第7話 グラウンドが阿鼻叫喚
「ああああああああああああ! ア、アニキィ。大変ですぜ。あっちでテニス部の人たちが調子乗って素振りなんかしてますぞ! 体力自慢に精を出してる奴らに活を入れてやってくだせぇ!」
うるせえ。
そしてなんだその突然の子分キャラは。
「それはどこだ、とっちめてやる」
「あっち。あっちです!」
遙か彼方を指差すラブ。
たしかにテニス部の連中がいたけど、素振りというよりラケットでチャンバラしてるように見えるがな。
クラウンは鼻息荒く不届き者を探しに行ってしまった。
その背中を見送ってから俺はラブに注意した。
「いきなりなんだよ。今はそれどころじゃなくてだな、あいつミスって笛を――」
ラブは、シィ! 黙ってとポーズしてきた。
とりあえずは黙るけど。なんだよ。
怪訝な顔してるとラブが俺の耳元で囁く。
「時間稼ぎだよ。まだクラウンは笛を無くしたことに気づいてないみたいだから、できるだけ引き剥がしておこうかと思って」
「お前頭いいな。見直したぞ。ちょっとだけ」
「いひひ」
子分のような笑い方だった。
挽回のチャンスだとばかりにラブは活力を復活させていた。
「今度こそちゃんと出来るんだから。ラブにまっかせなさいっ。クラウンがいないのだからお茶の子さいさいです」
生徒達がぽんぽんと玉を投げ込み続けているカゴに睨みをきかせると、ラブは杖を振り上げる。今度は軽やかな動きだった。
「女神ぱわ~!」
どうなるどうなる。
俺は玉の入ったカゴを注視する。
すると動いたんだ。
カゴの中の玉が、煮えたぎる鍋のようにグツグツと動き出したかと思うと――――
暴発した。
弾けたポップコーンのようにカゴの外に次々と飛び出していく玉。
周囲で悲鳴が漏れる。
「ワッタッファック!」
「せっかく入れたのに!」
「どうなってるんだ」
「勝ってたのにー! チクショウ」
阿鼻叫喚。
生徒以上に慌てふためくラブは、
「ご、ごめんなさい! ラブなんとかするから。直すから――」
笛のことより、ひんしゅくを買うことのほうを恐れたラブはカゴの外に出てしまった玉を戻そうと再度『女神ぱわ~』を使った。
しかし、結果は上手くいかなかった。
地面に落ちている玉が宙に浮いたまでは良かったんだ。
だけどその後、玉がグルグルと渦を巻いたかと思うと旋風を起こし、砂嵐を発生させてしまったのだった。
「てぃっ、やぁ! うりゃぁ――――」
みなの怒りを沈めたいがあまり、無我夢中で『女神ぱわ~』を使いまくるラブ。
自分が非常事態を発生させていることに気づいていない。
「やめろ! やめてくれぇ!」
俺は強風に体を持ってかれないよう身をかがめながらラブに叫んだ。
だが風のせいか俺の声が届かないらしい。
ラブはなおも『女神ぱわ~』を使い続ける。
こうなったら直接ラブの元まで行って止めなくてはならない。
俺は両腕で顔を守りながら一歩ずつ歩みを進めていく。
もう砂がぶつかってくるのか玉がぶつかってくるのかわからん。
とにかく肌が切り裂かれるように痛む。
ラブの謝罪相手である玉入れ競技の生徒達は強風に吹かれゴロゴロ転がりながら、どこかにいてしまった。
そんな中、強風にびくともしない連中がいた。
相撲部の力士達だ。
俺はそいつらの間を進むことで風をしのぎ、ラブの元まで来ると、ひょいと杖を奪い取ってやった。
「ひゃうん!」
突然、自分の杖をもぎ取られたラブは変な声をだした。
頭がクラクラしているようだった。
次第に『女神ぱわ~』の効力も消え始め、風が止んだ。
平和を取り戻したグラウンドだが、辺りはひっちゃかめっちゃかだった。
我に返ったラブが一言。
「ピィ君――――頭ボサボサだよ」
「お前も綿アメみたいになってんぞ」
「ありゃりゃ、本当だ」
自分の髪を触って確かめてるラブの横で、俺は地面に倒れ込んだ。
ラブの杖も適当に地面に転がした。
あー疲れた。
「お前もう気安くその『女神ぱわ~』使うな。てか『女神ぱわ~』とか名前ダサすぎて口に出したくねぇよ俺。何度も連呼してて恥ずかしくないのか」
「うえぇん。立て続けに傷つくこと言わないで。名前ダサいの今関係ないデショ」
ラブは意気消沈しちゃってる。
そして笛の行方はというと――。
強風にやられ人間が転がっていったというのに未だに笛はカゴの中にあった。
笛のヒモがカゴに引っかかってるせいで簡単には出てこないのだろう。
ちなみに、玉入れ競技は再開しようとしていた。
両者とも風でカゴから玉が減り、差がたいして無いのでこのまま続けるようだった。
「ラブは『女神ぱわ~』禁止されたらなにもできないよ……。だけど使ったら迷惑かけちゃうし……ラブもうどうしたら…………グスン」
ラブの『女神ぱわ~』は机や人間みたいな大きなものならいいが、笛や玉みたいな小さなものはコントロールが効かないんだろうな。
ラブの力が使えないとなると
――――俺がやるしかないか。
休憩も終わったことだし。
いっちょやりますか。
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