009:少女籠絡任務
「さて、イーリエとか言ったか……別に俺はおまえを飼う気はないぞ」
「はえ?」
シェルターに帰還した俺達。
空き缶ロボを停止させたガレージで、イーリエの手枷を外してやった。
本人は驚いて目を丸くしている。
「優先的に協力してほしいのは確かだが、報酬は支払うしここにいる必要もない。宿が欲しいんなら貸すけど……」
「おお~~! それはありがたいっす!!」
そう言ってイーリエが抱きついてくる。
でっかい胸のモチモチの感触がする。くそっ、こいつデカいな……!
そんな俺を見て、レイルはソファの背もたれに隠れてジロリと睨んできた。
「ヴァルチャーも直してやる。と言っても自分でやってもらうんだが」
「え!? 本当っすか!?」
「ああ、ここのジャンクパーツを使っていいぞ」
ガレージの端にあるジャンクの山を指差す。
いや一応棚とか作って整理してあるんだけど、どうしてもデカすぎるものは放置してて……。
「ヤマト~~女の子だからって甘すぎない~~?」
レイルがバンバンとソファを叩いて威嚇してくる。
別に甘く対応しているつもりはない。恩義を売って籠絡しようとしているだけだ。
どちらにせよ、相手は一文無し。しばらくは養う必要がある。
「うむ、流石に甘すぎっすよ旦那ぁ。何が目的で?」
「詳細を語ると、エンジニアとしての優先的対応。またそちらの都合でいいが、傭兵としての協力。見返りとしては当面の衣食住と、こちらが持つコネ、そしてパーツを提供しよう」
「おお……!! ありがてぇっす旦那ぁ~~!!」
目をキラキラさせてへりくだるイーリエ。
なんだそれは。土下座のつもりか?
しかしそうだな、なんか見返りも求めておくか……。
「ヴァルチャーの修理を優先すればいいが、ウチのレッドキャップの改造を手伝ってほしい」
「お安い御用!! あーしはブースターとか足回り得意なんで更に速くなるっすよ!!」
「ありがたい。それじゃあ部屋に案内するぞ」
うちのシェルターは、旧文明が作ったものでいくつかの部屋がある。
正直二人で使っていては余らすだけだ。そのため、物置に使ってるような部屋が複数あるのだが……その中で来客用の部屋を貸し与えることにした。
ベッドはないので、ソファと布団をドローンに運ばせる。
こいつらは球体に手足と丸っこいアンテナが付いたマスコットみたいな造形だ。
家事とかもしやすく重宝する。ちょっと小さいけど。
「おお~~風呂もあるんすね~~!」
「ああ、好きに使ってくれ。水と電気はそこそこ余ってるからな」
「いいっすねぇ~~! 早速使わせてもらうっす!!」
「いや待て、服はどうするんだ?」
「………………」
イーリエは上目遣いでこちらを見て、可愛らしくウィンクした。
なんだよ、何が目的だよ。
「か・し・て♡」
「いや、衣食住を保証するって言ったから貸すけどさぁ……!」
あとでイーリエの服を買い込む必要がありそうだな……。
一つ仕事をこなしたら、二つ三つと仕事が増える。この世の真理だ。
俺は仕方なくジャージを取ってきて、それを貸してやることにした。
俺のだからサイズが大きいが、着れないことはないはずだ。
レイルのは……入らないだろう。乳が。
「あ、一緒に入るっすか?」
「余計なお世話だ。さっさと入れ」
「う~~っす!」
リビングへ向かうと、レイルがなぜか裸になっていた。
そういえばこいつ帰ってきたらひとっ風呂浴びるのが日課だったな……。
パイロットスーツがベタつくとかなんとかで。
「なんであいつが先に入るのさ!」
「客人優先だ」
「む~~!!」
べしべしと裸のまま、叩いてくる。
この状態でべったりと迫られると、流石に直視出来ない。
暖房はついているけれど、寒くないのかこいつ。
「あいつの方を大事にするんなら、ボク家出するよ?」
「イーリエを延々養う気はない。あいつの生活基盤が整うまでだ」
「なんでそこまでするかなぁ……大して可愛くないじゃん」
「だからエンジニアや傭兵としての腕前がだな……」
と言っても、レイルは納得しないだろう。
