第4話 欠けた席と祈る場所

今年はクリスマスは週の真ん中だったので、翌日も普通に仕事だった。


と言うか、年末進行も大詰めなのでいつもよりかなりバタバタしている。


客先も社内も年内にできることは終わらせたい、来年まで持ち越したくないと言う心理が働くらしく、仕事が山積みになっていた。


これは今日も残業しないと終わらないな……、と思っていると、不意に「休憩したら?」と言う言葉と共に机の上に個包装のチョコレートが置かれた。


目をやるとそこにいたのは、システムエンジニアの江間えまさんだった。


「あ、ありがとうございます」


江間さんは私の5つ上、33歳の中堅エンジニアだ。


「昨日は約束に間に合った?」


昨日、客先のシステム障害に対応したのはこの江間さんだった。


「高辻さん、昨日は絶対定時に帰るって言ってたのに、行友ゆきともテックさんがどうしても高辻さんに来てほしいって言ってたからね。本当は俺だけでも対応できたのに」


「……約束はちょっと遅れちゃいましたけど、大丈夫です。行友テックさんは私が新規開拓したお客さんなんで、社長さんに気に入られちゃってるみたいだから仕方ないですね……」


私が働いてるのは客先にシステムを提供する中堅どころのIT企業で、私はそこの営業部に属していた。


正直この業界、そして営業となると女性はまだまだ少ない。


新卒で入社した私は文系卒だったのでシステムのことは全く素人だったし営業と言う仕事も希望したわけではなかったけど、せっかくだから頑張りたい、女性だからと言う偏見を払拭したいと言う気持ちから猛勉強し、今はそれなりにお客さんたちともいい関係を築けていた。


「高辻さんが真面目に頑張ってるのは分かるけどさ、あんまりお客さんの言いなりになりすぎる必要もないと思うよ。上は顧客ファーストって言うけどさ、そこはうまくやらないと」


そう言って、江間さんは自分の部署に戻っていった。


ちょっとモヤっとしながらも、江間さんがくれたチョコレートを口に運ぶ。


その甘さと苦さを噛み締めながら、江間さんの言葉を思い返していた。


江間さんはエンジニアとしてスキルがあるし、社内でもそれなりに信頼されるポジションがある。


でも私はしがない営業の一人だ。


努力と足で稼がないと、お客さんにそっぽを向かれたらあっという間に信頼を失うかもしれない。


そう思うと、江間さんの言う「うまくやる」という考え方が、私にはとてもできない気がした。




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なんとか仕事納めを終え、年末年始の休暇に入った。


毎年、年末年始は実家に帰ることにしていた。


と言っても、実家は電車で一時間半ほどのところなので普段から帰ってもいいんだけど、いつも週末は仕事で疲れ果てるか直人と会うかしていたので、帰省は長期休暇の時しかしていなかった。


そして毎年1月2日は大学時代の友達と集まって、近所の神社に初詣に行くのが恒例になっていた。


メンバーは私含め5人だったけど、今年はそのうちの1人、彩希さきは来なかった。


去年まで5人でワイワイ他愛ない話をしていたのに、彩希がいないと何となくぽっかり穴が空いた気がする。


彩希は実は去年、ステージ3の乳癌だと診断されていたのだ。


今は抗がん剤の治療をしているとのことだったけど、なかなか合うのが見つからないらしく大変みたいだった。


お見舞いに行きたいけど本人が今はしんどいからと言うことで、会いにも行けていなかった。


なので私たちができるのは、彩希の体調が少しでも良くなりますようにと祈ることだけだった。


お参りしながらふと、教会のことを思い出した。


キリスト教の神様にも、お祈りできるんだろうか?


でもこうやって神社でお参りしてるのに、キリスト教会にも行くなんてどうなんだろう?


やっぱり神様からしたらいい気はしないものだろうか。


でも、榊原牧師たちはいつでも誰でも歓迎してると言っていた。


神社の空気も好きだけど、あの教会の雰囲気も私は忘れられない。


あの穏やかで落ち着く、心のどこかがフワッと暖かくなる感覚。



初詣の帰り道、みんなでお茶をしながらも、私は教会のことが頭から離れなかった。

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