第十二話 新たな道へ
ルナが父親に攫われていたことを知る人間は少ない。
というか、知っているのはルナと父親、それと──俺くらいだろう。
父親の側近は怪しいが、基本的には父親が秘密裏に進めていた計画だ。
だから、この件にこれ以上深入りする必要はない。
ルナの心が痛むだけだし……何より、面倒くさい。
だからルナと話し合って、俺とルナだけの秘密にすることにした。
……アリスには言ってしまったが。
まぁ、あいつとは一緒に悩んだ仲だし、仕方ない。
当然、男爵──いや、ルナの父親の行方不明は問題になった。
だが、それもすぐ“揉み消された”。
これによって、父親の計画に関わっていた者がまだこの国にいると推測できる。
この件を深掘りされたくないのだろう。
なら、それでいい。
国の情勢についてだが──最近、魔物の大群が散り始めたらしい。
つまり、“この国に一直線に向かってくる動き”は無くなったということだ。
とはいえ、散っただけで、まだ近隣には魔物が残っている。
すぐに安心……というわけではないが、状況は確実に良くなっているらしい。
俺が異世界に転生してきて、最初に掲げた目標は“国外脱出”。
その必要はもう無くなった──
……はずなのだが、俺はそうは思わない。
この目標を抱えていたからこそ、“今の俺”がある。
強さ。
金。
ギルドの屈強なおっちゃん。
アリス。
そしてルナ。
全部、俺にとっては宝物だ。
それに、この国だけに留まり続けるのは「この世界を謳歌する」とは程遠い。
*****
「ねぇ! 乗ろう!」
急かすルナの声に、ルイ──つまり俺は“やれやれ”と言いたげに肩をすくめ、重い荷物を持って馬車に乗り込んだ。
「もう、みんなに挨拶は済ませたのか? ルナ」
「当たり前だよ! だって私の大事な仲間たちなんだもん!」
「まぁ、そうだよな。俺も済ませたし」
馬車に乗り、後ろを振り返ると──仲間たちが見送りに来てくれていた。
俺とルナは涙ながらに最後の挨拶をする。
覚悟はしていたが……いざ別れの瞬間が来ると、泣かずにはいられなかった。
まぁ、ルナは俺の倍以上泣いてたけど。
そして、馬が鞭で叩かれ──
俺の目標だった“国外脱出”がついに果たされた。
馬車は国道を走る。
この国道には魔物が寄り付かない。
理由は不明だが、魔物はこの道を“人里と同じもの”と認識しているらしい。
そして、これから向かうのは──
騎士の
騎士の国……めちゃくちゃカッコいいじゃないか。
噂では国がかなり発展していて、街並みが近代的らしい。
さらに、国は“騎士の育成”に力を入れているとかで、軍事力は世界でもワン、ツークラス。
その国では騎士であることが名誉で、弱者は切り捨てられる……
まさに弱肉強食の国。
だが、国としては“国民を大事にすることが発展の必須条件”と理解しているらしく、
騎士たちは“弱き者を守るため”に鍛錬を積んでいるという。
「ルイ、見て見て! 綺麗!」
ルナの声に目を向けると──
草原に、白と紫が混じる輝く巨大結晶が乱立していた。
思わず見惚れていると、馬車を操るおっちゃんが話しかけてくる。
「あぁ、その結晶ね。綺麗でしょ。私も通るたびに見てるけど、飽きませんよ」
それからおっちゃんが結晶について説明してくれた。
ーー簡単にまとめるとこうだ。
“魔力にとんでもない圧力が加わった時に生まれる結晶”。
全て地下で形成され、地震の衝撃で地上へ突き出てくるらしい。
世界各地で起きる珍しくない現象だが──
「綺麗だ」と思うのは世界共通、というわけだ。
そして二日後。
慣れない移動で俺もルナもぐったりしていた時、
おっちゃんが急に叫んだ。
「おい! 国が見えたぞ!」
一気に疲れが吹き飛び、馬車の窓から顔を出すと──
そこには、巨大な防壁に囲まれた ルンビニ王国 があった。
防壁の上では、紺青の旗が風に揺れている。
まさに“この国を象徴する旗”だ。
「うわ、すっごい! あの防壁、50mくらいあるんじゃない?」
「確かに。そんくらいはありそうだな」
「どんな人達が、どんな姿で、どんな暮らししてるのかな?」
「さぁな」
俺には、この国ですべきことがある。
──“魔物の魔法”について調べることだ。
自分なりに整理はできたが、不明点はまだ多い。
どうせまた厄介ごとに巻き込まれるのだろう。
ガルリロスの意味深な言葉「色々な困難」。
前の国で嫌というほど思い知らされた。
俺は大きくため息をついた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
そして俺たちは──
ルンビニ王国の巨大な門へと向かった。
転生したら魔物の魔法しか使えなかった件〜異世界を謳歌する!〜 @uwon7806
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