第22話 鬼強い公務員
アゲハ達が空の彼方へ去った後、炎の魔神を囲んでいた五騎のカラス武者達は動きだす。
巫女に余程強く叩かれたのか、炎の魔神は震えるばかりで全く動けない。
『
そう報告を受けたのは、カラスの頭そっくりな兜から角を生やした武者。
角付きは一人だけなので、彼がこの集団の統率者なのだろう。
角付きカラスは腰の刀を抜いて号令する。
『ならば、ここからは俺達の仕事だな。総員抜刀! 食い残し相手に後れを取るなよ!』
『『『『応!』』』』
抜刀したカラス武者達の霊力を込めた返答は、その士気の高さが霊力に乗せられているかのように響き渡った。
抜き放たれた刃からは見ているだけで魂が凍り付きそうになる波動が放たれており、彼らの身長よりも長大な力場を形成している。
巨炎の魔神によって焼かれていた空気が一気に凍てついてゆく。
危機を悟ったらしい炎の魔神は巨大な腕を振り回して抵抗するが、鳥の如く自在に空を駆ける武者達を捕らえること敵わない。
彼らの持つ氷刃は魔神の全身を情け容赦なく切り刻んでいく。
斬られた部分は炎であるにも関わらず氷結しており、炎の魔神を氷像に造り変えていく。
『
『術式など使わせるものかよ!』
たまらずといった様子で詠おうとした魔神は、その隙を見逃さなかった角付きカラス武者の放った突きで縫い止められた。彼が霊力を込めれば力場は巨大な氷柱と化す。
他のカラス武者達も同じく巨大な氷柱で串刺しにしていくと、上空からみれば巨大な氷柱による
氷の五芒星は哀れな生け贄の火を反射してプリズムのように光り輝く。
『『『『『
カラス武者達が突きを放った姿勢のまま天駆ければ、高速回転する氷の五芒星が炎の魔神をかき氷のように粉砕していく。
すっかり氷結破砕された魔神は顕現を維持出来なくなり、現世から消えていく。
後には霊的かき氷の代わりに虹色に輝く石の山が残された。
降り立った角付きガラスは石を一粒拾い驚いた。
『こいつは……霊晶石か! 奴め、よほど霊力を貯め込んでいたようだな』
『これほどの量……霊災の被害を補償しても余りますね。しかし、市場に放出しすぎれば値崩れを起こしかねません。どう処分するか……』
『よし! 俺に良い考えがある! 功労者に何も無しはイカンよな! カカカ!』
『『『『異議無し!』』』』
角付きガラスが悪戯を思いついた子どものように鳴けば、カラス武者一同も楽しげに頷いた。
落ち着きを取り戻した夕闇の空にカラスの鳴き声のような笑い声がこだまする。
#####
訓練と称して図らずも霊災地ど真ん中にカエデを招待した次の日、アゲハは鳥居前に置かれた段ボールの前で途方に暮れていた。
「困った。こんなにいっぱい貰ってもなぁ……」
一枚の紙が貼られた段ボールの中には大量の霊晶石が詰まっていた。
紙には『ご協力のお礼品』と達筆な文字で書かれているが、あとは『航空退魔隊・第一ヤタガラス小隊』と判子を押されているだけで切手や郵便の消印すらなかった。
直接置かれたとしか思えない謎の贈り物である。
いくら貴重品とはいえ、ここまで雑に置かれていると大した品に見えなくなるのだから不思議だ。
「なんだ? 朝から辛気くさい。小娘の霊晶石には大層喜んでいたではないか。高く売れるのであろう?」
巫女の大きな袖から顔を出したイモムシは、昨日の喜びようとの落差に小首を傾けた。その通り、狂喜乱舞しても不思議ではないはずである。
「いや、こんなに大量の霊晶石を貰っても売りさばけないよ。高価な物だからね」
「高価な品だというなら多少安くすれば、すぐに換金できるであろう?」
「それはダメ! 私のお金が減っちゃうから!」
「ならば、どうするのだ?」
「こうする!」
正しきイモムシの言葉を退けた巫女。
彼女は大量の霊晶石の詰まった段ボールを軽々と持ち上げると、社務所の戸を蹴り開き段ボールの城壁に組み込んだ。
「また今度売る! タンス貯金だよ!」
「……タンス貯金というより段ボール貯金ではないか?」
機嫌よさげにイモムシをローテーブルに置いた巫女は、行儀悪くソファーに寝転がり『勝てる! FX!』と書かれた雑誌を開いて熟読しはじめた。
イモムシの賢明なる指摘は完全スルーである。
もしかすると、積み上げられている段ボールは彼女なりの貯金なのかもしれない。
しかし、本人が覚えているかは定かではないので実質ゴミの山なのだが。
――あとがき――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回はオカルト部の問題児ことカエデをバッチリ鍛えられましたね!
途中からアゲハの持ち物になっちゃってた……?
いえいえ、生き残れば勝ちですから!
カエデ風にいえば勝てば勝ち軍です!
死地から生還した上、色々な技を覚えてパワーアップ!
今回も完璧に依頼を達成しました!
追加報酬もザックザクで……。
……。
きっと未来のアゲハが有効活用することでしょう!
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