お貴族様とのお食事

 食堂に入ると、知らないきれいな女の人が一人増えた。

 おやおや?その顔立ち、もしかして・・・・・・・?


「ジョアンナ・レヴィンと言います。カイテルの姉です。よろしくお願いいたします」


 その知らないきれいな人が品のある笑みで自己紹介してくれた。思った通り、その女性はカイテルさんのお姉ちゃんだった。本当にきれいな人だ。


「初めまして、リーマです。よろしくお願いします」


「お姉様は六年前にレヴィン伯爵家のアラートン様と結婚して、今この屋敷に住んでいないんだ」とカイテルさんが教えてくれた。


 ジョアンナさんは金髪に青色の瞳でカイテルさんと顔立ちも似ていて、姉弟だと言わなくてもすぐわかるぐらい似ている。というよりジョアンナさんはお母様に顔立ちが似ていて、カイテルさんはお父様に似ている。メイソン家の人間は美しい人ばかりだ。美しくて品のある人たち。こういう人たちと同じ食卓にいるとものすごく緊張する。


「お姉様は今日特別なお客さんが来ていると聞いたから、急遽この屋敷で一緒に夕食を取ることになったんだよ」カイテルさんは微笑んだ。


 私が食堂を見回すと、お父様、お母様、お兄さんたちとお兄さんたちのお父さんたちしかいない。どうやらその特別なお客さんはまだ到着していないみたい。

 

 じゃその特別なお客さんを待たないといけないのね・・・・・・?まだご飯を食べられないよね・・・・・・?さっきお菓子を食べたけど、お腹がちょっとペコペコなの・・・・・・。


「その特別なお客さんはリーマちゃんだよ」ジョアンナさんはふふっと口を覆って上品に笑った。


「‥‥‥えっ、私ですか?」


「そうよ?リーマちゃんしかいないでしょう?」ジョアンナさんはまた上品に笑ってウィンクした。


「‥‥‥そう‥‥‥なんですか?」なぜ私は特別なお客さんなのかしら‥‥‥居候だから?


「カイテルみたいに私のことをお姉さんと呼んでね」


「‥‥‥はい」



 私が食卓の席に着くと、不思議なものが私の眼に入った。それはフォークとナイフとスプーンの数が必要以上に置かれているのだ。


 これ、何に使うの?一食を食べるだけなのに、こんなたくさんの食器を使わないといけないの?そもそも人間には手が二本しかないんじゃない?どうやってこのたくさんの食器を持つの?それにこの小さなフォーク、何に使うのか全く想像がつかない。その隣の小さなスプーンも小さすぎて、いっぱい料理を口に運んでくれないんじゃないかしら?その小さなスプーンで何周料理を口に運んで入れれば、お腹がいっぱいになるのか謎だわ。まあ~~その隣の小さなナイフも可愛い〜。もしかしてこの小さなフォークとスプーンとナイフは食卓上の癒し装飾なのかしら?見ていると、頬がほころんでしまうわね。


 私は並べられている小さくて可愛いフォークとナイフとスプーンの意図が分からず、ただただぼんやり眺めるしかできなかった。

 

 いつも優しいカイテルさんは「楽なほうでいいよ。そんなに気にしなくてもいいからね」と言ってくれたから、その小さくて可愛いフォークやらナイフやらスプーンやらを無視し、いつも村でも使っているサイズのナイフとフォークを取り、カイテルさんの言葉に甘えることにした。気を遣えと言われても何をどこにどうやってどこまで気を遣うべきかわからない。


 夕食中、お父様とお兄さんのお父さんたちは仕事の話をして、お母様とジョアンナお姉様は社交界?(は何?)の話をして、お兄さんたちは最近行ってきた任務の話をしていた。私はその話を聞きながら食事を楽しむ。料理は全部すごく美味しい。


