金髪女ヤンキーの異界任侠伝〜神の力を持ったヤンキーが国を救っていたら、いつの間にか救世主ではなく極道と呼ばれていた話〜

@Mansa38

プロローグ

プロローグ


 アイカ・アルカディウス・イグナスの存在を人々が語る時、とある国においては神話に登場するような破壊神と語られることもあれば、他民族同士の凄惨な争いに終止符を打ち、大陸に調和をもたらした救世主と語られることがしばしばある。


 どうして真逆の事が語られるのか。それは、彼女の狂犬じみた人間性にあった。


 国の頂点である国王陛下を足蹴にして真っ向から反抗したかと思えば、全て国王の為にやったと後に判明したり、救世主としての役目を一身に請け負って世界を救う為に敵を倒したと思ったら、その敵の親玉になっていたりと彼女の行った数々の歴史的出来事は一様に突飛であった。


 "あの女はイカれている"


 時には悪役、時には英雄、ある時は奸雄かんゆうか……もしくは、傾国の美女と語る者もいる。兎にも角にも、彼女の歴史を語る時、どの立場で語るかは”語り部”の裁量であると同時に悩ましい所であり、結局は、思想や生まれで逐一変わるのだろう。


 ただ一つ言えることがあるとすれば、それは彼女の登場が”とある世界”の状況を一変させる分水嶺となったと言うことは、どの語り部にも共通認識であることは間違い無い。


 そんな”救世主”の物語を語るには先ず、彼女がどんな人生を歩んできたのか知る必要があるだろう。


 *


「親父っ、なんで、なんでアタシなんかを助けたんだよっ!」


 誰にも知られることのないような、薄暗くひっそりとした路地裏にて一人の少女が泣き叫ぶ。


「アタシが勝手にやっちまったことじゃねぇかっ!親父には関係ねぇのに、どうして…!」


 少女は自身の過ちを生まれて初めて悔いていた。何故なら、少女の傍には腹部や頭部から血を流す父親が倒れており、その原因が自分にあったからだ。


“どうしてって、そりゃぁ…お前を—”


 今にも事切れそうなその男は、血を吐きながらも抜けゆく生命力に必死に抗い、少しでも少女を安心させようととびきりの笑顔を作った。そして、震える頬にそっと手を添えると、人間としての最後の言葉を呟いた。


 *


 奇抜な格好をした一人の女性が深夜の道を堂々と歩く。胸元まで伸びる線の細い金髪は綺麗な顔立ちによく似合い、白の特攻服を着用しながら肩で風切って歩く姿はまるでドラマや映画に出てくる女族長役を演じる清純派女優のようだが、彼女は本当に暴走族の長だった。


 免許を持ち、交通ルールもある程度は守っているが、その派手な格好と深夜に爆音のエンジン音を響かせる姿を見て、彼女が野蛮人であると考える者は少なく無く、社会を真っ当に生きる者達からは”とりあえず”嫌われていた。しかし、彼女は周囲の目など気にせず、自分のやりたいように生きていた。それが、彼女の生き方だったからだ。


 彼女はとある駐車場に足を踏み入れる。

 

 既に十数人の男女達ががおり、大股座りの男や、その男に寄りかかる茶髪の女性が目に映る。いかにもな光景で、一般に生きる者達は急いで立ち去るだろうが、彼女は族長だ。群れ長の獅子の如く、彼女は堂々と駐車場に歩みを進めた。


 彼女が来た事が分かると、数十人の男女達は駄弁るのを辞め一斉に立ち上がる。花道を作るように駐車場の両側に立ち、族長に心地良く歩いてもらう為に規律良く頭を下げる。


 派手なバイクが何十台も停まり、その前で敬意を表す若い男女達の姿は壮観だが、当の本人はその光景に眉を顰めていた。


「膝に手を置くな馬鹿ども、アタシは暴力団の幹部じゃねぇって」


 特攻服の女性が後頭部を掻きながらそう言うと、周囲の男女達は吹き出すように笑い合い、駐車場は毎夜の溜まり場へと戻っていった。


 特攻服で金髪の女性ー秋華(アイカ)は今日のルートを決めようと自身の愛車の元にやって来る。座席に寄りかかり、ポケットから小型端末を出した後、荷台にあった地図を広げて睨めっこを始めたその時、見計らったようにメンバーの女性が声を掛けてきた。


