メンバーをひとりずつ切り離すのよ」
彼女は
「期待していますよ、先輩。へき地から出てきた自警団が大教皇様の周りをウロつくなんて、あってはならないですから。彼らがお遊び集団だったってこと、きっちり証明してください……!」
アリーナでは、まだ観客の興奮が続いていた。
だがその裏で――アラミスを狙う罠は、既に動き出していた。
***《次回予告》***
ジェシカ:ミッチーがいてくれて助かったけど、武器預けたまんまよ?
アラミス:やっぱこうなるんだよな、クソッ。刀ねぇとアイツの攻撃、小学生並みだからなぁ。
ジェシカ:アラミス。ヒースの刀、頼める?
アラミス:しゃーねぇな。
ジェシカ:次回、第15話「
アラミス:なになに?
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