「亡骸に誓いを、生者に絶望を」(2)

手にした長剣を取り落としそうになる。


地に伏しているのは、鍛冶屋のバルおじさんだ。 エドは確かに、自分の剣が正確に喉を切り裂いたのを覚えている。


だが今……バルの首は無傷だった。 代わりにあるのは、胸の大穴――そこには何らかの高熱魔法で直接貫かれたような、巨大で焦げ付いた空洞があった。傷口の縁からは、吐き気を催す黒い煙さえ上がっている。


エドは信じられない思いで視線を巡らせる。

別の死体は、全身ずぶ濡れで腹が膨れ上がり、口鼻から泥と川の水を吐き出し続けている――。 また別の死体は、折れた長槍が全身に突き刺さり、ボロボロの布人形のように変わり果てている……。



(ありえない!!!)


(僕の剣は首を狙ったはずだ……なんで傷口が――!)


この傷跡……。


この惨状……。


強烈な既視感が、重槌のようにエドの脳を打ち据える。



「うっ……あぁ……!」


エドは苦痛に頭を抱え、脂汗が瞬く間に額を濡らす。


(思い出せない、なんで……なんで思い出せないんだ……)

(あの日……あの日に起きたこと……)



「気をつけろ! エド!」

ミューサの悲痛な叫びが、エドの苦しい回想を無理やり断ち切った。

「呆けるな! こいつらは、死なねぇぞ!!!」



(死なない?)

エドは呆然と顔を上げた。 次の瞬間、おぞましい光景が、徐々に拡大していく瞳孔に映り込んだ。



バキ、グシャ、バキキ……。


周囲の「死体」が蠢きだす。


息絶えたはずの怪物たちが、まるで糸操り人形のように、極めて歪な姿勢で、血だまりの中から「折り畳まれる」ようにして、ゆらりと立ち上がっていく。 関節があらぬ方向へ曲がり、骨が軋む音が、耳障りな協奏曲を奏でる。



「――!」


この冒涜的な光景にエドの呼吸が止まり、本能的に再び剣の柄を強く握る。



「助けて……」


「死にたくない……熱い……痛いよぉ……」


怪物たちの顔は相変わらず死寂に満ちた能面のままだ。 だがその口からは、凄惨で、絶望的な、まるで死ぬ間際のような悲鳴が迸っている。

奴らが再び包囲を縮めてくる。 しかも今度は、その手に何もないところから武器が現れていた――錆びついた鉈、血濡れの柴刈り鎌、そして鋭利なピッチフォーク。



「さっさと離れろ、エド!」

師匠の怒声で、エドは瞬時に正気を取り戻す。


(余計なことを考えてる暇はない……ここを離脱しなきゃ!)



彼は奥歯を噛み締め、長剣を提げ、身を低く沈める。獲物を狙う豹のように、いつでも突撃できる態勢をとった。


不意に背後から、悪風が襲う!

一本のピッチフォークが、音もなく背後から心臓を狙って突き出された。


エドの心臓が跳ねる。身体は本能的に後方へ跳躍し、空を切ったピッチフォークの柄を軽やかに踏みつける。 その反動を利用して身を翻し、長剣を満月のように振り抜いた――。


ザシュッ!


「あぐっ……」


白い閃光。 襲撃者の首が一瞬で切り裂かれる。


(メイおばさん!?)


その顔を認識した瞬間、記憶の稲妻がエドの脳を引き裂いた。


――光景の中、メイおばさんは娘を必死に抱きしめ、地面に跪いて懇願している。 ――彼女の前に立つ帝国兵は、残忍な笑みを浮かべ、手にした長槍を、無慈悲に彼女の喉へと突き出し……。



ズシャッ!


「うっ……!」


背中に激痛が走る。 一振りの鉈が、隙をついて背中に骨に達するほどの深い傷を刻んだのだ。

エドはよろめきながら着地し、バックハンドで剣を振るう。 敵を退けたが、見えたのはマルクおじさんの顔だった。

脳裏に再び映像がフラッシュバックする――マルクおじさんが兵士の群れに囲まれ、乱れ突きにされ、ボロ雑巾のように血の海に倒れている。


(あ……あああ……)


背中の劇痛と脳内の映像が狂ったように交錯する。 剣を振るうたび、殺すたび、それに対応した絶望的な記憶が呼び覚まされる。

これは戦いではない。あの地獄のような虐殺を、何度も何度も強制的に追体験させられているようだ。

そして、波状的に押し寄せる痛みと混乱の中、彼が意識的に封印していた、最も核心的な記憶がついに浮上した。


……水源。 ……毒。


あの日、村の上流の水源に、あの男――ルグナーによって、全身を麻痺させる毒が投入された。 武芸の達人である師匠を含め、村の全員が、抵抗できない屠殺を待つ子羊となった。 誰も抗えなかった。 ただ親しい人々が虐殺され、地獄が顕現するのを、目を見開いて見ていることしかできなかった。


それは彼の生涯において、最も無力で、最も憎悪すべき悪夢。




「……ふぅ」


エドは濁った息を吐き出した。 この記憶が完全に蘇った時、彼の瞳から動揺が消えた。 取って代わったのは、ある種もっと深く、凍てつくような決意。


悪夢だというなら、断ち切るまでだ。


彼の動きに躊躇いはなくなり、弱点を正確に突くこともやめた。 手にした剣は挽肉機と化した。銀閃が走るたび、頭が飛び、胴体が両断される。



「ぐっ……うぅ……!」


背後からミウサの押し殺した呻き声が聞こえる。 エドが猛然と振り返ると、数体の怪物が鉈を振り上げ、重傷の師匠に斬りかかろうとしていた。


シュッ、シュッ!


エドは果敢にも目の前の怪物の腕を切断し、その手から鉈をひったくった。 腰の回転を利用して体を捻り、手にした長剣を槍のように投擲する!




ヒュン――! ドスッ!


長剣は流星と化し、ミウサを襲おうとしていた怪物の頭蓋を瞬時に貫き、幹に縫い付けた。


ミウサは勢いよく木に刺さった長剣を引き抜き、裏拳で周囲の敵を薙ぎ払う。 彼は肩で息をしながら、エドに向かって叫んだ。


「ここは分が悪い、こいつらは倒してもすぐに蘇る、逃げるぞ!」



エドは頷いた。 確かに、生理的嫌悪感を催すこの怪物たちは、殺せないだけでなく、憎たらしいことに見知った顔を被り、崩壊しつつある彼の神経を刺激し続けている。


「せいっ!!!」


エドは裂帛の気合と共に、二刀流を暴風のように振るい、瞬時に目の前の障害を排除した。 身を翻してミウサの元へ跳び、師匠の太い腕を肩に担ぐ。


「走って!」


大小二つの影は、怪物たちの慟哭の中、包囲網を突き破り、森の奥に広がる果てしない闇へと向かって疾走した。

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