第6話 力士達が、薄皮あんぱんの集団ように見えた

「女神ぱわあぁぁ~~~~~~~~~~~~!!」




グラウンドを引き裂くほどの大声を上げ、力を放出したラブ。

だが即効性が無く、特に変化は無い。

クラウンはピンピンしている。


「うぬぬぬぬっ…………ぬぬっ。んん~~~~!!」


ラブは細い杖を重量挙げ上げするみたいに鼻息荒く踏ん張っている。


「お、クラウンの足元が微かにだけど浮いてるぞ」と俺は声をかける。


「めぇがみいぃ……ぱぁ、うわぁ~~~~……」


気が抜けないのかラブは返事するかのように『女神ぱわ~』と引き続き唱えた。


クラウンは嘲笑う。


「やはりこの程度か。お前達には最初から期待などしていな――――」






「でりゃあああああああああああああああああああああああ!」






顔を真っ赤にしながらラブは杖を振り上げた。


「おっ?」と俺。


「なっ――――!?」


クラウンが異変を感じとった時にはもう遅かった。

教室でラブが放り投げた机よろしく、クラウンは爆風で打ち上げられたかのように上空に吹き飛ばされていたんだ。






「おのれ、よくもこの俺を――――だあぁあぁあぁあぁ」






俺はその場を立ち上がりながら、


「おいクラウンを吹っ飛ばしてどうする! 笛も一緒にあっち行っちゃったぞ」


「そ、それがっ――範囲選択が――難しく――てぇ――――め、が、みぃ、ぱぅわ~~~~~~~」


ラブの『女神ぱわ~』はなおも続いていた。

息みすぎて顔が真っ赤で、涙目になっている。

どうやらラブは、クラウンが地面に激突しないように踏ん張っているようだった。

そのお陰でクラウンはまだ宙に浮いたままで、ゆっくりとゆっくりと落下している。

だけど七ラブの体力は持ちそうになく、今にも急降下していきそうだ。





そんなところに救世主が現れたんだ。





クラウンの到達予想地点付近にいた相撲部の力士の面々が――――張り手の練習かと思われたそれは仲良くアルプス一万弱をしていただけで――――クラウンの叫び声を聞きつけると、その手の動きをぴたりと止め、クラウンの助けに入ろうとフォーメーションを組み始めたんだ。

遠くから眺めている俺には一カ所に集まりだした力士達が、薄皮あんぱんの集団ように見えた。

もっちもち。


ラブの「うぬぬ……」もやがて力尽き「ふわあぁ!」と倒れ込んだのと同時にクラウンは地面に落下した。


力士達にチャッキされるかと思いきや――――。

それをよしと思わなかったクラウンが、途中で自ら軌道を変えたんだ。

そしてせっかくの力士達のクッションをわざわざ回避し、自分から地面に激突しにいった。


痛そう……。


俺はへたばってるラブを置いてクラウンの元まで駆けていく。

怪我人を放置もよくないし、倒れてるなら笛も簡単に拝借出来そうだからな。


現場に到着すると、力士達に囲まれているクラウンを目視で確認。

起き上がるのを手助けしようとする力士達にクラウンは悪態をついていた。


「触るな! 施しなどいらぬ! 俺を惨めにさせたいのか、性悪共め。礼など言ってやらないからな。どうせお前達にとったら今のは造作も無いことなのだろう。フンッ。体力馬鹿共め! 余計憎くて仕方が無いわ」


酷い有様だ。






暫くすると、ぜぇはぁ言いながらラブもやって来た。


「ご、ごめん、ごめんね」と割って入り、クラウンに手を差し伸べるラブだったが、


「全て自分でやれる! ほっといてくれ!」とラブにまで当たり散らしたクラウンだった。


「そ、そんな、あたしが傷つけちゃんたんだし。謝らせてよ」


「フンっ。謝罪などいらん」


クラウンは誰の手も借りず一人で立ち上がると、何事も無かったかのように高慢な態度に戻った。


「よくもやってくれたな。お前らの目当てはこれだろう? 絶対に渡すものか!」


仮面の下では顔が真っ赤になってそうだなこいつ。


「あぅ……ラブがミスったせいで……もっと意固地になっちゃった……」


隣でラブがしょげているので俺は、


「元々人間嫌いって感じな奴だから関係ないと思うぞ」


「そうかな……はぁ……」


萎れるラブ。






「取れるもんなら取ってみろ」






クラウンは俺達を煽るように天高く笛を掲げる。

格好良く決めポーズされているようですか、先程から運動会種目の玉入れの玉をぽふっぽふっと投げつけられているクラウン。

笑っちゃ可哀想だな。





その時だった。





「おい休んでねーで玉入れろよ! 負けちまうだろうが」


クラウンの横で一生懸命玉入れをしていた生徒が、怒鳴ったのだった。

突然怒鳴られて意識を持ってかれたのか、クラウンは


「ああ、すまない」っと言うと――。





ポイッ。





手に持っていた笛を、ひょいと投げてしまたんだ。


「――あ」


俺は息を飲んだ。瞬きせず笛の行く末を見守る。

笛は放物線を描くと、玉入れのカゴにすっぽり入ってしまった。


「はああぁ!?」


俺は悲鳴をあげていた。

だって煽ったそばから、あいつアホ過ぎるだろ。


にわかにラブが、それらを上塗りするかのように素っ頓狂な声を出したんだ。

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