007:山賊討伐任務

 カフェの店長に菓子折りを持っていくと、「こちらこそ庇いきれなくてすみません」と逆に謝られた。こちらが迷惑をかけたというのに人格者なことだ。ちょっと爪が剥がれてたので、拷問を受けたのだろうか? 申し訳ないな……。


 ジャンク屋でスーツとドレスを受け取り、その日は帰宅。

 翌日には任務である山賊退治に向かうことに。


 いつものように俺はボートに待機。

 遠方からドローンを飛ばしたり、無線を使って指示をする役目だ。

 弱い……からな。


「今回の作戦は山賊どもの襲撃。一人名の売れた傭兵が参加しているようだ」

「へぇ、それでどうするの? 特攻?」

「まさか」


 ボートの中、操舵室でレイルと作戦会議を繰り広げている。

 ドローンで取った航空写真をMAPに変換し、ウィンドウに映す。

 連中の拠点は谷の工場にあり、三方を崖に囲まれていた。


 当然、崖の上には監視カメラやセンサー。侵入できる一方にも監視カメラやセンサーがあり、侵入者をいつでも発見できる仕掛けになっている。なかなかに攻めづらい仕掛けだ。


「本来なら出てくるのを待って、仕掛けるのが定石だけどな」


 今回は予定が押しているのでそんなわけにもいかない。

 どちらかといえば誘い出すべきだろう。


「そんなわけで、今回は真正面から陣取ってやろうと思う」

「へぇ?」

「そのためにレッドキャップの装備も変えてきた」


 今回は白蛇の外装を盾にした装甲特化といったところだ。

 つまり谷の出入り口に陣取り、レールガンで応戦する……という作戦だ。

 相手が近づいてきたら、装備をパージし近接戦を仕掛ける。


 まぁこんなところか……。


「了解~~」


 そう説明すると、レイルは自分の作戦だと言うのにふぁあと欠伸をしてみせた。

 ピチピチのパイロットスーツで大きく伸びをする姿はまるで猫のようだ。


「まぁ、ちゃちゃっとやってみるよ」

「ああ、いざとなれば撤退しろ。無線やドローンで随時サポートする」

「期待してるよ」


 話が終わると、レイルはボートのブリッジに出た。

 そこに置かれているレッドキャップのコックピットに登る。


 ちなみに空き缶ロボは頭上から内部のコックピットに入れる形だ。

 背中にちょっとした取っ手もついており、ハシゴみたいに昇り降りできるぞ。


『レッドキャップ――レイル・ニーズヘッグ。出るよ!!』


 ボートのブリッジが伸び、カタパルトになった。

 そこからブーストし、ブリッジから飛び出していく。

 

 そのままバックパックからブーストしつつ、谷の入口へと向かうレイル。

 装甲が強化されているから普段より少し重そうだ。


「よし、そこで待機しろ。敵が来るはずだ」

『OK、予定通り簡易塹壕を設置するよ』


 持っていかせた盾を展開し、塹壕代わりにするレイル。

 盾の穴からレールガンを取り出し、敵がやってくるのを待つ。


 さて、予定通り来るかな……。

 そう考えていると、数体の空き缶ロボが敵拠点から飛び出してきた。

 向こうにも狙撃用の武器があるようで、向こうからも撃ってくるが……。


 ぼぼぼっ、と白蛇の盾がそれを防いだ。

 硬いわけでもないなんとも微妙な音だ。内部のシードルが衝撃を吸収しているからか。


 その間にレイルがレールガンで狙撃していた一体を撃ち倒す。

 

