『転生したらミミック(人喰い宝箱)だった俺、中身が「無限の亜空間(ブラックホール)」で最強になる ~Sランク勇者が開けたら即死。聖剣も魔王も、残さず美味しくいただきます~』

無音

転生したらミミック(人喰い宝箱)だった件。中身が「無限の亜空間」だったので、ドラゴンのブレスも勇者の聖剣もバリボリ美味しく頂きました

【第一章:俺は「箱」である】

 意識が覚醒した時、俺は暗闇の中にいた。  手足の感覚がない。目も開かない。  ただ、全身が硬い「木」でできているような、奇妙な感覚だけがあった。


(……なんだここ? 俺、死んだんじゃなかったか?)


 記憶を辿る。  俺の名前は、箱崎(はこざき)シゲル。30歳のサラリーマン。  過労で倒れて、そのまま意識がブラックアウトして……。


「あら? 目が覚めたの?」


 不意に、頭の中で声が響いた。  鈴を転がすような、生意気そうな少女の声だ。


(誰だ!? どこにいる!)


「貴方の中よ。……あ、違うわね。貴方が『私に取り憑いている』のよ」


(はあ?)


「とりあえず、目を開けてみなさいよ。……ああ、『蓋(ふた)』を開けるって言ったほうがいいかしら」


 蓋?  俺は訳が分からないまま、体に力を込めてみた。  ギギギ……という蝶番の錆びた音がして、視界がパカッと上下に開いた。


 そこは、薄暗い石造りの通路だった。  ダンジョンだ。RPGでよく見る、じめじめした迷宮の一角。  そして、俺の目の前には、半透明の少女が浮いていた。  ゴスロリ風のドレスを着た、青白い肌の美少女。幽霊だ。


「おはよう、新入りさん。現状を理解できた?」


 少女はニヤニヤしながら、俺の「体」をコンコンと叩いた。


「おめでとう。貴方は魔物として転生したのよ。種族名は**『ミミック』**。冒険者を騙して食べる、人喰い宝箱よ」


(……は?)


 俺は自分の体を見下ろそうとした。  首がないので、蓋をパクパクさせて視界を動かす。  そこにあったのは、古びた木製のボディと、真鍮の留め具。  間違いなく、俺は「宝箱」になっていた。


(マジかよ……。スライムとかドラゴンじゃなくて、家具かよ!?)


「文句言わないの。ここ、ダンジョンの浅層だから、早く誰か食べないと貴方自身が腐っちゃうわよ?」


 少女は呆れたように肩をすくめた。  彼女の名前はミミ。  この宝箱に長年取り憑いている地縛霊らしい。歴代のミミックたちが冒険者に壊されるのを見届けてきた、いわば「箱の主」だ。


「ねえ、貴方名前は? 前世の記憶あるんでしょ?」


(名前……か)


 俺は考えた。  前世の名前は「箱崎」。あだ名は**「ハコ」**だった。  そして今、俺は文字通り「箱」になった。  なんという皮肉だ。神様の悪質なジョークとしか思えない。


(……ハコだ。箱崎だから、ハコ)


「ぷっ、そのままじゃない! ダサいわよそれ!」


 ミミが爆笑する。  くそっ、確かにダサい。これからこの過酷なダンジョンで生き抜くには、ナメられたら終わりだ。もっと強そうな、インパクトのある名前が必要だ。


 俺は思考を巡らせた。  箱……びっくり箱……英語でジャック・イン・ザ・ボックス(Jack-in-the-box)。


(……なら、**『ジャック』**だ)


「ジャック?」


(ああ。ハコよりはマシだろ? それに、なんか強そうだ)


