006:街頭交流任務
「久しぶりだな……」
ライズも
ゲーム原作だとレイルと恋仲であると自称し、「私の恋人を殺した」と主人公に粘着する。
その実力はそれなりのもので中盤何度も戦うことになり、思い出深いキャラクターである。
「私の恋人は元気かね?」
「あ?」
「レイルちゃんのことだよ」
にこやかな顔でライズはそう言った。
一応言っておくが、俺がライズからレイルを寝取ったわけではない。
俺は無線をレイルに繋いだ。
「とかなんとか言ってるけど?」
『うげーっ! まだ生きてたのそいつ!! 妄想も大概にしてよ!』
「……だそうだが?」
「妄想なものか! 美人は皆、私の恋人だ!!」
……この通り、こいつは女癖が死ぬほど悪い。
顔立ちは整ってるんだがな。ただ別にハーレム野郎というわけじゃない。
むしろもっと酷い。
「おまえそう言って手を出すだけだろ」
「そうだな。レイルちゃんは君のせいで出しそこねた。今度改めて一晩過ごしたいところだね」
『キショい。ヤマト、そいつ殺して』
「……だそうだが?」
「ははは!! 申し訳ないが、君の容姿と下半身以外には何の価値も感じてないのでね!!」
……とまぁ、著しい男尊女卑野郎なのだ。
女を自分のティッシュ代わりか何かとしか思っていない。
レイルと恋仲――というのも、一方的な自称だ。
ゲーム本編ですら、恋人らしいことは何一つしちゃあいない。
むしろ日常的にこの男にレイルが襲われていたことがログから判明する。
レイルだけではない。捕縛された美女は大体襲っているという設定だ。
こいつのそんな悪癖を知っていた俺は、レイルを回収したその日に彼女を連れてこっそりとチームから離脱した。その際に襲おうとしているこいつを背後からぶん殴ったっけ。
初日からガキを襲おうとするな。マジであの時、始末しておけばよかった。
「で、何の用だよ」
「用なんかないさ。たまたま私の進行方向に君がいただけだろ」
「ああ、チームの生き残りってわけか……」
つまりこいつもアンドーに雇われている傭兵の一人ということだ。
隙を見て殺そう、うん。
「アンドーさんは素晴らしいよ。仕事をすれば、恋人をあてがってくれるからね」
キランッ、というエフェクトがつきそうな笑顔だ。その青髪を手櫛で撫で払う仕草は、黙っていれば女が寄ってくるイケメンと言っていい。カスのくせにな。
「恋人ってそういうものじゃないだろ」
「モテない人間の僻みかい?」
「おまえ、ヤッた女とどういう関係をしていたら恋人だって思うんだ?」
「関係……?」
心底、こいつは何を言ってるんだという顔だった。
ヤることしか頭にない顔だ。マジで殺そうかな、こいつ。
「おっと、それじゃあ私はアンドーさんに呼ばれているので、これで」
「ああ、夜道に気をつけろよ」
「ハハハ、こちらの台詞だよ!」
チュッ、とわざとらしく投げキッスをしてくる。キショいよ~~。
ともあれ、奴が地下に降りていくのを見送ったあと(背後から襲われたら敵わないからね!)、俺はジャンク屋へと向かい始めた。
『う~~~サブイボがたった。あんな奴、思い出させないでよ~~!』
「いや、おまえのことを恋人だとかなんとか言うから……」
『ありえないから! ボクはヤマト一筋だよ!』
無線の向こうでむくれているのがわかる。
はいはい、と適当にあしらって俺は街を歩いていった。
◆ ◆ ◆
「スーツとドレスねェ。サイズは?」
「データ送るよ。パイロットスーツ用に頻繁に測ってるから大丈夫なはずだ」
ジャンク屋につくと、さっそくジェイムズに服を頼んだ。
ジェイムズは作業机でなにやらパーツを弄っており、少しばかり忙しそうだ。
俺は皮がすこしばかり剥げたソファに座りながら、それを見つめる。
「うちは服屋じゃないんだけどナ」
「そう言わずに頼むよ。どうせパイロットスーツ関係で洋服も扱ってるだろ?」
