第5話 大人しく隅で丸まってまーす

グラウンドに出ると、どんちゃん騒ぎは収まっているどころか悪化の一歩を辿っていた。




一言でいうと、部活と運動会がごちゃまぜになりみんなで仲良く幼稚園レベルのお遊戯会をしている状態だった。

しかもヘンテコ化してしまっているので、まともに機能している種目は無いに等しい。



陸上部はハードルをフラフープみたいに腰で抱え部員全員で一列になって電車ごっこしてるわ、二人三脚してる人達は走るどころかしゃがみ込んでイチャイチャしたりお喋りに花を咲かせている。

ボールを使った種目の部員達はボールをテディベアやウサギのぬいぐるみに変えられてしまったらしく御人形とお外にお散歩ルックみたいになっていた。






「これもお前の『女神ぱわ~』の影響か!? 階段を食パンにしてみたいに。早く戻せよ!」


「ち、違うよ! これはあたしじゃない。ほ、ほら。彼だよ、彼が原因だよ!」


冤罪容疑をかけられたラブは疑いを晴らすため必死に朝礼台のクラウンを指差す。


「クラウンが『体育の先生の笛』を持ってるせいで、みんなクラウンの言うことに従わざるおえなくなってるんだよ」



俺はクラウンの胸元をじーっと確認してみた。

確かに銀色の笛が首からぶら下がっている。



それとヘンテコ現象によりあまり気にとめていなかったが、朝礼台の下では体育教師達が新体操で使うリボンでグルグル巻きにされた状態で芋虫のようにのたうち回っていた。

口が自由になってる体育教師がなにやら叫んでいる。


「コラ! 笛を返しなさい。授業が出来ないだろうが!」


ほらね、ラブが言っていたとおりでしょうエッヘンと態度を変えたラブは言う。


「ピィ君、クラウンから『体育の先生の笛』を取り戻そう。今こそ勇者の出番だよ」


「えー。やだ。めんどくせぇ。あと俺勇者じゃ無いし」


「もぉワガママ言わなーい。歩いて歩いて。行きますよーう」


ペシペシと俺の背中を押して歩かせてくるラブ。

イヤイヤながら俺はクラウンのいる朝礼台前まで来てしまった。






クラウンは細身の体型だった。身長も平均的。

そんなクラウンのブキミなお面がこちらを向いた。

背がぞくりとした。

仮面で表情はわからないが、開いた目元がら覗く瞳には憎悪が煮えたぎっていた。






「なんだお前達は。俺になにようだ?」






萎縮した俺はなにも言えず黙り込む。


すると、空気が読めないアホなラブがビシッとポーズを決め、宣戦布告したんだ。


「勇者のお通りだよ。『体育の先生の笛』を返しなさーい!」


おいおい。

本人目の前にしてその態度はどうかと思うぞ。

まずはもっと低姿勢に、穏便に交渉から始めるとか他にもなにかあるだろうが。

予想通りクラウンはブチ切れた。

そりゃそうだ。


「なんだと!? 奪われてたまるか。なんでもかんでも奪い取りやがって、俺から全てを奪う気か!」


クラウンは取られまいと胸元の『体育の先生の笛』を握りしめた。

演説をずっと聞いてて思ったんだけどこの人の私怨すごいんだよな。

言葉の端端から色んな恨みが吹き出してる。

これと対峙はキツイぞ……。


クラウンは毒づく。


「まっ、どうせお前達には出来っこないだろうがな。なにも成し遂げられない無様なお前達は、せめて怪我でもしないよう隅で丸まっていろ」






「あ、ならお言葉に甘えさせてもらうわ俺。大人しく隅で丸まってまーす」






俺は元気よく手をあげ、堂々と端っこに座りに行く。


「だ、ダメだよピィ君~! 戻ってきて、立ってぇ!」


せっかく座れて傍観者に徹する権利まで頂けたというのに、ラブが俺を立ち上がらせようと腕を引っ張ってくる。

なにをする邪魔するんじゃない。

俺は座っていたいんだ。

関わりたくないんだ。

俺は盛大なため息をつくと、ラブに言ってやった。


「無理だって。俺は素手しか選択肢ねえんだぞ。強くなければ体力も大して無い。どうやって笛を奪えって言うんだ。それよかお前の『女神ぱわ~』とやらで頑張ればいい話じゃん」


俺の言葉にキョトンとしたラブが暫し考えたのち、




「――――そっか。そうだよねぇ。ふんふん。あたしやってみるよ」




おっ。

どうやら納得してくれたようだ。

やったぜ。

言ってみるもんだな。


「頼んだぞ」


クラウンの言いなりの俺は、クラウンに言われた通りグラウンドの隅で丸まるまるとラブを送り出したのであった。


「笛を取ればいいんだね。まかせて。ラブちゃんは女神なんだがら、そんなの余裕だもん」


自分を鼓舞しながらラブはクラウンに向かって杖を両手で構えた。

目を閉じ、

集中する。

そして覚悟を決め――――。

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