〈砂〉によるディスクールの試行群

吉田隼人

〈砂〉によるディスクールの試行群(19首+1首)

〈砂〉によるディスクールの試行群


冬 鴉のしづかな思量 各人の死に至るまでの苦の総量の

際限なく拡散すると仮定され雪は推量としてのみ降る と

わづかに統御を外れた雪が一連の言説により確認される

だとしても分散された光には苦吟の跡もとどめないのだ

鳶のゑがく楕円(もしくは真円)の恋情はまづ否定されゆく

水鳥は水にもぐりて還らざり κύριε 虚構のすべてに恩赦

プリペアド・ピアノ 滅亡した都市の復元までの雨ゆるやかに

いちが立つ 市と鴉のとりむすぶ鉛直方向の関係が

(素粒子、それから、秒)つまりピアノ・フォルテの成り立ちのこと

存在、あるいは存在 夢の中でのみ成立してゐる論理のやうに

封建制はいづれ熱的死を迎へ、紅茶を埋める〈砂〉の数量

愛といふ美辞に騙されるな鴉、奪格ばかり書き連ねては

紅くない夕陽 それゆゑおだやかなAnthem in vitroに雪ばかり

殺人に季語は要らない 暮れてゆく村落にまたありふれた雪

必然性なき姉 雪はとこしへに四六駢儷体もて唄ふ

晩年の近似値といふ退屈を飼い慣らし、冬のみづがしを

忠実に遂行された戦闘の欠片ににじむ虹のしづくは

都市は終焉する劇は終演する砂のうへに顔をゑがく必要はない

青の原理にしたがふときの惑星の運行のなか鴉の帰還


反歌

ひとの世をはなれてとほく燃えてゐるスピノザといふ暗い星の名

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

〈砂〉によるディスクールの試行群 吉田隼人 @44da8810

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る