#011 街は物騒だ・・・・・・・

 私は村を出て二週間経った頃、ついに森を出ることができ、少し歩くとトレストに入る。周りを見て私は驚愕してしまった。カイテルさんから六番目の街だからあまり人気がなくて盛んでないと聞いたから、うす暗い街だろうなと想像していたけど、全然違った!イキイキしていて、にぎやかな街だったよ!


「こ、これが全然人気な街じゃないというの・・・・・・・?」


 私は呟いてしまった。人気じゃない街がこうだったら、人気な街はどうなるの?私とカイテルさんの「人気」のレベルが違いすぎる。私はこんなに人がいっぱいいるのを見るのは初めてだから若干眩暈がし始めた。


 人気じゃない街でもこうだったら、王都はどうなの?私、王都で生きていけるの?やばいじゃん・・・・・・・。


 マーティスさんとファビアンさんが前を歩いていて、ジルさんが「先に食堂に行くね〜」と言って歩いて行ってしまった。


 私はリオとリアと一緒に興味津々であちこちの店を見て前に進むと男の人にぶつかった。


「あっ、ご、ごめんなさい」


 私の完全ボケである。村にいた時と全く同じ感覚で歩いていたわ。だって村なら絶対誰にもぶつからないもん・・・・・・・。


「‥・・・・・・・ッ!・・・・・・・ちゃ、ちゃんと前を見ろよ。痛いんだよ?君に責任をとってもらうからね。さあ、一緒にあの店行こう?おれ、奢るよ」


 防具みたいなのを着ている男が頬を染め、私に意味のわからないことを言い、私の手をつかみ、どこかに連れて行こうとしている。


 えっ?な、何が起きているの?どうしてそんなに怒るの?どこに行くの?


『がおー!』リオとリアは咆哮し、リオはその男をぶっ飛ばし、リアは私の前に立ち、二匹とも私を守ろうとしている。


「いてぇ!き、君ッ!自分のペットをちゃんと見ろよ!俺は騎士だぞ!簡単に済まねぇからな!」


 えっ?騎士?これが騎士?お兄さんたちは優しいのに、どうしてこの男はこうなの?お兄さんたちと違いすぎない?


「リーマ!何があった!?ごめんね、俺は目を離したから!どうしたの?何があった?」カイテルさんは顔を青ざめて私の傍にかけてきた。


「こ、この男と私がぶつかったんです。謝ったらいきなり私の手をつかんだから、リオとリアが私を守ったんです・・・・・・・」


 私はおじいちゃん以外、誰かに怒鳴られるのは初めてでさすがに狼狽したけれど、できるだけ冷静にカイテルさんに答えた。


「おまえ、騎士だよな。なんで女の子にそんな態度をとってるんだ?」


 カイテルさんが低い声でその男をギョッと睨み、聞いた。


「おい、何があったんだ?」


 前方を歩いていたファビアンさんとマーティスが私たちのところに歩いて戻ってきた。


「こ、この女が俺にぶつかった。いてぇんだろうが!」


 ふへっ!?あれで?そんなに痛いの?か弱い女の子の私は全然痛くないのに?この男は見た目と違って体が相当虚弱なんだ・・・・・・・なんか可哀想かも・・・・・・・


「・・・・・・・私はあなたとぶつかって別に痛くもかゆくもないのに、あなたはそんなに痛いの?体が弱すぎない?それでも騎士なの?騎士なんかやめて家でおばあちゃんと一緒にお裁縫でもやったほうがいいんじゃないの?」


 この男は私とぶつかったことでぷんぷん怒っているようだ。しかしこの男の体はか弱い女の子の私よりかなり虚弱みたいだから、私は怒らずに彼の体にピッタリの新しい職業を提案してみた。自分の体と体調に合わない仕事をすると体調が悪化するし周りに迷惑だからね〜。


 私、優しいでしょう?


 それにしても人生初の街でこんな場面にすぐ会えるとはね・・・・・・・。ちょっとぶつかっただけでこんなに怒られるなんて!街は本当に物騒で残忍で残酷なところみたいだ!意外と楽しいんじゃないか!ワクワク!


