第45話 キャリコ作戦開始!
〇ボルデメ管制室内
「イロハ、ボルデメかけるです、取れますか?」
「ボルデメ、イロハ。感度良好だ、どうぞ!」
「中島一士、東亜は周級2番艦以外に艦影はありませんか」
「うん、私も不思議に思ったんだが、今のところ2番艦一隻だけだ。空軍の護衛も見当たらない」
「了解しました」
「中野艦長、今度は何をやらかす気だ?」
「艦長と言うより大泉総理特命補佐ですかね。私にもめぐるにもまだ教えてくれないんですよ。わかったらすぐにお知らせします」
「ビューティペアも聞いてないのか、なら仕方ない。警戒を継続する!」
「よろしくお願いします!」
イロハとの会話が終わるのを見計らったかのように、別の声がボルデメに響く。
「ボルデメ、ファースト。今回は間に合ったか、こちらF35の反町だ!」
「ファースト、ボルデメ。大丈夫です! 反町さん、今回は敵潜に侵入するため誤射は許されません、攻撃はこちらでお預かりします!」
「誤射なんてしないけどな。でも了解した! フューチャー共々攻撃システムへのリンクを頼む! それにしても敵潜に侵入とは、大泉も大胆なヤツだ」
「リンク確立しました! 反町さん、一次攻撃が終わっても、旋回しながら警戒待機願います。万一の時は二次攻撃もいきます!」
「了解っ! もちろん、そのつもりだ!」
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
「艦長、舞鶴海道抜けます」
藤本さんが報告する。
「了解。進路、速度ともそのまま」
「進路、速度ともそのまま」
舞鶴海道を抜けるまでの2時間、大泉さんは、ちくが乗ったままの戦術卓を囲み、若井さんと、中野艦長、ボルデメ、それと時々英語も混ざっていたから、多分米軍も交え、キャリコ作戦の細部を説明していた。
話しを聞きながら若井さんが何度か真顔で大きくため息をついていた。
中野艦長も腕を組んだままだ。
英語でアーユークレイジー?とも聞こえた
・・・それだけシビアな作戦なんだろうな。
しばらくして、また藤本さんが報告する。
「艦長、EEZ抜けます」
中野艦長は頷いて、
「前進微速」
と命令する。
続いて、
「ソナー、ピン一回」
「了解、ピン打ちます」
音無さんの復唱に続いて、カーンと、金属の反射音がブリッジに響く。
「周級確認!」
水田さんが艦長を振り向く!
中野艦長は、静かに頷き、命令をくだす。
「一番管注水」
「艦長、一番管、発射準備オールクリア」
艦長が、うんと頷いた時、若井さんが言った。
「こっちから先に撃つのか!」
中野さんは若井さんを振り向きもせず、
「先に撃ってきたのは向こうですよ。我が国に既に24機もの爆薬を積んだドローンを送り込んでいる」
「発射」
「発射っ!」
ブリッジに鈍い衝撃が走る。
大泉さんが無線でボルデメに指令を送る。
「めぐる! 魚雷は周級の右30を抜けていく。その後必ず奴らは撃ち返してくる。それをこちらのデコイ2発に誘導しろ、外すなよ!」
大泉の言った通り、
「艦長、発射管注水音!」
と音無さんが叫ぶ。
続いて、
「艦長、魚雷来ます! 距離3000!」
間髪を入れず艦長の命令が飛ぶ。
「デコイ発射」
「デコイ発射ッ!」
「ボルデメ、外すなよぉっ!」
「総員衝撃体勢!」
「衝撃体勢-ッ!」
ドオォオンッと言う大きな音と結構な振動で艦が揺れた。
ブリッジ内のいくつかのコンソールで赤いランプが点滅し、警告音も鳴っている。
「三上、損傷確認急げ!」
「各部所の損傷個所挙げっ!」
魚雷室異常なし、機関室異常なし、ソナー正常!