『まず一機~~』


 痺れを切らしたのか、二体、三体と同時にこちらへと近づいてくる。

 レイルがそれを狙撃するも当たらない――が、地面が吹き飛び足回りを負傷したのか一体が倒れた。しかし残り二体が近づいてくる。


 だが、俺も見ているだけではない。


 近づいてきた空き缶ロボたちの動きが遅くなる。ドローンによってワイヤーを仕掛けておいたのだ。業務用の、かなり重い荷物でも持ち上げることが出来るものだ。


 もちろん切断するほどの威力ではないが、明らかに一時的に動きが止まる。

 そこをレイルが狙撃し、二体目、三体目が爆発した。


『三機撃墜! あと何機だっけ?』

「向こうはあと二機。それから傭兵が一機だ」

『でももう出てくるかな? 流石に学習しただろうし……』

「そうだな……」


 三機相手ならば寄せたっていいが……。

 けど、ヴァルチャーとやらが怖いな。もう少し様子見しておくか。

 ……などと考えていると、明らかに妙な機体が出てきた。


『なんだあれ?』


 機械仕掛けの鳥――というにはかなりデフォルメが効いたデザイン。

 ブースターがついたウィングに、鳥の嘴のようなバイザー。

 とはいえ素体は空き缶ロボだが。


 ちょっとかっこよくなった羽付き空き缶ロボ(灰色)だ。


「気をつけろ、アレがヴァルチャーだ」


 地面に着地したかと思うと、ブースターを効かせてこちらへと飛んでくる。

 飛翔と言うより、ブースターの勢いによる突撃。


 しかし浮力があるのか、切り立った崖を縦横無尽に駆け巡る。

 そのまま近づいてきたかと思うと、両手に持っているガトリングでこちらを撃ってきた。


『くっ!!』


 レイルも只者ではない。盾によって、そのガトリングを防ぐ。

 一発一発の威力はそれほどでもないようで、盾を破壊するには至らない。


 そのままレイルの後方へと飛び去っていくヴァルチャー。

 まずいな。後ろには盾がないぞ?

 ちょうど残り二機が敵拠点から出てきたし。


「レイル、作戦変更。武装を捨てて近接型に変更しろ」

『了解! どっちから倒す?』

「まずは近づいてくる二機だな」


 戻って来るヴァルチャー。再びガトリングをかましてきたところで、レイルは盾とレールガンを捨てていつものパイルバンカースタイルに。


 そのまま敵拠点へと飛び跳ね、駆けてきた二機に近づいていく。

 二機が応戦しようと、銃器を取り出して撃ってくる。


 レイルの移動技術もヴァルチャーに劣らない。

 谷を左右に動きつつ、崖を蹴って上空に跳ねたかと思えば――。

 そのまま一機を落下の要領で串刺しにした。


「あと二機!」


 残る一機が銃を撃ってくるが、串刺しにした空き缶ロボを盾にしながら接近し、そのままパイルバンカーで三色団子のように貫いた。


 外れる杭。そのまま爆発し、レッドキャップは走行する。

 次いで、ガトリングの弾がその二機に降り注ぐがそこにレイルはいない。


 爆発の煙でレイルを見失ったのか、適当にガトリングを連射している。

 しかしレイルは崖を蹴って、ヴァルチャーの上空にいた。


「これで、最後ォ!!」


 パイルバンカーが、ヴァルチャーの背中を貫く。そのまま爆発せず、ヴァルチャーは墜落した。

 レイルはその背中から飛び跳ね、再装填した杭をヴァルチャーに向ける。


『待った待った! 完敗!! 降参ッス!!』


 通信が入ったかと思うと、茶髪ツインテールの少女がヴァルチャーから出てきた。

 まさかこの娘が動かしてたのか?


 顔立ちはそこそこに整っているが、そばかすだらけで八重歯が目立つ。

 子供っぽい印象を受けるが、その割には凹凸が目立つ体型をしていた。


「あーた、やるっすね。ウチ、イーリエ。よろしくっす」

『…………降伏? どうしよっか、ヤマト』

「無理して殺す必要もないな。とりあえずそのままで待機。迎えに行く」


 俺はボートを走らせ、レイルのいる崖へと向かった。

 この場合、捕虜になるのか? どうしようかな……。

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