 ジャックポット(大当たり)。ジャックナイフ。切り裂きジャック。  悪くない響きだ。


「ふーん。まあいいわ。よろしくね、ジャック」


 こうして、俺――ジャックの、箱としての第二の人生(箱生?)が始まった。


【第二章:待ち伏せの美学】

 ミミックの狩りはシンプルだ。  動かない。気配を消す。そして、欲に目が眩んだ冒険者が「開ける」のを待つ。  究極の待ち伏せ(キャンパー)戦法である。


 数時間後。  通路の奥から、コツコツと足音が聞こえてきた。


「おい見ろよ! 宝箱だ!」 「ラッキー! 浅層にこんな手付かずの箱があるなんて!」


 やってきたのは、皮の鎧を着た二人組の冒険者だった。  駆け出しの若造だ。  彼らは警戒心ゼロで俺に駆け寄ってくる。


(……へっ、チョロいな)


 俺は心のなかで舌なめずりをした。  不思議と、人間を襲うことに罪悪感はない。本能が「腹が減った」「食わせろ」と叫んでいる。


「鍵はかかってないみたいだぜ」 「じゃあ開けるぞ。せーのっ!」


 冒険者が俺の蓋に手をかけ、ガバリと開いた。  その瞬間。


 パカッ。


 彼らが覗き込んだ俺の中身。  そこには、金銀財宝も、ポーションも入っていなかった。  あるのは、底のない漆黒の闇――**『亜空間(インベントリ)』**だけ。


「え……?」


(いらっしゃいませぇ!!)


 ガブゥッ!!!!


 俺は蓋を勢いよく閉じた。  冒険者の上半身ごと、一瞬で飲み込む。  牙で噛み砕くのではない。亜空間に引きずり込み、瞬時に分解・吸収するのだ。


「うわあああ!? 相棒が消えた!?」 「な、なんだこいつ!?」


 もう一人が腰を抜かして逃げようとする。  逃がすかよ。  俺は箱の底から、粘液状の「舌(ベロ)」を伸ばし、男の足首を絡め取った。


(デザートも頂くぜ!)


 ズルルッ!  男は悲鳴を上げる間もなく、俺の中に吸い込まれていった。


 【捕食完了】  【経験値獲得:レベルアップ】  【スキル獲得:剣術Lv1、身体強化Lv1】  【アイテム獲得:鉄の剣、薬草、銅貨×10】


 脳内にアナウンスが流れる。  同時に、俺の体に力がみなぎるのを感じた。  ボロかった木板がミシミシと音を立てて組み変わり、硬質な質感へと変化していく。


「おめでとうジャック! 進化(ランクアップ)したわよ!」


 ミミが拍手する。  俺は自分の体を確認した。  木箱から、縁取りのついた**『黒鉄(くろがね)の宝箱』**へと進化していた。


(……悪くない気分だ)


 食べたものがそのまま力になる。  装備も、スキルも、魔力も。  これなら、強くなれる。  ただ待っているだけじゃない。もっと効率よく、もっと強い獲物を喰らえば……。


(おいミミ。このダンジョンで一番強い奴は誰だ?)


「え? 最下層に『ドラゴン』がいるけど……まさか?」


(決まってんだろ。……フルコースのメインディッシュだ)


 俺はニヤリと(蓋を歪めて)笑った。  最強の箱への道は、まだ始まったばかりだ。


【第三章:罠と暴食】

 俺のダンジョン生活は、順調そのものだった。


(……へへっ。入れ食いだぜ)


 俺は通路の真ん中で、口(蓋)を半開きにして待ち構えていた。  俺の周りには、さっき食べた冒険者が持っていた「金貨」や「宝石」が散らばっている。  俺がスキル**【吐き出し】**を使って、体内からばら撒いた撒き餌だ。


「うわっ、すげぇ! 金貨が落ちてるぞ!」 「こっちの箱にも入ってるんじゃないか?」


 欲に目が眩んだオークやゴブリン、そして冒険者たちが次々と寄ってくる。  そして、俺に触れた瞬間――。


 ガブッ!!  バクンッ!!