「あ、アイカの姉さん!今日も金髪が似合って素敵ですね!」


 アイカと同じように厳つい刺繍のされた白の特攻服を着ているが、金髪ではなく茶髪が特徴で、本人はどこか頼りなさげな雰囲気だ。


 秋華は地図からその女性に視線を移すと分け隔てない笑みを浮かべ、自身の髪を掻き上げながら気分良さげに答えた。 


「そうだろう?アタシは世界で一番金髪が似合う女なんだって…って何回も言わせんな!それで、今日は何があった?」


 いつもの軽いやり取りを経て、いつものように近況を尋ねただけなのだが、今日ばかりは様子が違った。


 茶髪の女性が「あはは…」と困ったような笑みを浮かべるのを見て、アイカの背中に嫌な予感が駆け巡る。


「どうした、何かあったのか?」


 その一声だけで圧が増し、声を掛けてけきた茶髪の女性は背筋が凍るのを感じる。恐れ慄き、何も言えずに困り顔を浮かべるだけになってしまった。


「えーと…なんでもありません」

「その顔で駆け寄ってきて何でもないこと無いだろう。何があったか言えって」

「本っ当に何でもないんです!いつもと変わりません。素敵な姉さんを拝みにきただけですって…!」


 あからさまな態度を見せたにも関わらず、何も言わない茶髪の女性に秋華は虫の居所が悪くなる。彼女は自分のバイクに立てかけてあった竹刀を片手に、鋭い眼光で目前の女性に迫った。


「手前はいつもと違うようだな」


 綺麗な顔立ちが霞む程の恐ろしい顔に茶髪の女性は「ひっ」と小さく悲鳴を漏らすも、そんな彼女の心中など知った事ではなく、秋華は言葉を繰り返した。


「もう一度聞く、何があった?」


 水を打ったように場が静かになる。駄弁っていた男女達は一斉に秋華達に顔を向け、神妙な様子で事を見守り始めた。


「え、えとっ、その…」


 茶髪の女性は恐怖で口籠もり、何も言えなくなる。その様子に秋華は余計に苛立ち、鬱憤を晴らすように竹刀を地面に叩きつけた。


「族長のアタシが質問してンだっ!答えられない義理はねぇだろがっ!?それとも何か、お前はアタシを馬鹿にしているのか?だったらっ…」

「待ってくれ姉さんっ!」


 秋華が茶髪の女性の首元を掴もうとした瞬間、周囲の男女達の中からの男が一人、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「待ってくれ姉さん、俺から説明させてくれ!」


 男が出て来るや否や腕に縋りにつき、怖そうに見上げてくる茶髪の女性に一層と腹を立てる秋華。思わず殴りそうになる彼女だったが、女性に手を上げる奴はクズだと自分に言い聞かせ、先ずは男の話を聞くことにした。


 秋華は気を落ち着かせるように息を吐くと、自身のバイクに寄り掛かり、事情を話すように顎をクイっと動した。


「何だと……?」


 そうして全てを聞いた秋華は、怒りから眉をひりつかせ、思わず竹刀を投げ飛ばしそうになるも、折檻せっかんという用途があるので地面に叩きつけるだけで済む。


「未成年のお前らが高速で二人乗りをしていたら、案の定サツの静止を受けたにも関わらず、無視して逃走中だと…?」


 彼女は竹刀を携え、ひざまづく男に躙り寄る。


「しかも、慌てて逃走するあまり、堅気の一人をひき逃げをしただぁ?ふざけンのも大概にしろクソボケぇッ!」


 湧き上がる怒りを放出するように、秋華は持っていた竹刀で男の背中を打ちつけた。


「うわぁ!?」


 男は痛みから呻き声を上げ、体を捩らせながら横に倒れる。


 そんな彼の無様な姿に茶髪の女性は慌てて駆け寄り心配そうに肩を揺らすも、直ぐにアイカによって無理やり退かされ、男と同じように地面に倒れてしまう。


「外道がッ!自分が何をしたか、そのマシュマロみたいな体に叩き込んでやるッ!」


 閑静な駐車場に耳を塞ぎたくなるような怒鳴り声が周辺に木霊する。秋華は喚き声のような咆哮を上げながら、竹刀の制裁を何度も加えるのであった。


 *


 ひとしきりの折檻が終わると、秋華は膝を折って屈み、くたばる男の茶髪を掴んで睨みつける。


「手前は今、アタシ達全員を犯罪者にしてんだ。公務執行妨害か、それとも逃走補助だったか?分かってることは、お前は轢き逃げの”逃亡犯”で、アタシ達はお前を匿っちまってる」