こいつは理由を求めているわけではない。
単純に俺が女と絡んでいるのが気に食わないだけなのだから。
ちょっとばかり面倒だな、と思いながらもポンポンと頭を撫でてやる。
それから毛布を持ってきて、レイルに被せておいた。
ソファに寝転がると、毛布にくるまったまま俺の上に寝転んできた。
細い女の子特有の骨ばりつつも柔らかい感覚。
けっこう飯食わせてるんだけどなぁ。なかなか太らないんだよな。
「シャワー借りたっすよ~~。……何してるんすか?」
ジャージ姿のイーリエが二階の吹き抜けから見下ろしてきた。
俺の上にレイルがいることが見えているだろう。
それに気づいたレイルがこれみよがしに俺に抱きついてきた。
俺はちょっとばかり溜息をつき、背中をポンポンと叩いてやった。
「俺が他の女とつるんでるから拗ねてるらしい」
「ありゃ~~お子様っすね~~」
「お、お子様じゃないもん!!」
くるまっていた毛布をイーリエに投げつけるレイル。
二階だというのに、しっかりした肩である。
レイルは真っ裸になったまま、着替えを持って代わりに風呂へと入っていく。
イーリエはそれを驚いた表情で見送ると、下に降りてきてニヤニヤとした笑顔を見せてきた。
「ああいう、薄細な女の子が好きなんすかぁ~~?」
「別に男女の関係はないぞ」
「おや意外、性処理とかどうしてるんすか?」
何言ってんだこいつ……。
セクハラ? 直球のセクハラなのか?
思わず睨んでしまった。
「前の同僚は捕まえた女の子達に好き勝手してたっすよ~~?」
「ああいうゲスたちと一緒にしないでもらおうか」
「ふぅん?」
そのまま冷蔵庫を開けたと思うと、ミルクを勝手に取り出してきた。
文句を言う気はないが……あ、勝手にコップ使ってる。
しかもレイルが好んで使ってるやつ。あとでまた揉めそうだ。
「あーしはお兄さん、なかなか気に入ったんで抜いてあげてもいいっすよ?」
「黙ってろ」
いやらしく手を輪っかにして上下に動かすイーリエ。
そばかすがなければ、娼婦としてやっていけそうな態度だ。
いや、あっても出来そうだが……。
「ともあれ、明日は街でおまえの日用品を買って、仲介屋を紹介してやるよ」
「いいんすか?」
「恩を売っておけば、そう簡単に裏切れないだろ?」
「なるほどね……」
ごくごく、とミルクを飲むイーリエ。
そういえば今日の夕食はどうしようかな。たしか保存用の弁当があったはずだが……。
そんな事を考えていると、レイルが風呂から上がってきた。
簡素なシャツにホットパンツだ。今日はもうシェルターから出る気がないらしい。
「あー!! ボクのコップ使ってる!!」
「コップなんてどれも一緒でしょ……」
「汚い汚い汚い!!」
地団駄を踏むレイル。
吹き抜けでやるからドンドンドンドンとうるさい。
やめてくれよ、ソファで寝てるんだから……。
「洗えばいいっしょ」
「他人が使ったのって汚いじゃん!!」
「処女厨っすか?」
「はぁ!?」
「てか処女っすか?」
「はぁあああああ!?」
セクハラしまくるイーリエ。年下の女の子に対して、とんでもない女だ。
レイルが吹き抜けから飛び降りてきて、一気にキッチンのカウンターまで近づいた。
危うく踏まれそうになったな……。
「しょ、処女とか関係ない! ていうか女性がそういうことあんまり言うべきじゃない!」
「照れちゃって~~。その様子じゃ男のナニも見たことなさそうっすね~~」
「そ、そんなのどうでもいいし!! ねぇ~~ヤマト~~!! こいつ追い出して~~!!」
レイルが懇願するかのようなふにゃふにゃ声で、イーリエを指差す。
イーリエは美少女にセクハラするのが楽しいのか、めちゃくちゃ下卑た笑みになっていた。
…………そういえば二人とも髪を下ろしているな。
レイルは腰まで長いけれど、イーリエは肩ほどまで。
こうしてみると普段と雰囲気が違う。
なんてことを思いつつ、俺はソファの上で寝てしまった。
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