第3話




「腹減ったって言ったって、悪魔ってそもそもなに食うんだよ」

「私に聞かないでちょうだい。足りてないんじゃないの」

「あのなぁ。ウチは富豪じゃないんだ。米一合ですら無くなったことを怪しまれてんのに、これ以上あげるわけにはいかねぇだろ」


悪魔と始めた同居生活3日目。

この美少女は腹がすいたと言っては、俺のベッドの上で伏せっていた。

大食いなのか、悪魔に人間の食べ物は意味がないのか。

そんなこと、俺に分かるわけがない。

1日中寝ているせいか、俺があげたTシャツも短パンも、まるで自分のものだったかのようにその体に馴染んでいた。


「死ぬなよー」

「死なないわよ。人間ほどぽっくり死なないわ」

「今日の飯はこれだけだからな。大事に食えよ」

「おせんべい1枚って……」

「ワガママ言うんじゃないぞ。これは俺のおやつの一部なんだからな。ありがたく食うと良い」


いくら上げても腹を満たさないのに、ウチの物資を、主に俺の日中に食べる飯を減らすわけにはいかない。


「あんたって、外には出ないの?」

「出ないな。外には危険がいっぱいだ。例えば見知らぬ悪魔を拾う羽目になったりな」

「それは不運ね」

「おかげさまでな」


ニートの俺は1人悠々自適な暮らしを送っていたのに、少しの散歩でそれが壊れるなんて、やっぱり外は危ない。俺のこれまでの自衛は間違いなかった。


「そういえば、お前はなんの悪魔なんだよ。悪魔って言ったって、種類があるんじゃねぇの」


ほらー、なんだっけ?堕天使とか、ミカエルとか、それが悪魔の種類なのかすら俺にはよく分からないが。


「うーん、分からないわ。私は悪魔で、最初に卵に触れた者が親。それしか本能には刷り込まれていないのよ」

「お前の親、飛行中にでも産んだんか?今すぐにでも返しに行ってやったほうがいい気がするんだが」

「私に言われても分からないわよ」

「実親なんだから大事だろうよ」


こんなニートに娘を拾われちまったお前の親が可哀想だ。


「悪魔ちゃんはさ」

「その、悪魔ちゃんってやめてくれないかしら。人間さんって呼ぶわよ」

「俺は別にそれでもかまわないが。名前か……お前名前あるのか?」

「あんたが付けるに決まってるじゃない。親なんだから」

「その強制親制度どうにかならねぇのかよ……」


名前……きっと一生使うのに、俺が付けてしまっていいんだろうか。途中で名前が変わるのも可哀想だし、俺は悪魔ちゃんでもかまわないんだが。

こいつ本人は嫌だって言うし、ここは付けてやるべきなのか……?

名前……名前……女の子の名前……


「ミカ、はどうだ」

「良いんじゃないかしら」

「意外とあっさりだな」

「名前なんて一々気にしないわよ」


返せ俺の限りある思考時間を。


「じゃあお前の名前はミカだ。ちなみに、俺は悠馬ゆうま。好きに呼んでくれ」


ネーミングセンスに自信はないから、こういう時ハーレムゲーをしていて良かったと心から思う。

俺のイチオシキャラ、主人公を貶めようとして結果惚れ込んでしまう、激カワ堕天使ミカちゃん。

性格も見た目も全然違うが、なかなかこいつに似合っている名前だと思う。


「ゆうま……私もう寝るわ」

「悪魔のくせに相変わらず人間より人間らしい生活送ってんな」


20時。

いつもより少し早いが、体力の限界なのか空腹故か、こいつはいつもこのぐらいの時間に眠る。

正直、とてもめちゃくちゃ超絶ありがたい。おかげさまで、俺の趣味が奪略されずに済んでいる。

今から暗闇で1人、今日も生きたご褒美に、俺はムフフウフフハーレム異世界を楽しむんだ。

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