#012 街の料理

「今、どこに向かっているんですか?」



 私はカイテルさんに引っ張られながら、あちこちの店に首を伸ばして行き先を確認する。



「食堂だよ。ジルはもうついていると思う」



 食堂に向かっている途中でキラキラしたものを置いている店を見つけ、「何だろう?」と店のものを想像しながら、私はちょっと覗いてみると、首飾りとか髪飾り、耳飾り、指輪などを売っている店だった。



「わぁ〜きれい〜」



 私は今まで宝石とかキラキラした石とか見たことがなかったから、すごく感動した。街にはこんな綺麗な石があるんだね。いくらだろう?高そうだわ。さすがに宿のお金で買うのはダメね。そもそもおじいちゃんのお金が足りないんだろうし。



「気に入ったものがある?」



「うーん、この青色の長いのがきれいですね。カイテルさんの眼と同じ色ですごくきれいです」



「‥‥‥じゃこの首飾りを買ってあげる」



 カイテルさんが顔を赤らめ、嬉しそうな顔をして店の人にパパっとお金を払った。



「‥‥‥えっ!?ちょっと待って!私はお金がないですよ!」宿のお金が足りないかもしれないのに!



「だから買ってあげるって」カイテルさんが微笑んだ。



「私はそのつもりで言ったんじゃないですよ!本当に本当に大丈夫ですから。ただきれいだなって思っただけですから!」



「俺が喜んで買ったから受け取ってくれ。それとも俺からのものはいやなのか?」



 カイテルさんが悲しそうな顔で言った。そんなずるい言い方をされてしまうと私は何も言えなくなった。



 カイテルさんに「こっち向いて」と言われ、私は素直にカイテルさんに向く。するとカイテルさんが笑顔で首飾りをつけてくれた。



 私たちを見てニヤけたファビアンさんの姿が目に入り、私は恥ずかしくなった。




 宝石屋の買い物が終わった後、カイテルさんが他の店にも連れて行き、私たちは食堂に向かいながら街のあちこちの店を覗いていった。お花屋さん、雑貨屋さん、お菓子屋さん、服屋さん等々、こういう店はもちろん私にとって初めて見たものばかりだから、めちゃくちゃ楽しかった。トレストのどこが人気のない街なのだろうか?



「カイテルさん!街はすごく楽しいです!トレストはこんなに賑やかなのに、王都ほどでもないなんて本当ですか!?私は王都がどんな場所なのかもう想像が付かないです!」



「ふふっ、トレストよりずっと賑やかだよ。店もトレストよりたくさんあるから、リーマは絶対喜ぶはずだ。楽しみにしていてね。俺は全部連れていくから」



「約束ですよ!早く王都を見てみたいです!楽しみです!」



「ふふっ、約束だ」



 カイテルさんがいつもの優しい笑みを浮かべる。


 あちこちの店を覗いていると、街の食堂に着いた。



 リオとリアはカイテルさんと私について店に入ろうとしたら、店の人に動物が店に入ってはいけないと言われ、この子たちが『ぐるぅぅぅぅっ!』(ワタシタチはホワイトウルフだぞっ!)と偉そうに唸った。


 私はこの子たちを宥め、「街を出たらたくさん狩りしても大丈夫だからね」と言って、何とかこの子たちに店の前で待ってもらうことができた。



 店に入ると店の奥にジルさんが座っているのが見えた。ファビアンさんとマーティスさんもすでに店に到着していて、三人で楽しそうに何かを話している。



「ジルさん、ファビアンさん、マーティスさん、お待たせしました」



「お帰り〜。街楽しかった?」ジルさんがいつもの元気な声で言った。



「はい!初めてみたものばかりです!すごく楽しいです!」



「トレストぐらいでこんなに楽しんでるなら、王都に着いたら、仰天するんだろうね~」



「王都、すごく楽しみです!」



「それはよかった〜。料理いっぱい注文したから、ちょっと待っててね~」



「ありがとうございます。街の料理も楽しみです!」



「ファビアンから聞いたんだけどさ、さっきトラブルがあったのか?」



「ありました!村ではこんなことは絶対にないから、ワクワクしましたよ!世の中にいろんな出来事が起きますね。いい経験でした!」



「そ、そうなのか‥‥‥?楽しそうでよかったな‥‥‥」ジルさんは若干顔を引きつらせた。



「そう言えば、あの男は本当に騎士だったんですか?私が本当にあの人の体調を心配したのに‥‥‥」



「ふふふっ‥‥‥‥騎士が一般市民にあんなことをしたんだから、あの騎士は戒告処分を受けることになったよ」マーティスさんは笑いながら答えた。



「騎士なのにどうしてあんなことをしたんですか?わざとぶつかったとかひどいです・・・・・・・」



「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」


 お兄さんたちはお互いの顔を見て苦笑した。どうしたの?何か言いにくいことでもあるのかしら。



「うーん、まあ‥‥‥女の子にちょっかいを出したかったんじゃない?」マーティスさんは珍しくもごもご話した。



「ちょっかい?ちょっかいを出して何がもらえるんですか?」



「うーん、運が良ければ、女の子を手に入れるからね〜」今度はジルさんが答えた。



「この街にたくさん女の子がいるんじゃないですか?別に運任せまでしなくてもよかったのに」



「リーマ、気にしなくてもいいよ。もう終わったことだし、料理も来たからご飯を食べよう」


 カイテルさんは苦笑いして話を終わらせた。お兄さんたちがなんか怪しいけれど、言いにくいことみたいだから、もう何もなかったことにしよう。



 私は街の料理はどんなものかなと楽しみにしていたが、いざ料理が運ばれてその料理が目に入ると、硬直した。料理が何種類もあるのに全部肉料理で、全部私が食べられないものばかりだった。大変なことになってしまった‥‥‥。