 捕食。消化。吸収。  俺の亜空間胃袋は底なしだ。どれだけ食べても満腹にはならない。  食べるたびにステータスが上昇し、箱の素材が変質していく。


 【ランクアップ:鉄の宝箱 ⇒ 銀の宝箱】  【ランクアップ:銀の宝箱 ⇒ 黄金の宝箱】


 数日後には、俺のボディは純金のような輝きを放ち、縁取りには宝石が埋め込まれた、超豪華な宝箱へと進化していた。  王城の宝物庫にあってもおかしくない派手さだ。


「ちょっとジャック、派手すぎない? こんなピカピカしてたら怪しまれるわよ」


 ミミが、俺の蓋の上に座って足をぶらつかせている。  彼女は俺が敵を食べるたびに「うわ、エグい」「また強くなった」と楽しそうに実況してくれる。


(馬鹿言え。派手だからこそ『レアアイテムが入ってるかも』って思うのが人間心理だろ?)


 俺は蓋をカパカパと鳴らして笑った。  この階層の獲物はあらかた喰らい尽くした。移動するか。


 俺は箱の底から、鋼鉄の「鎖(チェーン)」を四本、脚のように生やした。  ガション、ガション。  多脚戦車のようなフォルムになり、壁や天井を這い回って高速移動する。これが今の俺の移動スタイルだ。


(おいミミ。もっとデカい獲物はいないのか?)


「うーん……なら、下の階層に行ってみる? このエリアの主(ボス)がいるはずよ」


(決まりだ。フルコースのメインディッシュと行こうぜ)


 俺は鎖の脚を駆動させ、ダンジョンの深層へと降りていった。


 その時だった。  ダンジョンの空気がビリビリと震え始めたのは。


 ズシン……ズシン……。


 遠くから、重厚な地響きが近づいてくる。  通路の向こうから、耐え難いほどの熱気が押し寄せてきた。


「……噂をすれば、ね。向こうから来てくれたみたいよ」


 ミミがニヤリと笑う。  現れたのは、通路の天井に頭が届きそうなほどの巨体。  燃え盛る炎を纏った、深紅の竜――**『レッド・ドラゴン』**だ。


【第四章:激突! 竜 vs 箱】

 グルルルル……!


 ドラゴンは俺を見下ろし、低い唸り声を上げた。  縄張りを荒らし回る「黄金の箱」の噂を聞きつけ、自ら処刑しに来たのだ。  圧倒的な威圧感。普通の生物なら、これだけで動けなくなるだろう。


(……デカいな)


 だが、俺は震えなかった。  むしろ、箱の蝶番がギシギシと喜びの音を立てていた。  美味そうだ。  あの鱗、あの筋肉、そして喉の奥に見える強大な魔力源(コア)。  あれを喰えば、俺は次のステージへ行ける。


「GROOOOOOAAAAAA!!」


 ドラゴンが咆哮した。  挨拶代わりのブレスだ。  口から放たれた極太の火炎流が、通路を埋め尽くして俺に迫る。  鉄すら溶かす数千度の熱量。


「ジャック! 避けて! 溶かされるわよ!」


 ミミが叫ぶ。  だが、俺は動かない。  避ける? 防御する?  違うな。


(飯を残すなんて、行儀が悪いだろ?)


 俺は蓋を――限界まで大きく開いた。  90度、120度、180度。  箱の口が、ありえない角度まで開き、その奥に広がる「漆黒の闇」を晒け出す。


 ゴオオオオオオオッ!!!!


 ドラゴンのブレスが、俺の中に直撃した。  だが、炎は俺を焼くことなく、まるでブラックホールに吸い込まれるように、亜空間の彼方へと消えていく。


「は? ……食べた?」


 ミミが目を丸くする。  俺の胃袋(亜空間)に限界はない。エネルギーだろうが物質だろうが、入った瞬間に俺の糧になる。


(……熱っ! 辛口だなオイ!)


 俺は体内に入った膨大な熱エネルギーを変換する。  箱の内側が赤熱し、蒸気が噴き出す。  だが、壊れない。  俺はブレスを飲み干すと、ゲップの代わりに黒い煙を吐き出した。


「ガァ……?」


 ドラゴンが目を見開いて硬直する。  自分の最強の攻撃が、ただの箱に吸い込まれたのだ。その動揺は致命的な隙となる。


(ごちそうさん。……お返しだ!)


 俺は体内で増幅させた熱エネルギーを、一気に放出した。  スキル**【ドラゴンブレス(反射)】**。


 ズドオオオオオオオッ!!!!