 実は私は食卓に目を向けた時、フォークたちとは別で食卓にたくさんの料理が並べられているのが目に入ってこっそり心の中で感嘆した。料理は人数分より多くて絶対余ると思う。村にいた時、おじいちゃんと私の料理はおかず二品と畑にある穀物だけだったから、家の大きさによって料理の数が変わるかもしれない。


 余ったらどうするんだろう?さすがに捨てないよね・・・・・・・?もったいないもん・・・・・・・。これだけの料理は私とおじいちゃんの三週間分の料理になるんだよ・・・・・・・。

 

 はぁぁ・・・・・・・このもったいない精神は平民の性なのだろうか。



 私の席の近くに肉が入っていない料理が何品かあった。


 おっ!さすがカイテルさんだ!私が肉を食べられないことを覚えてくれている!


 まあ・・・・・・・あの日のことはさすがに印象に残るよね。もしかしてこんなたくさんの品数は私が肉を食べられないから、私の分まで作らなければならないものだったのかもしれない・・・・・・・。本当にそうだったら申し訳ない。頑張って全部食べないといけないのかな?今日食べきれなかったら、怒られるかしら?明日の私の料理として残させてもらうのは許してくれるかしら?


 カイテルさんはお兄さんたちとの会話に参加せず、あれこれ料理を私に取ってずっと面倒見てくれる。実は私はいろんな料理を食べてみたいけれど、でもここは住み慣れた村の小屋じゃないし、食卓を囲んでいるのは今日初めて会った人たちばかりだから、自分であれこれ料理に手を伸ばすのは正直恥ずかしくて、遠慮してしまう。カイテルさんのこの気遣いは本当にありがたい。おかげでいろんな美味しい料理を食べることができた。


 だがしかし・・・・・・・周りの視線が痛い。


 な、なぜみんな私を見てニヤけているの?やはり食べ方が粗相すぎるからかな?こんな立派な食堂と食卓だから、私は無知ながら、私なりにできるだけ失礼であろう食べ方をしないようにしている。でもそもそも食卓のマナーを全く知らないから、気付かないうちにこの人たちを不快にさせてしまっているかもしれない。


 どう、どうしよう‥‥‥?まだ挽回できるかしら?で、でも、でもでも私の食べ方はどこでどんな風に間違っているの‥‥‥?


 周りの人を真似ればいいじゃないか!と私は思い付き、周りを見回した。そしたら左隣のジルさんも私に料理を取ってくれて、そして私に・・・・・・ではなく、カイテルさんにウィンクした。


 なぜ私にウィンクしてくれないの?


 カイテルさんはすごくジルさんを睨みつけ、反対にジルさんはすごくニヤニヤしている。私はこの二人の真ん中に座っているから、なんだか気まずくなってきた。


「ふふっリーマ〜、これも美味しいよ〜。俺、取ってあげるね〜」

 ジルさんはまた私にカニ蒸しの料理を取ってくれた。


「ありがとうございます」


「俺がやるから、おまえは黙って食べていろ。リーマ、これも食べてみて。美味しいよ」

 カイテルさんがジルさんを睨みながら、優しい声と優しい手付きで私に料理を取ってくれた。器用だね。


「ふーん、でも美味しいものをリーマにたくさん食べてほしいし、この料理はおまえから遠いだろう?」


 ジルさんはニヤニヤしながら、カイテルさんを挑発するかのようにまた私の皿に料理を置き、もう一回カイテルさんにウインクした。


 だから、なぜ私にウィンクしてくれないの?


「‥‥‥」カイテルさんはまたまたジルさんを睨む。


 二人ともやめて・・・・・・・気まずいから・・・・・・・


「‥‥‥私が自分で取りますから、カイテルさんもジルさんも私に構わず、どうご自分の料理を食べてください」


 こうした方が周りに迷惑かけないし、私自身もストレスにならないよね。


 私がそういうと周りから笑い声が聞こえてくる。笑うようなことを一言も言っていないと思うけど。

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記憶を失くした少女の生きる道 あまね @amane0511

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