第11話:ノーサイド!さらば、愛しき奴らよ
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### **第5話:ノーサイド!さらば、愛しき奴らよ**
**決戦の火蓋が切られた。**
スタジアムを埋め尽くす大観衆。地鳴りのような歓声の中、若きジャパンは世界の強豪を相手に一歩も引かない激闘を繰り広げていた。
司令塔・大空 翼は、覚醒していた。
彼はもはや、ただの「貴公子」ではなかった。
時には、大門 哲(65)ばりの「全員特攻」をフォワード陣に命じ、自らは冷静に戦況を分析する「団長」として君臨する。そして、勝負どころでは、自ら敵陣に斬り込む「現場の刑事(デカ)」へと変貌した。
『矛』と『盾』、そして『魂』。全てを使いこなす翼の姿に、ベンチで腕を組む大門は、サングラスの奥で静かに頷いていた。
試合は一進一退の攻防が続き、残り時間1分。
スコアは、日本が3点リード。
だが、自陣ゴールライン目前まで攻め込まれ、絶体絶命のピンチを迎えていた。選手たちの体力は限界を超え、足が止まりかけている。
「ここまでだ!」
敵の巨漢センターが、最後の力を振り絞ってディフェンスラインを突破した。
日本の最後の砦、フルバックがタックルに入るが、弾き飛ばされる。
万事休す。誰もが逆転トライを覚悟した。
その時だった。
フィールドを切り裂くように、一つの影が猛スピードで戻ってきた。
大空 翼だ。
彼は、常人なら諦める距離から、巨漢の足元に、まるで銃弾のように突き刺さった。
**「確保ぉぉぉっ!!」**
それは、大門団長が乗り移ったかのような、魂のタックルだった。
巨漢はたまらずボールをこぼし、翼はそのボールに必死に覆いかぶさった。
**「ピーーーーッ!」**
ノーサイドのホイッスルが、スタジアムに鳴り響いた。
歴史的勝利。
歓喜に沸くチームメイトたちが、倒れたままの翼に駆け寄っていく。
勝利の輪の中心で、翼は空を見上げていた。
ベンチから、ゆっくりと歩いてくる人影があった。
大門だった。
彼は歓喜の輪には加わらず、翼のそばに立つと、ただ黙ってグラウンドを見下ろしていた。
翼は、てつを見上げて、息を切らしながら言った。
「…どうです、団長。俺の…現場(ヤマ)は…」
大門は、翼を見下ろしたまま、サングラスをそっと外した。
そこに現れたのは、長い捜査を終えた刑事のような、穏やかで、少しだけ寂しそうな目だった。
「…ああ。見事な、ヤマだった」
そして、スタジアムの観客席、夕焼けに染まる空、そして勝利に沸く若き仲間たちをゆっくりと見渡した。
「…いい景色だ。お前たちのおかげで、俺も最高の景色を見ることができた」
それは、かつてエンペラーとして頂点に立った時には見えなかった、新しい景色だった。
大門は、翼に手を差し伸べた。
翼がそのゴツゴツした手を掴むと、力強く引き起こされた。
「団長…」
翼が何かを言おうとした時、大門は背を向けた。
「俺の捜査は、これで終わりだ」
その背中は、夕陽の中でやけに大きく見えた。
**「さらば、愛しき奴らよ」**
彼は一度も振り返ることなく、ゆっくりとグラウンドを去っていく。
その後ろ姿に向かって、翼は、そしてチーム全員が、最大級の敬意を込めて叫んだ。
「「「団長ーーーっ!!!」」」
その声援を背に、大門はポケットから車のキーを取り出した。
遠くの駐車場で、赤い鉄仮面のヘッドライトが、一度だけ、キラリと光ったように見えた。
エンペラーてつの、長くて、そして最も派手な最後の事件(ヤマ)は、こうして幕を閉じた。
伝説は、若き刑事(デカ)たちの胸に、確かに受け継がれたのだ。
(エピローグへ続く)
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