「チッ………まぁいいサ。どういうドレスがいいのかリクエストはあるのカ?」
カリカリとドライバーを回しながら、ジェイムズが言う。
ドレスか。俺のスーツなんてどうでもいいけれど、レイルはなにか要望あんのかな。
無線で聞いてみるか。
「レイル、どんなドレスが良い?」
『え? なんでもいいよ。おまかせするよ!』
「……だ、そうだけど」
ジェイムズが深い溜息をついた。
そんなこと言ったって、俺もレイルも服なんて大して気にしないし。
「じゃあこっちで適当に見繕うゾ。娘に任せル」
「娘さんがいるんだっけか」
「ああ、オマエラのようなのには会わせんガ」
「へいへい……」
言われても仕方ない。こちとらヤクザな商売だ。
いつ襲われたって仕方ないし、今だってジャケットの裏に銃を仕舞っているからな。
「服はいつ頃届きそう?」
「急ぎカ?」
「数日後だな」
俺がそう言うと、ジェイムズはその禿頭を掻き、面倒くさそうに欠伸をした。
突然ですまないねぇ……。
「だったらありあわせで間に合わせル。数時間で用意する。待ってロ」
「いや~~さすがはジェイムズ」
ジャンク屋とは思えぬ対応である。
娘さんに伝えるためか、作業台を離れたかと思うと居間の方へと行った。
『OK!』と明るい声が聞こえる。どうやら娘さんのようだ。
数時間か――その間、暇だな。
またカフェに行って、店長に礼でも言ってくるか。
俺は立ち上がり、ジャンク屋の扉を開いた。
「じゃあ数時間後にやってくるよ。荷物はボートに積んでおいてくれ」
「おっと、待ちナ。オメェ、アンドーから依頼を受けたんだってナ?」
そう言って、ジェイムズが居間から顔を出した。
さきほどそんなことを言ったような気がする。
言わなくてもこの業界は情報が早い。伝わっていてもおかしくないが。
「ああ、それがどうしたんだ?」
「恐らく相手はローザ団。あそこは良い傭兵を雇ったって聞くゼ」
「へぇ、どんな傭兵なんだ?」
ジェイムズが言うからには、相応の傭兵なんだろう。
ネームドじゃなければいいけれど……。
ジェイムズは葉巻を出して、ライターで火をつけた。
ふぅ、と息を吐く。少し長い話になりそうだ。
「ハイエナ喰らいのハゲワシ……”ヴァルチャー”なんて呼ばれてるそうダ」
「ヴァルチャー……」
聞いたことのない呼び名だ。となればネームドではないか。
しかし原作の登場人物でなくても、名が売れているというのはよくあることだ。
ヴァルチャーもそんな傭兵の一人なのだろう。
「ガトリング使いで、中距離に強いとかなんとか……とにかく気をつけるこっタ」
「ああ、ありがとう。あとで調べてみるよ」
「まぁレイルちゃんなら大丈夫だと思うけどナ」
ガトリングか。距離を近づけば回避するにも限度がある。
装甲を厚くして耐えるのがセオリーだが……ああ、ちょうどいい素材があったな。
アレを使わせてもらうとするか。
「一応、戦術も思いついたぜ」
「流石は指揮官様ダナ。たまには戦ったほうが良いんじゃないカ?」
ふっ、と肩をすくめるジェイムズ。
あいにくとコントローラーとは理由が違うんだよロボの操縦は。
それに正直ゲームでさえもストーリー攻略が精一杯で、マルチプレイじゃいい餌だった。
つまるところ、俺にパイロットとしての才能はないのだ。せいぜいサポートに徹するとするさ。
「話はそんだけか? ちょっと遊びに行ってくるけど」
「カフェに行くつもりカ? けっこう迷惑被ったみたいだから土産を持っていってやれヨ」
「言われなくても」
今度こそ俺はジャンク屋を後にし、カフェへと向かった。
途中の地下街でなんか土産でも買っておくか……。
なにがいいかな。カフェだからお菓子とかにしておいたほうがいいかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます