第3話 病み上がりに闇に入る

──結局俺が体調を回復させて学校に行けたのは二日後のことだった。

熱自体は大したものじゃなかったのだが体の怠さと頭痛が少し後を引いて2日休むことになってしまったのだ。もうすっかり体調は治ったが二日分遅れた授業のことを考えるとまた頭が痛くなってくる気がして萎えてきた。

ため息をつきながら歩いていればもう学校はすぐそこまで近づいていた。だからこそ気づいた違和感。


「…?人が少ない…?いやそうじゃないな…クラスの奴らが居ない?」


 顔も見たことない生徒、おそらく他学年だろうか?知り合いじゃない生徒は普通に居るのにクラスメイトだけ居ない。時間は間違いなくいつもの時間で遅く出たわけではないし、もしかして伝えられてないだけでクラス集会とかがあるのか?

そんなことを考えながら校門をくぐり教室へ向かう。後ろから突撃されないし、通るたびにすれ違うクラスメイトに挨拶して回ることもない。別に文章に起こすとおかしいところなど無いのだが…どうしても違和感が拭えない。

教室が静かなことに加えて焦りでドクドクと自分の動悸が聞こえてくる。スゥーッと大きく息を吐いてドアを開いた。そこには……


「お!来たな扇!おはよう!」


 いつものようにみんなが迎えてくれる教室があった。強張った体から力が抜けていく。多分みんなからも俺の間抜けな笑顔が見えているのだろう。クラス中のみんな席に座ってこっちを見ながらニコニコと笑って…みんな笑って………


「…もうみんな揃ってるの?」


 別に時間が早いわけじゃないが全員揃ってるなんてことは今までなかった。もっと遅い奴もいるし来ていたとしてもいつもなら席に着かずにみんなそれぞれで会話をしている筈だ…それがさっきドアを開けるまでこの教室は静寂に包まれていたのだ。それってつまり…


「おう!どうした扇?入れよ」


「え、あ…そうだな。いや朝早めなのに皆もう居るからびっくりして…やっぱ今日なんか集会とかある感じ?」


 頭をよぎった気味の悪い憶測を遮られるように声を掛けられ、そんなはずがないとかぶりを振りながら話を続ける。しかしその気味の悪さは結局振り解くことはできなかった。


「何言ってんだよ~!お前が言い出したんだろ?」


「…は?俺?」



「みんな待ってたんだよ。教室ここで


 教室で…ずっと…?ずっとって何時いつから…?朝早くから俺を迎えるだけのためにクラスのみんな集まったのか?碌な話もせずに席にピッタリ張り付く様に座ってか?

背筋に何かが這い回るような違和感がさらに強くなる。これのどこがいつもの教室なんだと数秒前の自分をぶっ叩いてやりたいくらいだ。もう俺の目には皆の笑顔が何かを隠している様にしか見えない。


「ずっとってみんな何時いつから…」


「いいからいいから、さっさと席に着いて話しようぜ?」


 もう何なんだ一体!?やけに教室に引き入れてくる押しが強いし武田以外はニコニコと薄ら笑いでたたずんでいるだけで特に声を発するわけでもないのが気味悪すぎる!一刻も早くこの教室から離脱したい…!


「あ、いやえっと…うん…ちょっとゴメン!トイレ行ってからにしてもらうわ!!」


咄嗟に言い訳をして教室から離れる。何かされたわけではないが、このままいれば何されるかわからないってことが肌でわかる。でもどうしよう…アサちゃん先生なら何か事情知ってたりしないか…


「動くな」


 トイレに行く途中の階段の陰からいきなり首元を引っ張られてバランスを崩す。倒された俺は口元を抑えられて喋ることができない。喉にヒヤリと金属が降れる感触で確かな殺気を感じて動く事すらままならなくなってしまった。


「喋らずに着いてきて、言われたこと以外しないこと…妙な動きをしたら殺す」


「…!!!んむ…!」


 時代錯誤の日本刀を持って情など微塵も感じさせない冷ややかな目で見ながら俺を脅していたのは他でもない桜木さんだった。

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