008:報酬回収任務

『いやぁ~~仕事がないから山賊の傭兵なんてしてたっすけど、災難だったっすね』


 拘束されているのにケタケタと笑うヴァルチャーのパイロット、イーリエ。

 拘束するときもろくに抵抗しなかった。恐怖心とかないのかね。


 とりあえずボートに連れ込み、物置部屋にぶち込んでおく。

 そこから通信で話し合っているのが現状だ。


「他に山賊はいるのか?」

『ああ、パイロット以外にも5、6人程度……ついでに捕らえられてる人もいるっすよ』

「ふぅん……降伏するように連絡できるか?」


 レッドキャップで拠点を破壊してもいいが、相手の武装次第では面倒だ。

 もう敵機がいないのであれば、降伏を勧告するに限る。


『あ~~そうっすね、あーしの無線、繋がってるんで……』

「じゃあ降伏しろと言っておけ。でなければ皆殺しだ」

『……だ、そうっす』


 すると、手を挙げて五~六人の兵士が出てきた。

 軽薄そうな若者から薄汚い中年まで。


 他にも捕らえられてる人もいるんだっけか。

 さて……どうすっかな。とりあえずアンドーに連絡するか。

 一応教えられていた無線につなげてっと。


「もしもし、アンドーさん?」

『……アンドーさんは仕事で忙しい。何の用だ』

「例の山賊を制圧した。降伏している連中もいるから、人をよこしてくれ」

『……了解した』


 下っ端がそう言うと、無線が切れた。ひとまず待っていれば良さそうだな。

 俺はドローンを操作して、降伏してきた連中を拘束していく。

 サイコロにプロペラをくっつけたようなドローンだ。手もついていて便利。


 そんな折、イーリエが無線で話しかけてきた。


『あの~~いいっすか?』

「なんだ?」

『あーしら、この後どうなるっすかねぇ~~』

「ろくな結果にはならそうだな」


 なにをやったか知らないが、ギャングに喧嘩を売ったのだ。

 すぐさま殺されるだけでも、相当慈悲のある結果になるだろう。

 それを聞いて、物置部屋のイーリエは青ざめた表情になった。


『へへへ、兄さん、あーしを雇わないっすか?』

「庇ってほしいってことか?」

『けっこー実力あると思うんすけどね……自分』


 イーリエはくねくねと、そのデカい胸をカメラに向けて話しかけてきた。


 ふぅむ、なかなか魅力のある提案だ。

 元々、傭兵であるのならばクライアントに義理人情なんてないだろうし……。


 ネームドクラスでなくても、そこそこの実力はあるように思える。

 しかしまぁ、それよりも俺が気になっているのは……。


「あのマシン、どうやって作ったんだ?」

『え?』


 俺の質問に驚いた表情を見せるイーリエ。

 まさかヴァルチャーの方に興味があるとは思わなかったのだろう。


「あの改造、なかなか見ない。腕のあるエンジニアに違いないはずだ』

『あれはあーしが調整したっす』

「へぇ……嘘じゃないだろうな?」

『も、もちろんっす!!』

「となるとあの操縦技術と改造技術、二つを併せ持っていて山賊に与していたのか?」


 傭兵というのはコネ社会だ。信用がなければ成り立たないからな。

 とはいえ実力のある傭兵兼エンジニアはそう簡単に職を失うことはない。

 となると他に問題がある……ということだが……。


『ああ、あーし企業をクビになったところなんすよ……それでコネもなくて……ハイエナ狩りをしてたら、スカウトされてそのまま……』

「企業をクビに? なんでまた?」

『権力闘争っすね。あーしの作った羽付きより鬼仮面の方が採用されて……』

「………………」


 そう言ってイーリエは俯いた。

 あのオニダルマを作った企業のエンジニアだったということか。

 企業の人員として採用される人間はほんの一握り。


 採用されてもなお、権力闘争が激しいと言われている。

 しかしそうなると、けっこうな買い物になりそうだな。


「いいだろう。おまえの言い分が正しければ、ウチで雇ってやってもいい」

『本当っすか!?』

「で、企業の人間だったって証拠はあるのか?」

『ああ、もちろん! ポケットにまだ社員証があって……』


 ……ドローンを向かわせ、ポケットの中身を回収する。

 武装なんかは拘束する時に剥いだが、こんなものまで隠し持っているとは。