 俺の箱の中から、さっきの倍以上の火力が逆流した。  カウンター直撃。  ドラゴンは自らの炎に焼かれ、悲鳴を上げながら壁に叩きつけられた。


「ギャアアアアッ!?」


 鱗が焼け焦げ、巨体が崩れ落ちる。  虫の息だ。


(チャンス!)


 俺は箱の底から、無数の鎖(捕食チェーン)を射出した。  ジャラララッ!  鎖がドラゴンの首や手足に絡みつき、俺の方へと引き寄せる。


(頂き(イタダキ)マスッ!!)


 俺はドラゴンの頭に噛みついた。  サイズ差など関係ない。亜空間圧縮によって、巨大な竜がズズズ……と小さな箱の中に吸い込まれていく。  断末魔と共に、ドラゴンの尻尾の先までが完全に飲み込まれた。


 パタン。


 蓋が閉まる音。  静寂が戻った。


 【捕食完了:レッド・ドラゴン】  【ランクアップ:黄金の宝箱 ⇒ 紅蓮の宝箱】


 俺の体が激しく脈動する。  熱い。力が溢れてくる。  黄金のボディに、ドラゴンのような赤い紋様が浮かび上がり、さらに禍々しく、神々しい姿へと変貌していく。


「……嘘でしょ。ドラゴンを完食しちゃった」


 ミミが呆れたように呟いた。


「ねえジャック。あんた、もうダンジョンの主より強いんじゃない?」


(かもな。……でも、まだ足りねぇよ)


 俺は進化したボディを震わせた。  ドラゴンを倒したことで、きっと「人間側」が黙っていない。  もっと強い奴――そう、**「勇者」**が来るはずだ。


(最高の獲物が来るまで、ここで待つとしようぜ)


 俺は再び、通路の真ん中で静かに沈黙した。  次に開く時が、このダンジョンの最期になることを予感しながら。


【第五章:勇者パーティ、全滅】

 ドラゴンを捕食してから数日。  ダンジョンの最深部『王の間』。  かつてドラゴンの玉座だった場所に、今は俺が鎮座していた。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 複数の足音が響く。  やってきたのは、人類最強の精鋭部隊――**『勇者パーティ』**の4人だ。


 先頭には、白銀の鎧と聖剣を纏った勇者。  脇を固めるのは、重装甲の戦士と、高位の杖を持った賢者。  そして後方には、祈りを捧げる聖女。  まさに王道の布陣だ。


「……ここか。ドラゴンの反応が消えた場所は」


 勇者が油断なく周囲を見渡し、部屋の中央に置かれた俺(宝箱)を見つけた。


「なんだ、あれは? 禍々しい宝箱だな……」 「おいおい、ドラゴンはいねぇのか? 拍子抜けだな」


 斧を持った戦士が笑いながら近づいてくる。  彼らは気づいていない。自分たちが既に、俺の「口の中(射程圏内)」にいることを。


「待て! その箱、鑑定結果がおかしい! 測定不能だ!」


 後方の賢者が叫ぶ。  だが、遅い。


(いらっしゃいませ。団体様、ごあんなーい!)


 ジャララララッ!!!!


 俺は箱の底から、四本の巨大な「捕食鎖(チェーン)」を一斉に射出した。  それは蛇のように床を這い、死角からパーティを強襲する。


「なっ!?」 「うわぁぁぁ!?」


 戦士と賢者が、反応する間もなく足を捕らえられ、宙吊りにされた。


「きゃあああっ!?」


 回復役の聖女も、鎖に巻かれて拘束される。  一瞬。  わずか数秒で、勇者以外の3人が無力化された。


「よくも……よくも仲間をッ!!」


 勇者が激昂し、背中の聖剣を抜き放つ。  シャラァァン……!  清らかな光が溢れ出す。あらゆる悪を断つ、絶対切断の刃。


「消え失せろ、魔物め! 聖剣技・グランドクロス!!」


 勇者が跳躍し、光の十字を俺に向けて振り下ろす。  空間ごと断ち切る必殺の一撃。  普通のミミックなら、箱ごと両断されて終わりだ。


 だが。


(……良い剣だ。美味そうだ)


 俺は、その瞬間を待っていた。


「開門(オープン)!!」


 ガパァッ!!!!