 私は今更、自分が肉を食べられないことをお兄さんたちに話していないことに気づいた。なんてこった。



 村の小屋にいた時、私が料理担当だったから、もちろん自分が食べられるものだけ作っていたし、おじいちゃんは特に好き嫌いがないからずっと私に合わせてくれていた。お兄さんたちに会ってからも森の中の食事は野菜と果物と魚しかなかったから、森の中にいた時も全く気にしたことがなかった。



 そうだよね・・・・・・・街だといろいろ出てくるよね。このことを微塵も考えていなかった。私ってバカだな。どうしよう‥‥‥料理はたくさんあるのに蛇料理もない。魚料理もカニ料理もエビ料理も野菜料理もない。でもあれこれ食べれないとか言いづらい‥‥‥



 私は動物の肉が入っている料理をぼーっと眺めているとだんだん吐き気がしてくる。これは鶏肉‥‥‥鶏ちゃん‥‥‥可哀想に‥‥‥こんな料理を見るのは三年ぶりじゃないかしら。



 ふぅぅ、リーマ、落ち着こう。大丈夫大丈夫!鶏ちゃんを見なければいいのよ!ほら鶏ちゃんの隣に美味しそうな小さな野菜があるんじゃないの。それを食べよう!



「リーマ?どうしたの?食べないのか?」



 カイテルさんは声をかけると同時に私に鶏ちゃんの肉の料理を私の皿に置く。



 うぅぅぅ・・・・・・どうしよう‥‥‥いつも優しくしてくれるカイテルさんが料理を取ってくれたから、食べないとなんだか失礼に当たる気がする。



「‥‥‥タベマス‥‥‥」



 私は意を決して鶏ちゃんの肉を取り、『これは魚だこれは魚だこれは魚だ』と心の中で自分に言い聞かせながら口に運び、なんだか泣きたくなってくる。ちゃんと言わなかった自分が悪いのだ。鶏ちゃん・・・・・・ごめんね・・・・・・



「待って待って」カイテルさんは私の手を止めた。



「もしかして、この料理好きじゃないのか?ごめんね。俺、先に聞くべきだったね。リーマは食べられないものとかある?」



「‥‥‥‥‥‥肉は‥‥‥ダメです」私は俯き、小さな声で答えた。



「肉?肉は食べられないのか?じゃ俺、他の物を頼むよ。魚は大丈夫だよね?カニとエビが好きだよね?ちょっと待っててね」



「‥‥‥ごめんなさい、私今まで気にしたことなかったから、言うのを忘れちゃって‥‥‥」



「いいよいいよ、気にしないで。俺、先に聞くべきだったよ、本当にごめんね。食べられないものがあったらちゃんと言ってね。無理矢理食べないで」



「カイテルさんは悪くないです。私は悪かったです。本当にごめんなさい‥‥‥」



「全然大丈夫だよ。謝らないで。ちょっと待っててね」



「どうして肉を食べられないのか?」ファビアンさんは料理を口に運びながら、聞いた。



「‥‥‥私は動物と仲いいですから‥‥‥動物は私の友達ですから‥‥‥それでいつの間にか食べられなくなっちゃって‥‥‥」



「動物と仲良い?どういうこと?」



「‥‥‥私はすぐ動物たちと友達になれるんです‥‥‥動物たちは私の言うことを聞いてくれるんです‥‥‥」



 森にいた時、私はこのことを隠していたから、怒られたりしないかと心配で控えめにチラッとお兄さんたちを見回す。お兄さんたちはあまり理解できていない様子で特に怒ってる風には見えなかった。よかった。



「えーと、だからリオとリアがあんなにリーマのいうことに従順なのか?」



「‥‥‥まあ‥‥‥はい」



「でもそれで肉を食べられなくなるほどなのか?よくわかんないな」



「動物は私の友達ですよ。ファビアンさんだって食料のために友達のジルさんを殺したり食べたりしないでしょう?」



「なんで俺だよ!?例えが怖いんだよ!」



「まあ確かにこいつらを食べるために殺したりしないんだが‥‥‥なるほどな、そんな気持ちもあるんだな」



「この店、エビとかカニとかたまごとかもあるよ〜。リーマ、それ食べれる?」ジルさんはメニューを巡りながら私に聞いた。



「は、はい!エビとかカニとかが好きです。たまごも好きです!あっ蛇も食べられます!」お兄さんたちは優しすぎる。



「へぇ~、俺、今まで蛇を食べる女に会ったことなかったな。すごいな君」マーティスさんが感心したかのように目を見開いた。



「うーん、さすがに蛇料理はないねー」ジルさんはメニューを捲りながら教えてくれた。蛇は美味しいのに残念だ。



 そしてお兄さんたちは何品かの料理を追加注文してくれて、私は街の料理を食べることができた。お兄さんたちのやさしさが本当に心に沁みる。



「動物と仲いいってどんな動物でもなのか?」カイテルさんは聞いた。



「全部かどうかわかりませんけど、熊ちゃんとか鹿ちゃんとかリスちゃんとかウサギちゃんとか鳥ちゃんとかはすぐ友達になれます」



「珍しい能力だな。羨ましいな」ファビアンさんは羨ましそうに言った。



「えらいね」



 カイテルさんは私を褒め、頭を撫でてくれた。本当のお兄ちゃんができたみたいで嬉しい。でもなぜか他のお兄さんはまた急にニヤニヤし始めた。どうしたのだろうか?

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