第6話 符化術

 甲冑かっちゅうと人骨の散乱した路上に、緑のブレザーを着た生徒たちが集まっていた。

 その中からソロリと抜け出してきたのは仲間はずれの巫女服少女。

 アゲハである。

 生徒達にモミクチャにされながら質問攻めにあっていた彼女は、骸骨武者との戦いよりも、よほど疲れている様子。

 まぁ、あの怪力では下手に抵抗すると大変なことになるので無理もない。


 今のアゲハは外部指導員、生徒をぶっ飛ばすわけにもいかないのである。


「にししっ」


 地面に突き刺さっていた刀身をスポンと引っこ抜いて笑った彼女は、それをグニャグニャ曲げ始めると素早く団子状にまとめて大きな袖の中に忍ばせた。


「アーゲハせーんせっ! 何してるの?」


「ん? ああ、たしかカエデだっけ?」


「そそ! オカルト部の超新星、カエデちゃんだよ! ゆうのーなあたしは凄い先生の行動をロックオンしていたんだ!」


 その様子をめざとく見つけたのは赤色の髪を二つのお団子にまとめた活発そうな生徒だ。もうアゲハのことを先生扱いするとはチョロい生徒である。


「こういう鉄くずは売れるからねっ! 持って帰って鉄くず屋に買い取ってもらうんだよ!」


「すごーい! そうなんだ!? 刀がグニャグニャ~!」


 アゲハが袖から取り出した刀団子に大興奮のチョロ生徒カエデ。

 彼女は近くに転がっていた刀身が半ばから失われている刀に目を付けると、それをよいしょと拾い上げた。

 やめておけ。真似をしたらケガでは済まないぞ。


「じゃあ、こっちも持って帰るよね! あたしもやったるぞ~!」


「ちょっと待っ!?」


 焦ったアゲハの制止は届かず、ぐいっと握りしめられた刀身は白色に輝く。


「ふぉおおー! 符化ふかじゅーつ!」


 輝きは小さくなっていき、その手に握られていたのは一枚のカード。

 カードには半ばまでしか刀身の無い刀が映されていた。


「て……。カード?」


「そそ! あたしのスペシャルな霊術だぞ~! 物をカードにしたり、元に戻したりできるんだ! すごいでしょ!」


「凄い! 凄いよ!」


「むふー!」


 霊術とは霊能力の一種である。

 大まかに、技術を習得すれば使える汎用霊術と、霊的才能が無ければ使えない固有霊術の二種類に分類されるが、彼女の符化術は後者にあたるだろう。

 確かにスペシャルな霊術といえる。


 超高速で甲冑やら折れた剣といった骸骨武者の残骸を集めてきたアゲハは、カエデの手で次々とカードに変えられていく戦利品に勝利を確信した。


「これなら稼ぎ放題っ!」


「……アゲハさん?」


 両手を握りしめてバラ色の未来を想像した強欲巫女。

 その未来図は背後からの怒りをこらえる声に粉砕された。

 なんとも短い春である。

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