 俺は蓋を猛スピードで開いた。  振り下ろされた聖剣の刃を、箱の縁(ふち)で受け止める――のではない。  俺は聖剣の刀身を、「噛んだ」。


 ガキィィィィンッ!!!!


 甲高い金属音が響き渡る。  俺の牙(箱の縁)は、聖剣の刃をガッチリと挟み込み、微動だにさせない。


「な、なんだと!? 聖剣を受け止めた!?」


 勇者が空中で硬直する。  俺のボディは、ドラゴンの素材と、数多の冒険者の装備を吸収してできた『超合金(アダマンタイト)』だ。聖剣ごときで傷つくかよ。


(いただきまーす!!)


 俺は力を込めた。  バキ、バキバキッ……!  伝説の聖剣に、亀裂が走る。


「ば、馬鹿な! 聖剣が悲鳴を……やめろぉぉぉ!!」


 パリンッ!!


 砕ける音。  聖剣の刀身が半ばからへし折れ、俺の口の中へと落ちた。  ごっくん。


 【捕食完了:聖剣エクスカリバー】  【スキル獲得:聖なる加護、絶対切断、光属性無効】


 光が俺の体を包む。  紅蓮の箱が、さらに神々しい**『虹色の宝箱(イリディセント・ボックス)』**へと輝きを変える。


「俺の……聖剣が……嘘だ……」


 武器を失った勇者が、地面に着地してへたり込む。  背後では、仲間たちが鎖に吊るされたまま「嘘でしょ……」「勇者が負けた……?」と絶望している。


 俺は虹色の光を放ちながら、勇者パーティを見下ろした。


(さて、メインディッシュの後はデザートだな)


 俺は勇者の体にも鎖を巻き付け、仲間たちの横に並べて吊るし上げた。


「くっ、殺すなら殺せ!」 「殺さないわよ。……ジャックは『グルメ』だからね」


 ミミがクスクスと笑う。  俺は勇者パーティ全員の鎧やローブだけを器用に溶かし(消化液で)、身ぐるみを剥いだ。  パンツ一丁になった勇者と戦士、下着姿になった賢者と聖女が、涙目で吊るされている。


(殺しはしねぇよ。お前らの装備とスキルは全部いただいた。……裸で国に帰って、伝えてくれ。「このダンジョンは、俺の餌場だ」ってな)


 俺は全員をまとめて、ダンジョンの入り口まで転送(テレポート)させた。  最強の勇者パーティが身ぐるみ剥がされて敗走したとなれば、もう誰もここには手出しできないだろう。


【エピローグ:星を喰らう箱】

 勇者パーティを撃退し、俺は名実ともにダンジョンの支配者となった。  『王の間』には、俺が集めた(食べた)財宝の山と、かつて勇者たちが持っていた装備の残骸が転がっている。


「あーあ、行っちゃった。……で、これからどうするの? ジャック」


 ミミが俺の蓋に腰掛け、問いかける。  俺は虹色に輝くボディを軋ませ、蓋をパカパカと動かした。


(どうするも何も、腹が減った)


 聖剣を食べても、ドラゴンを食べても、俺の飢えは満たされない。  この亜空間は無限だ。  もっと、もっと美味いものが、この世界にはあるはずだ。


(魔王城ってとこには、もっと美味いもんがあるらしいな)


「……あんた、魔王まで食べる気?」


(魔王だけじゃない。この星の裏側まで、全部喰らい尽くしてやるよ)


 俺は笑った。  ただの木箱から始まった俺の「暴食」の旅は、まだ終わらない。  次はどの国を、どの伝説を喰らってやろうか。


 ガァァァァァッ……!!


 虹色の宝箱が、大きく口を開ける。  その奥に広がる深淵は、世界そのものを飲み込まんと、妖しく渦巻いていた。

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