第4話:解き放たれた黒い獣

「ガァァァァァァッ!!」


 咆哮。

 それはスピーカーを通した電子音ではなく、まるで鉄の巨人そのものが悲鳴を上げているかのような、魂の叫びだった。


 地下実験室の分厚い防壁が、紙細工のように引き裂かれる。

 白銀の機体――星装機『バルキリア』は、その全身から漆黒の靄(もや)を噴き出しながら、外界へと飛び出した。


 向かった先は、実験棟の上層。

 ノアⅣの象徴であり、戦いと熱狂の聖地――『闘技場(アリーナ)』だ。


(殺す……殺す……ッ!)


 コックピットの中、俺(カイト)の意識は憎悪の海に沈んでいた。

 網膜に焼き付くのは、燃え盛る故郷の光景。

 耳にこびりつくのは、妹の断末魔。


「アリア……歌え……もっと、強く……!」


 俺の殺意に呼応するように、同乗しているアリアが、虚ろな目で戦歌(いくさうた)を紡ぐ。


 *――罪深き血潮よ、滾(たぎ)れ!*

 *――虚無を焦がす炎となれ!*


 その歌声は美しくも残酷な呪文となり、ディーバシステムを介して、バルキリアの出力(ゲイン)を限界まで引き上げていく。


 ズドォォォンッ!!


 バルキリアがアリーナの地面に着地すると同時に、大地が割れた。

 無人の闘技場。赤土が舞い上がる。

 だが、そこに待っていたのは静寂ではなかった。


「――待ちくたびれたぜ、バケモノ!」


 頭上からの急襲。

 紅い閃光が、バルキリアの脳天目掛けて降り注ぐ。


 ガギィィィンッ!!


 俺は無意識に大剣を振り上げ、その一撃を受け止めていた。

 火花が散る至近距離。

 目の前に現れたのは、血濡れたような真紅の星装機――『クリムゾン・ロード』。


 相手のパイロット――セレーナの声が、狂気と歓喜に震えて響く。


「やっぱり、お前は制御できてないみたいだな! だが、その方が壊しがいがあるってもんだ!」

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