 そう考えていると、「ふっ」「はははっ」と周りの野次馬から笑い声が聞こえた。


 ・・・・・・・えっ?どうして笑ってるの?私は真剣に彼に新しい職業を提案しているよ?


「おまえっ!おまえのペットがいきなり俺を飛ばしたんだろう!?」


 君呼びからおまえ呼びになってしまった。相当激ぷんぷんのようだ。でも・・・・・・・


「でもそれはあなたがいきなり私の手を掴んだから、この子たちは私を守ったんだよ?それの何が悪いの?あっ、もしかして痛かった?あなたは虚弱だからあんなに派手にぶっ飛ばされたら痛いもんね。可哀想・・・・・・・この子たちの代わりに謝るよ?」


 虚弱なこの男がいきなりホワイトウルフに飛ばされたら、体調が悪化しちゃうかもしれない。ちょっと可哀想かも・・・・・・・ほら、今この男が急に顔を真っ赤にした。倒れちゃうかな?近くに診療所あるかしら?


「きょじゃ、く・・・・・・・?かわい・・・・・・・そう?はでに・・・・・・・?ぶっとば・・・・・・・された?お、おまえっ!」


「ちょっと落ち着いて。あなたは虚弱だからあまり大声を出さないほうがいいよ。悪化しちゃうよ?倒れちゃったらどうするの?虚弱でもあなたは一応男だからおばあちゃん一人であなたを看病できないと思うよ?」


 まぁ、この男に本当におばあちゃんがいるかどうか知らないけど、もしかしておばあちゃんじゃなくておじいちゃんかもしれない。でもさっきの新しい職業の提案で彼はおばあちゃんのことを否定していないし?


 それにこの男はちょっとおかしい気がする。体が弱いから代わりに声を張ってしまう癖を持っていると思う。虚弱な自分を強く見せたいのかな?だから虚弱でも騎士になったのね?日々頑張ってるのね〜。えらいね〜。


 だがしかし、この男の怒鳴りは私に効果なし。おじいちゃんの怒鳴りのほうが骨の髄まで響くし、地鳴りしてしまうレベルだから、私はこの男の大声に全く怯まないのだ。


 私、勇敢でしょう?


「お、おばあ・・・・・・・ちゃん・・・・・・・?」


「違うの?じゃおじいちゃんのほうが正解?ねぇあなた、落ち着いてよ。ほら今、顔がすごく赤いよ。絶対体調が悪化している!早く診療所に行ったほうがいいと思う!」


「て、てめぇ・・・・・・・」


 彼は低い声で唸り、私をギョッと睨みつける。


 おまえ呼びから更にレベルが上がり、てめえ呼びになってしまった。


 めちゃくちゃ激ぷんぷんしているみたいだけれど、どうしてそんなに激ぷんぷんしてるの?心優しい女の子の私がこんなに虚弱な彼を心配してるのに・・・・・・・。街の人って何を考えているのかよくわからないわ。


「でもでも大丈夫だよ!安心してね!虚弱なあなたでも騎士になるために日々頑張ってると騎士団は知っているはずだから、すぐクビされたりとかしないと思うよ!これからも騎士、頑張ってね!でもやはり虚弱な体で騎士をやるとすごく大変だし、周りに迷惑だから、さっき私が提案したお裁縫仕事を考えてみてね!絶対うまく行くからね!あなたのおじいちゃんも絶対喜ぶからね!頑張ってね!」


 そんな激ぷんぷんの彼に私は笑顔でエールを送った。ふふふっいいことをした後はすごく気持ちがいいわね。おじいちゃんに再会したら、この素晴らしい話をしてあげようかな〜。


「て、てめぇ・・・・・・・」


 顔が真っ赤なままの彼は体を震わせた。やっと私の優しさに気づき、感動しているだろうね〜。


「いいよいいよ、お礼はいらないから!あなたは今まで頑張ってきたから、これからはちゃんと自分の体に合った仕事をすれば大丈夫だから!あなたは十分えらかったよ!よく頑張った!騎士団の皆さんはきっとあなたの気持ちをわかってくれるはずだからね!まずは初めての第一歩に勇気を出して!」


「はははははっ!もうムリ!この子ヤバすぎっ!」


「み、見てらんねぇっ!この男かわいそうっ!はははっ!」


「だ、だれかあの子止めてふふふっ!」


 また野次馬から笑い声が聞こえてくる。


 えっ?だからなんで笑っているの?私は真剣に彼にエールを送っているけど?