 財布の中身には、たしかに企業”ユグドラシル”の社員証が入ってあった。


 そんな事を確認していると、大きめの氷上船がやってきた。

 通信にアンドーが映る。わざわざやってきたようだ。


「よぉ、アンドーさん」

『任務を達成したようやな。降伏した人員はウチで預かるで』


 そう言って、降りてきた兵隊たちが氷上船に山賊達を引っ張っていく。

 ついでにパーツなんかも回収していくようだ。

 敵拠点にも何名か向かっていく。囚われてる人を助けたいのかな。


「ああ、ただ一人。ヴァルチャーって傭兵に関してはウチで預かってもいいかな?」

『というと?』

「ただの雇われ傭兵だし、優秀だ。ウチで働いてもらおうかなと思ってな。報酬代わりということでどうだろうか」

『ふぅむ……まぁええやろ。ただし、今後ともご贔屓にしてくれるんならの話やけど』


 にこにことウィンドウの向こうで怪しげな笑みを浮かべるアンドー。

 たしかに今回の件で、こっちが使えると証明してしまったからな……。

 う~~~ん、どうするか……。


「依頼次第かな。空手形は切れない」

『了解了解。ま、捕まってたウチの人員も回収できたし、問題ないで』

「できれば、ヴァルチャーの機体もウチで回収させてほしい」

『それもええやろ。けど、他のジャンクは貰っていくで?』


 優秀な人員一人回収できるのだから安いもんだ。

 元よりただの空き缶ロボにそれほど貴重なパーツは使われてない。


「ではこっちは撤退するぞ」

『あいあい。それにしても、あんさんら入らんで良かったな』

「なぜだ? 罠でもあったか?」

『アイツラの拠点……ヤリ部屋になっとったわ』

「………………」


 なるほどね。しかしイーリエは女。その件には関係ないだろう。

 むしろ回収できる人員として、女性が何人も囚われていた事の方が怪しい。

 おそらく……こいつらが”人間”を売買していたからだろう。


『そーゆーわけで、そっちの傭兵さん以外はキッチリけじめつけさせてもらうけど、ええか?』

「俺には関係ないね」

『ほな、そゆことで』


 そう言ってアンドーとの通信が切れた。

 なんだかな。やはりギャング。あいつらもまともな連中じゃない。

 付き合うにしてもほどほどにしておいたほうがいいな、うん……。


「さて、レイル。帰るぞ。ヴァルチャーを回収して、ボートに乗ってくれ」

『はいは~~い! しかしボク、すごかったでしょ? でしょ?』

「ああ、よくやった」

『ふふん! 帰ったらいっぱい褒めてね!!』


 レイルとの通信が切れ、ヴァルチャーごとレッドキャップを収容した。

 パージしたレールガンや盾もちゃんと回収できたし……帰るとするか。

 俺はボートを動かし、シェルターへと向かった。


 そうしていると、操舵室にレイルが入ってきた。

 相当自慢げな表情をしている。強敵を倒したから嬉しいんだろう。


「いや~~今回はよくやったよ、ボク。あ、ヴァルチャーのパイロットはどうするの?」

「ああ、ウチで雇おうかと思って」

「え」


 露骨に眉をひそめるレイル。もしかして浮気とかなんとか言い出すつもりか?

 いままで二人でやってきたから、人材が増えるのは気になるかもしれないが……。


「浮気だ~~~っ!! おっぱいが大きいから気に入ったんだ!」

「違うぞ。企業の元エンジニアだ。あのヴァルチャーの技術力を見ただろ」

「むぅ……」

「傭兵ってのは金と信頼の関係だ。そういう間柄は増やしておいたほうが良い。たとえ、今日敵対してたとしてもな。覚えとけ」

「むむっ……」


 それでも納得していないのか、頬をふくらませるレイル。

 しかし口では勝てないと悟ったのか、操舵室のソファに座り腕を組んだ。

 こういうところで地味に聞き分けが良いのはこいつの長所だ。


「ふんっ! わかったよ! ボクも愛機が強くなるのは歓迎だし……!」

「良い子だ」

「その代わり、ボクに黙って男女の関係になったりしないでよねっ!」

「元からそんな予定ねーよ」


 いや、たしかにあのおっぱいは魅力的だが。

 そんな出会い厨とかヤリモクみたいな目的で組む相手を選んでない。

 ハニートラップとか……怖いしな!

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