第二章 ネタ縛りダンジョンと隠された「称号」

第3話 全員小盾でいざ出陣

《アストラル・シティ》からほど近い初心者向けのエリア。《始まりの洞窟》と呼ばれるダンジョンの入り口に《クローバー》の四人は集合していた。周りには文字通りゲームを始めたばかりの新人プレイヤーたちが、緊張した面持ちでモンスターと戦っている。

「いやー、懐かしいね、ここ!」

 ルーナが感慨深げに周囲を見渡す。サービス開始直後、ここでコボルトにビビりながら戦っていた日々が思い出される。

「レベルが下がるペナルティが重いから、みんな慎重にレベル上げしてたよね」

 アリスが同意する。その言葉はこの世界のリアルな緊張感を物語っていた。

「よし18時になった!さっそくセカンダリージョブに切り替えるよ!」

 ルーナが元気よく言うと、四人はそれぞれのシステムウィンドウを開いた。


[セカンダリージョブを選択してください]


 画面にはジョブリストが並んでいた。メイは迷わず「シールダー」の項目を選択し、決定ボタンを押す。


[セカンダリージョブ シールダー を習得しました]


 ウィンドウが消える。特に大きなエフェクトはない。少し物足りないがごく普通のシステム処理だ。

「私も設定完了!」

「私もです!」

「私もだよー!」

 全員が設定を終えたことを確認し合う。

「じゃあ、装備を変更しようぜ!」

 ルーナが叫び、再びアイテムウィンドウを開く。メイン武器である戦斧をアイテムボックスにしまう。ウィザードの杖、プリーストの杖、モンクのナックルも同様に収納される。

 そして、装備スロットにセットされたのは、初期装備として支給されていた、ごく平凡な鉄製の小盾だった。

[始まりの小盾]。その名の通り、腕に装着するだけの小さな盾。防御力はほぼないに等しい。それをメイン武器として構えるという異様な光景。

「うっわー、なんか頼りない!」

 ルーナが小盾をカチカチ鳴らしながら笑う。両手武器のウォリアーにとって、盾を持つこと自体が初めての経験だ。

「私なんて、片手武器すら初めてかも……」

 アリスも困惑気味だ。普段は杖を両手で持っている。

 フィリアは小盾をぎゅっと胸の前で構えて、ぶるぶる震えていた。「こ、これでモンスターと戦うなんて……」

(ふっ)

 メイはそんな仲間たちを見て心の中で小さく笑みをこぼした。

(この頼りない装備と、普段使わないジョブ。普通なら自殺行為だけど……)

 彼女の腕にも、小さな小盾が装着されている。モンクは武器の概念が薄いが、一応ナックルは武器扱いだ。それをしまって、この盾一枚で戦う。

(まぁ、私の場合はリアル武術で培った回避と打撃がメインだし。盾はオマケみたいなものだけどね)

 システム的な防御力はなくてもリアルスキルで避ければいい。それが彼女のチートたる所以だ。そして今回手に入れた「盾スキル」が、その回避能力とどうシナジーを生み出すか――それが今回の「ネタ縛り」の真の目的だった。

「よし、みんな準備OK?」

 メイがクールに問いかける。

「おッケー!」

「いつでも行けます!」

「行きましょう!」

 賑やかな返事が返ってくる。

「じゃあ、今日のルールは『セカンダリージョブの盾スキルのみ使用可』。メインジョブのスキルは封印ね。気をつけていこう」

 メイの冷静な指示に皆が頷く。

 周りの初心者プレイヤーたちは、メイン武器をしまって小盾を構える、レベルの高そうな四人組を不思議そうに見ている。だが当の本人たちは気にする様子もなく、意気揚々とダンジョンへと足を踏み入れた。

《始まりの洞窟》の薄暗い入り口が、四人を飲み込んでいく。

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