第5話 アゲハの実力

 崩壊したり歪んだりしてボロボロのビル群の間を緑色の装甲バスが進んでいく。

 バスはゆっくりと減速してから停車、プシューという音と共に側面のスライド式ドアを開いた。

 そこから真っ先に飛び出してきたのは紅白の巫女服を着た少女。

 完璧な居眠り運転で生徒から疑惑の目を向けられ中のアゲハである。


 大切なモノおちんぎんの危機に覚醒でもしたのであろうか。

 最初から覚醒していれば、危機は起きなかったわけだが。


 装甲バス周辺を素早く確認した彼女が、バス内で待っている生徒達に声をかけると、周囲を警戒しながら金髪少女が降りてくる。


「安全確保っ! 降りてきても大丈夫だよっ!」


「流石です。この調子でよろしくおねがいしますね?」


「もちろんですぜボス」


 金髪少女のあとから、緑色のブレザーを着た生徒達もバスから降りてきた。

 彼女達も真剣な表情で周囲を警戒しており、中には双眼鏡まで使って警戒する生徒もいる。

 なぜそれほどの注意が必要なのかといえば、霊災跡地は現世と常世の境界が緩くなっているので大変に危険だからだ。厄介な災害である。


「すごく速かった」


「目にも止まらぬって奴だったね」


「そうでしょう、そうでしょう!」


 居眠りをやらかした割に生徒達からの評判も上々である。

 危険な仕事を素早くこなしたお陰で、生徒からの信頼を少しだけ取り戻せたのかもしれない。


 とぼけているようで実力のありそうな外部指導員といったところだろうか。


 そんな巫女服の外部指導員が片手をあげると、少しワイワイしはじめていた生徒達が静まりかえる。中には両手で口を押さえる生徒もいる。


「大した霊度の跡地じゃなかったはずだけど、もうみたいだよっ! 一、二、三つくらいか。雑魚だろうけど、どうする?」


「確かに早いですね~。少し早すぎます。アゲハさんにお任せしても良いですか?」


「もちろんっ! 料金内だよっ! 今日一日全部任せてくれても良いくらい!」


「遠慮しておきま~す。多少は私たちも戦いの経験を積みたいので」


「もう来るね。一応固まっていてねっ!」


 アゲハが注意を促した瞬間、崩壊したビル街を奇妙な白い霧が包み込む。

 更にはガシャンガシャンと重量物の落下した音が鳴り。

 霧の奥から三人ほどの甲冑武者かっちゅうむしゃが歩いてきた。


 甲冑武者達が一斉に面貌めんぼうをつかみ投げ捨てると、隠されていた頭蓋骨の凶相きょうそうをむき出しにした。


 対するアゲハは生徒達をかばうように前に出ながら、大きな袖から御札おふだを引き抜く。水筒といい、彼女は袖をポケット扱いしているのかもしれない。


「楽しそうなところ悪いけど、こっちもお仕事だからね! 早々に帰ってもらうよ!」


 彼女が指の間に挟んだ御札おふだを振ってみせれば、しゃらんと刀剣を抜いた骸骨武者達が襲いかかってくる。


「はああああっ! 御札パーンチっ!」


 機先きせんを制したのはアゲハであった。

 タンと一歩で刀剣の間合いの内側まで詰め寄った彼女が、御札を持ってない方の手で骸骨武者をぶん殴ったのだ。

 甲冑の動体部だけが遙か彼方のビルまでぶっ飛ばされて爆散した。


 しかし、相手は命無き死者。

 同胞の無残な散り様をケラケラと笑いながら、巫女を両断せんと刃を振り下ろす。


「アゲハさん!?」


 絶体絶命の危機に金髪少女が悲鳴染みた叫び声を上げるが、現実に奇跡が起きることはなく。刃は巫女の身に届き……カキンという音をたてて割れた。

 割れ落ちた剣先は地面に突き刺さり、ヒィンと悲しげに鳴く。


「いったー!」


「アゲハさん!?」


「避けたと思ったのにっ! やったなーっっ! 御札キィック! ついでに御札チョーップ!」


 金髪少女が違う意味で叫ぶ中、怒り心頭といった様子の人外巫女による報復が執行される。

 私怨混じりのキックは真ん中で折れた刀剣を見つめて固まる骸骨武者を粉みじんにし、地を砕く踏み込みと共に放たれたチョップは背を向けて戦略的撤退を図ろうとしていた臆病者を真っ二つに両断した。


 戦慄せんりつのバーサーカー巫女である。


 全ての骸骨武者達が倒されると、白い霧は晴れていった。


 正に人外といえる怪力を発揮した巫女に生徒達はドン引き……というわけではなく、ワイワイ集まってツッコミを入れている。


「全く御札使ってない」


「だって、もったいない!」


「斬られてたけど、大丈夫~?」


「痛いよっ! お金をもらったら治るよっ!」


「大丈夫そうだね~」


 そう、彼女達が目指しているのは霊能力者。

 先ほどの骸骨武者みたいな連中と日夜戦う存在を目指しているのである。

 ツッコミどころ満載ではあるが、彼女達からするとアゲハは先輩霊能力者なのだ。

 日頃の行いは、ともかくとして。

 確かに戦闘力的には頼りになる先輩といえるだろう。

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