#010 言い合い
翌朝。
お兄さんたちと一緒に行動してから三日目に、明日の昼前にはトレストに到着するとマーティスが言っていた。
この日、カイテルさんは朝から私を見て何か私に話そうとした。でもなかなか何も話してくれず、ずっとそわそわしていて落ち着かない様子だった。どうしたんだろうと私が心配になってカイテルさんに聞いたら、カイテルさんがおずおずと話し始めた。
「リーマ、えーと、ホワイトウルフは凶暴な動物だってこと、リーマは知っている・・・・・・・よね?」
こんなもごもごしたカイテルさんは初めてだ。珍しい。
「はい」私はわけがわからず、首を傾げながら肯定した。
「よ、よかった。えーと、ホワイトウルフを街に連れて行ったら、街の人が怖がるから‥‥‥こ、ここでリオとリアと別れよう‥‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥えっ?リオとリアとここで別れるって‥‥‥どうしてですか?私はこの子たちを置いたりしませんよ?」
「そ、そうだよね‥‥‥えーと‥‥‥」
「だから、ホワイトウルフは凶暴な動物だ。街に連れて行ったら、街が大騒ぎになるぞ」
カイテルさんがなかなかはっきり言わないのか、マーティスさんが代わりに言った。
「それでも連れて行きます。大騒ぎになるからってこの子たちは誰にも何もしていないでしょう?勝手に騒いでいるのに、どうして私たちは離れなきゃいけないですか?」
「それもそうだけど、でもな‥‥‥」ジルは言いかけたけれど、でも私はリオとリアと別れない。
「お兄さんたちがそんなにリオとリアが嫌なら、別々で行きましょう。私たちは私たちで街に行きます。私はここでお兄さんたちと別れます」
「えっ!?わ、分かったよ。うんわかった。そうだよね。リオとリアも連れて行くからリーマ安心して、ね?一緒に行こうね?リーマもリオもリアも俺たちと一緒に王都に行こうね。ね?」カイテルは慌てて許してくれた。
「本当にいいですか‥‥‥?」
「全然いいよ。ごめんね、リーマもリオもリアも一緒に行こうね?」
朝からずっともごもごしていたカイテルさんが今日初めていつものカイテルさんに戻った。
カイテルさんたちがそんなに私のことを心配してくれているんだ‥‥‥私、我が儘を言いすぎちゃった・・・・・・・?
いつも優しくしてくれる人たちにあんな我が儘を言ったなんて・・・・・・・もっと穏便な言い方があったはずなのに・・・・・・・。
「ありがとうございます‥‥‥我が儘を言ってごめんなさい‥‥‥」
「いいよいいよ、気にしないで。リーマが俺たちと一緒に来てくれれば全然大丈夫だから」
カイテルさんのおかげで私はリオとリアを街まで連れて行くことができた。でもやはりホワイトウルフが街に入ると大騒ぎになったら大変だから、リオとリアを何とか誤魔化せないかと考え、今まで寝袋として使っていた大きな毛布でリオの体をぐるぐる巻き、メアリーおばあちゃんの上着でリアの体をぐるぐる巻いてみた。
この方法は意外といけるわね。二匹とも大きい犬ちゃんにしか見えないと思う。これなら街の人を誤魔化せるんじゃないかな。よし!明日、街に入る前にリオとリアをぐるぐる巻きしよう!
私はリオとリアの姿を見て満足した。
私はお兄さんたちに明日リオとリアをぐるぐる巻きして街の人を誤魔化すことを話そうと、お兄さんたちのほうを見ると、カイテルさん以外なんだか腹を抱えて笑いを堪えようとしているように見えなくもない。反対にカイテルさんは他のお兄さんたちを睨んでいる。どうしたのだろうか。
リオとリアはというと、この子たちはドヤっとした顔でお兄さんたちをニヤリと笑っている。気のせいかな。みんなどうしちゃったのだろう。
お兄さんたちと一緒に行動してぼんやりとなんとなくお兄さんたちの性格がわかってきた。
カイテルさんは金髪で青色の瞳。背が高く、いつもニコニコして優しくて一番私に気をかけてくれる。毒のある植物を通りかかる時、私がその植物に近づけないように私とその植物の間をさり気なく歩いてくれる。何度も他の毒のある植物を通り過ぎたけど、そうしてくれないこともあったから、恐らく私のほうが植物に詳しいと思う。でも誰かに心配してもらえることはやはり嬉しいことだ。
ジルさんは赤髪で赤い瞳。カイテルさんより少し背が低い。明るくてお喋りな人。初めてお兄さんたちに会った夜、私がお兄さんたちになれて来て警戒心が解けたのはジルさんのお喋りな性格のおかげとも言える。道中もよく私に話しかけてくれたり、王都のことや他の街のことや森以外の生活を教えてくれたりするから、ジルさんと話すのは楽しい。
マーティスさんは黒髪で青い瞳。背格好がカイテルさんと同じぐらい。か弱い女の子の私の首根っこを容赦なく掴んだあたりから、恐らく無慈悲な人かもしれない。それにマーティスさんの無言の圧力がなかなかのものだ。その証拠に他のお兄さんが時々マーティスさんに対して遠慮したりする様子も見られるから面白い。何度もその場面を見て何度も笑い出しそうになったのやら。まあ、その圧力が私に向けなければの話だけど。
ファビアンさんは銀髪で碧眼。村の人たちは青色の瞳や赤色、黒色の目だから、見慣れたけど、ファビアンさんのような色の目を持つ人を見たことがなかった。すごくきれいな目だ。ファビアンさんはこの四人の中で一番背が高い。無表情な人のように見える。あまり喋らないけど、たまに茶目っ気なところも見られたり、冗談を言ってきたりするから、そこまで寡黙な人じゃないかもしれない。もっと仲良くなったら、ファビアンさんのことがわかってくると思う。ファビアンさんはよくリオとリアのことを聞いてくるから、動物が好きなのかなと思って聞いてみたら、王城で騎士団だけではなく、動物の訓練隊も担当するらしい。
まあ、つまりお兄さんたちは優しくていい人だ。村を出てこんな優しい人に出会えたなんて私は幸運に恵まれた女かもしれない。
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