 だがしかし・・・・・・・私の予想とは反対にこの人は私の優しさに全く感謝せず、顔を真っ赤にしながら、私に手をあげようと・・・・・・・した瞬間に『がおー!』とリオとリアは威嚇して私の前に出る。するとその男は動きが止まり、後ずさった。またリオとリアに飛ばされるのが怖いらしい。


 大変だ・・・・・・・彼に動物へのトラウマを与えてしまったかもしれない・・・・・・・彼が今後動物に対して恐怖心を抱いてしまって動物に近づけられなくなったら申し訳ない・・・・・・・可哀想・・・・・・・


「も、もしかして動物が怖くなっちゃった?可哀想・・・・・・・本当にごめんね、この子たちはわざとじゃないの・・・・・・・本当にいい子なの・・・・・・・」


「ど、どうぶつが・・・・・・・こわい・・・・・・・?おれが・・・・・・・かわいそう?」顔が真っ赤なままの彼がぼやく。


「り、リーマ、ふふふっ、もう、もういいよ。もう、なにも、ふふふっ、言わないで、ふふふっ、あげて、、ふふふっ」


 カイテルさんが笑いを堪え、私の手をちょんちょん引っ張りながら言った。


 カイテルさん、笑うことじゃないの!この人にトラウマを与えてしまったの!



「はははははっ!・・・・・・・こほんっ!こほんっ!えーと、他にこの二人を見た人はいますか?・・・・・・・ふふふふっ」


 ファビアンさんも笑いを堪え、真剣な顔に整えてから野次馬に聞いた。


「俺が見たよ!この男はわざとこの子をぶつけたんだよ。なのに、この子にいちゃもんつけやがって手首をつかんでどこかに連れて行こうとしたんだよ」


 一人の野次馬のお兄さんが大声でファビアンさんに答えた。


 ・・・・・・・えっ!?あれがわざとだったの!?



「私も見たわ!騎士なのに、女の子を虐めるとか最低だわ!」


 一人のお姉さんもファビアンさんに訴えた。



 ひ、ひどい・・・・・・・私が本当に彼を心配したのに・・・・・・・あんなにエールを送ったのに・・・・・・・やはり街は物騒で残忍で残酷だわ・・・・・・・悲しい・・・・・・・


「わざとぶつけた・・・・・・・?どこかに連れて行こうとした・・・・・・・?おまえはちゃんと騎士の規定通りに罰を受けてもらうぞ」


 カイテルさんはさっきまで笑いを我慢していたのに今すごく怖い顔でこの男を睨む。いつも優しい人が怒るとマジ怖いよね・・・・・・・おじいちゃんと同じだ・・・・・・・


「お、俺は何もしてない!」


「俺、こいつを騎士の拠点に連れて行くよ」


 マーティスさんもさっきまで野次馬と一緒に爆笑していたのに今表情を整え、その騎士を連れて行く。


「リーマ、ごめんね、俺が離れたから」


「いいえ!私が本当にあの人の体調を心配したのに、結局あの男がわざとぶつかったとか聞くとちょっと悲しいですけど、でも街の初日にこんなスリルなことに会うなんてワクワクしますよ!街は意外と楽しいところですね!村ではこんな物騒なことは絶対にありませんから!」


「ふふっ・・・・・・・そうなのか?」カイテルさんがまた笑い出した。


「それにリオとリアもカイテルさんたちも守ってくれましたから」


「ごめんね。これからはもう離れないから。俺のそばにいて」


 カイテルさんは私の手を握って歩き出す。


 リオとリアは私の隣を歩いてずっと『がううううー』(イナカムスメからハナれろッ!)と唸り、カイテルさんに軽く体当たりをしたりして、カイテルさんはよろけながら前へ歩いていく。


 この子たちは心配症だね〜カイテルさんが私に悪いことをしないと思うよ〜。

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