第4話 これは見事な食パンだことで
教室を出ると俺は本当の意味での『女神パワ~』とやらを見せつけられたんだ。
廊下には貯金箱の豚のようなファンシーな動物が闊歩してるし、幽霊のような綿アメのような謎のふわふわが漂っていたり、自分の目を疑う現象があちこちで発生していた。
驚愕して歩きが疎かになってる俺は、ラブに引っ張られるまま廊下を進んでいった。
「うっわー。これは見事な食パンだことで……」
バージョンアップされた新しい階段をまざまざと見せつけられた俺は感想を述べた。
階段は並べられた食パンみたいになっていた。
水を怖がる犬みたく俺は自分の片足を恐る恐る階段に一歩踏み入れてみた。
ぱふっ。
ふかふか。
食パンの段差に足が沈んでいく。
「お前さぁ、階段はしっかり作ろうぜ、階段はよ。こんなんじゃまともに上り下りできねえよ」
「でもでも、お腹すいたらいつでも食べれるよ」
「食いしん坊に階段全部食われたらどうすんだ。終わりじゃん」
「ぷっ。くくくくくっ」
ラブが突然笑い出した。ツボに入ったらしく腹を抱えて身悶えている。
「全然面白くねえよ。昼休み中に階段が全部消えることになりかねないんだぞ」
「……ひっ…………んぐっ……ひひっ……」
ラブは呼吸困難ってほど笑っていて返答をよこさない。
文句言っても改善しないとわかると、俺はしぶしぶ食パンの階段を降りていった。
ゆっくりゆっくりと階段を降りていったのだが「これじゃよちよち歩きの赤ん坊じゃねえか!」と痺れを切らした時だった。
叫んだ拍子にバランスを崩したんだ。
あれよあれよと俺はふにゃふにゃの階段を転げ落ちていく。
全く痛くない。
それどころかふわふわで心地が良い。
小麦のいい香りがするし。
下に到着した頃には、俺の心はふんわぁ~りと腑抜けた気分になっていた。
なんだこりゃあ。
人をダメにするソファならぬ、人をダメにする階段か~い。
寝っ転がったままで居ると、隣にバフッと衝撃が起きて、ラブも転がって来たとわかる。
「くふふふふっ。楽しいねぇピィ君」
「全然楽しくないや~い」
「ふふふふふん」
俺達はまるでお日様に当たりながらのお昼寝気分だったのだ。
不意に、ぬくぬく気分をぶち壊す放送が流れた。
『二本足で歩けるだけで十分なのに、わざわざ己の強靱な肉体を見せびらかしやがって』
演説は依然と続いている。
現実に引き戻された俺は「はっ、いけないいけない」と、零れてきた涎をふき取り立ち上がることにしたんだ。
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