「うぅ…ご勘弁を…」

「どう落とし前をつけるってんだ?おぅ、答えろやッ!」

「分かりやせんっ!すいやせんっ!」


 謝るだけで反省の色が見えない男を秋華は腹立たしげに投げ捨てた後、自身の愛車に立てかけてあった赤いバールのような物に竹刀から持ち替える。


「護ってやる」

「へ…?」


 バールのような物で殴られると男は蹲っていたが、秋華の包容力を感じさせるような声にそうではないと安堵し、顔を上げる。


 男は希望に満ちた眼差しを族長に向け、心して彼女の言葉を待った。


「アタシ達は”家族”だ、心配すんな」


 秋華は期待に応えるように男の肩に手を置いた後、どこぞ親分のようにのっしりと立ち上がり、駐車場に停まる一台のバイクに歩み寄る。そして、持っていたバールのような物を天高く振り上げ、勢いよくシートに振り下ろした。


「はぁ!?」


 安心したのも束の間、男は慌てて止めに入るも、秋華によって膝を蹴られ、その場に倒れ込んでしまう。


「何やってんだ姉さんっ!そいつは両親に買って貰った大切なバイクでっ!」


 地面に突っ伏しながらも、男は愛車の破壊を始めた秋華の足首を掴み、必死に止めようとするが、


「五月蝿ぇッ!証拠隠滅してンだから、邪魔すんなッ!」


 男の抵抗虚しく、秋華は煩わしそうにその男を足で払うと、これ以上邪魔をされないよう股間を蹴り上げて無力化した。


 その後、彼女は周囲で呆然としていた男達に向かって指示を下す。


「捕まりたくなかったらアタシを手伝えっ!バラしてその辺に捨てンだよッ!」


 指示を受けた男達は慌てて駆け寄り、秋華と共にバイクを破壊するのだった。


 *


 突発的に起きた問題を片付けた後、近くの川に一人でやって来た秋華は持っていた”彼のナンバープレート”を一瞥し、その手で水面に放り投げる。


「これで良いのかな、親父…」


 投げ捨てたナンバープレートが落ち、水面に映った月明かりが幻想的に揺れ始めるも、時が経てば何事も無かったかのように波紋が無くなり、元の穏やかな川に戻ってゆく。彼女はその光景を寂しげに見つめながら、先ほどの行動が正しかったのか想いを馳せた。


 どんなに間抜けで後先考えない愚か者でも、”家族”と一度でも認めた者を秋華は見捨てない。それが、亡き親父の背中を見て育った、彼女の唯一知る不器用な生き方だった。


「轢いちまった奴に怪我がねぇみてぇで良かった。しばらく様子を見て、熱りが冷めたらナンバープレートを再取得してやるか」


 秋華は懐から煙草を取り出し、暴力と破壊で立った気を落ち着かせように一服する。


「ふぅ…いくらか金も渡してやらねぇと。いや、あいつはボンボンだったか?それに、被害者の様子も逐一確認しねぇと。後は—」


 今後の予定を呟きながら煙草を蒸していた時、突然、彼女の背中に重たい衝撃が走った。


「…へ?」


 不自然に体から力が抜け、秋華は膝から崩れ落ちる。


「一体、何がっ…」

 

 倒れた彼女は衝撃のあった背中に手をかざすと、ベとりと重たい液体の感触が伝わる。霞む視界でその手を見ると鮮やかな赤い液体が付着しており、自分は誰かに刺されたのだと理解した。


 誰が刺したのか、残された力を振り絞って首を回転させる。


「か、彼をイジメた罰よっ」


 その目に、族仲間である筈の茶髪の女性が映った。


「手前が、アタシ、を…っ?」


 バイクを破壊した時の破片を握っており、手に血を滲ませながらも口元をひくつかせながら笑っている。


「威張るだけの能無し女がっ、いい気味よっ」


 唾を吐き捨て、女は茶色の髪を背中で揺らしながら走り去った。


「おや、じ…これで、良いんだよな?」


 この先に何が待っているのか察した秋華は、ようやく解放された孤独の生に安堵感を抱き、堪えられない眠気に身を委ねた。


 *

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