第2話 曇り空の下で風邪をひく
「…でここが図書室で、奥にあるのが放送室。そのまま奥行くと特別教室棟に繋がってる感じ…部活入るならよく来ることになるかもだけど桜木さんは何か部活入るの?」
「いえ、入る気はありませんね」
「…そっかぁ~!図書室とかは?本とか読まない?」
「読みますね」
「…読むんだぁ~!俺あんま読まないからおすすめとか聞いてみたい…な?」
「人によるので」
「…確かにねぇ~~!!」
今わかった事が二つある。
一つは案外俺は俺の方から距離を詰めるのが下手くそってこと。あのクラスメイトとか周りの人たちだからこそ人に囲まれる人生を送っていただけだったってことが痛いくらいわかった。
そしてもう一つわかった事。それは桜木さんはそれを超えるレベルで距離を詰めるのが下手…というかありえないくらい人と距離を置いている事だ。さすがに事務的に教室の場所だけ教えてはいバイバイなんてあんまりだと思って色々話題を振ってみてはいるのだけど打率0。選手交代を視野に入れるべきかもしれない。いやまだ諦めんぞ!学校以外の話題なら…!
「…そういえば聞いていいのかわかんないけどさ。なんでこんな時期に転校してきたの?」
「ん…仕事の都合ですよ。こっちに来ないといけなくなったもので、仕方なく」
おし!
「桜木さんも親の都合?実は俺もなんだよね」
「…琴ノ葉さんも?」
「うん、2年の1学期の初めから」
「にしてはクラスにかなり打ち解けていますよね」
「そうだね…どっちかっていうとそれはあいつらのおかげだけどさ」
「そうですか…」
そう、かく言う俺も転校生なのだ。ビクビクしながら教室の前で挨拶したのがたった数か月前とは思えないくらい打ち解けてしまったからたまに自分でも忘れる。下手したら未だ教室の隅で前の学校に思いを馳せて時間をつぶす孤独な学校生活を送ってかもしれないって考えたらやっぱりクラスメイト達には感謝をするべきなのかも。
「とまぁこんな俺でも仲良くなれたいい奴らばっかだからさ。わかんないこととか困った事あったら俺含めていつでも頼ってよ」
「…ありがとうございます」
フッとはにかむように笑った桜木さんに危うく心を撃ち抜かれそうになった。改めて顔がいいってヤバすぎるな…と心が揺さぶられたところで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
「お、教室戻らないとな。とりあえず案内はここまでにするけど大丈夫?」
「はい、大体の教室はわかったので…」
さすが優等生(推定)、一回の説明で構造を理解したらしい。そのままの足で教室へと戻り午後の授業を大人しく受けるのだった。
◆◆
翌日───
「の゛どい゛ったい……」
まさか風邪をひくとは…頼ってくれなんて言った次の日に風邪ひいて休むとはなんとも情けない。なかなか風邪をひく事は無いのだけれどもな…少なくとも引っ越してきてからは初めてだ。こっちに来て初めてのコミュニケーション失敗に体が驚いてるのだろうか?いや冷静に考えて間取さんに風邪移されてたパターンか。
まぁ引いてしまったものは仕方がない。学校に連絡はしたし今日はもうひと眠り…
Prrrrrr......
こんな時に誰だよもう…着信は…<武田>か?毎朝激しめの挨拶かましてくるクラスメイトで一番よく一緒に居るクラスメイトだ。今の時間は朝のホームルーム終わりぐらいだからかけてこれるのは納得だが、いったい何用で…?
「はい゛もしも゛し…」
「おー!琴ノ葉!今さっきアサちゃんから言われたんだけど風邪引いたって?大丈夫かよ~!」
「声゛おっき…うん、微熱だけど頭痛やばくて。どうしたの何か連絡?」
「いやいや連絡とかじゃなくてさ、友達なんだし心配ぐらいさせろよ?」
心配だからって病人に朝っぱらから通話かける奴がいるか!…と思いはしたがそれもこいつなりの優しさなんだろう。いつもこいつらクラスメイトには仲良くしてもらっているし、その中でも武田は特別だ。正直病気で心細かった精神がかなり励まされた。
少し嬉しくなった俺はまだガンガンする頭を持ち上げてベッドに座り直した。
「…ありがとな。ちょっと休めば元気になってるだろうから」
「おう、良かったわ!みんなも心配してたからよ」
「大袈裟だな…他の優しい優しいお友達にも復活するのをそのまま楽しみにして待っとけって言っといてくれよ」
「……おう、わかったわ。そろそろ切るぞ、ちゃんと風邪治せよ?」
「はいはい」
武田が最後の言葉を発するのに妙な間があった気がしたが、痛む頭じゃそんなこと気に留めることもできず頭痛薬を飲んでまた寝床に横になることにした。
◇◇
「…だってさ。そこそこ元気そうだな」
「そうだね。聞こえてたよ」
先ほどまで通話が繋がれていたスマホとそれに向かって話していた男子、それを囲むような形でクラスメイト全員が通話に耳を傾けていた。皆貼り付けたような笑顔で、恐ろしく静かに佇んでいる。
「みんな聞いてた通り『楽しみに待っとけ』だって。」
「うん。じゃあみんな言われた通り待ってようね。」
教室は登校してきている生徒全員が居るのにも関わらず、騒めき一つない静寂だった。
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