各部からの報告が次々にスピーカーから伝わってくる。
「艦長、各部異常なしっ! 浸水無し、航行、潜航に支障なしっ!」
三上さんの報告にうんと頷き次の命令を下す。
「浮上」
「了解、浮上します」
「永野、敵潜に打電」
「どうぞ!」
と叫び、キーボードに手を置く永野さん。
「ワレ シンスイス ツイカノ コウゲキハ ムヨウ」
その時、水田さんから、
「後方300、ミネソタです!」
と艦長に報告があった。
「時間通りだ」
時計を見ながら中野さんが言う。
そして、
「周級から返電! 直ちに降伏せよ! ハッチを開けてその意思を示せ」
と艦長を振り返って永野さんが叫んだ。
「周級2番艦、浮上します!」
音無さんからの報告に、うん、と頷く中野艦長。
よしっ、とガッツポーズの大泉さん。
「浮上完了」
「降伏旗掲揚っ!」
私が行きます、と言ってハッチに向かう中野副長に、
「副長、くれぐれも気をつけろ」
「了解です。防弾ベストも着ます」
ん、と頷く中野艦長を見て、ハッチに向かう三上副長。
「艦長、追電です! キカンヲ ロカクスル」
との永野さんからの報告に、ニヤリとしながら、
「ホンカンヘノ ジョウカンヲ キョカス」
と返信するよう中野艦長は指示を出した。
ハッチを開ける三上。
「艦長、三上です。敵ボート3隻確認。武装した兵士が乗組みます」
「何人だ?」
「10、11・・・12! 12名です!」
今まさに、「かみかぜ」鹵獲のため、周級から12名の兵士がゴムボートに乗り込み、こちらに向かおうとしていた。
いよいよ、日本と3匹の猫たちを救うため、一世一代の大芝居に打って出る「かみかぜ」。
中野艦長がマイクを握りしめて指示を出す。
「ボルデメ、ファースト、こちら「かみかぜ」中野だ。私の合図で周級デッキ前方、並びに後方に空対艦ミサイル発射。ボルデメ、無弾頭だが原子炉には当ててくれるな、正確な誘導を頼む! 同時にスクリューには誘導弾。こちらは実弾だ、反町」
「了解。任せてくださいよ、中野艦長」
「了解した、任せとけ、中野!」
中野さんがモニターを凝視しながらマイクを握る。
「三上、ボートの位置は」
「本艦到着まで50」
「よし反町、今だッ!」
〇F35コクピット
「未来!」
「了解! ASM3ロックオン、ファイヤーッ!」
江田三等空佐のF35から二発の空対艦ミサイルが発射され、白い煙をたなびかせ、「かみかぜ」を超え、真っすぐに周級に向かって行く。
自分たちの頭上を飛んで行くミサイルを、ボートから呆然と見送る周級乗組員。
ドオォオンッという激しい音がモニターからも伝わってくる。
ボルデメの精密な誘導により、一発目はデッキ前方上部、二発目はデッキ後方上部に見事に命中。爆発こそしなかったが、大きな穴が前後に2つ、見事に開いた。
続いて、反町二等空佐のF35からも2発のミサイルが艦尾の操舵部めがけて飛んで行き、こちらは轟音と共に大きな水しぶきを上げて命中、爆発した。
中野艦長はブリッジのモニターを注視したまま動かない。
三上さんから報告が上がる。
「ゴムボートから発砲!」
「三上っ!」
「ご心配なく、ハッチは既に閉めています!」
そして中野艦長が時計を見て呟く。
「そろそろだ」
その時、ブリッジのモニターに、突然機銃掃射の音が響き、周級のブリッジに無数の穴が開く!
続いて二機のヘリがモニターに映り、ボートの頭上でホバリングを行う。その風圧でひっくり返りそうなくらい揺れるボート。
そのボートに向かって、すべての銃器を海中に投棄するようヘリから警告があった。警告に従わない場合は、直ちに掃射すると。
そして、機首の機銃がウィーンと音を立てて、ボートに狙いを定めた。
呆気に取られている乗組員たちに、
「ジョージワシントンからの援軍だ」
と中野艦長が静かに知らせた。
その時、ソナー手の水田さんから報告が上がる。
「本艦右舷、第7艦隊ミネソタ、浮上します!」
〇第7艦隊所属 原子力潜水艦ミネソタ艦内
20名の周級への突入部隊を前に訓示するミネソタ艦長。
「海上自衛隊特殊部隊の諸君に申し上げる。周級2番艦は我々海兵隊が、抵抗する気も起きないほど完璧に制圧するが、もし危険な状況になったら、撃たれる前に撃て」
「周級艦内進入後は、海兵隊2名、特殊部隊2名の計4名一組となって行動する。チームゴールドはブリッジ、グリーンとレッドは艦首、ブルーとイエローは艦尾を制圧!」
「了解!」
浮上するや否や、ミネソタから海兵隊と海自特殊部隊を乗せた4隻のボートが周級に向かう。両舷に2隻ずつ展開し、上空でホバーする攻撃ヘリの護衛を受けて、周級に取り付いた。
空自のF35も周辺を警戒するように、旋回を繰り返す。
「かみかぜ」からも、大泉さん、若井さん、オレとちく、そして特調の2名に加えて、5名の護衛が2隻のボートに分乗して周級に向かった。
●周級2番艦 艦内
第7艦隊からの指示に基づき、周級のハッチが開き、両手を挙げた艦長が出てくる。
その艦長を先頭に、まず海兵隊10人が、続いて海自特殊部隊10人が艦内へ滑るように降りていく。
4名一組、全部で5組のチームが、ブリッジ、機関室、魚雷室、船室、そしてソナー室の各部を次々と制圧。
その報告を受け、オレたちも大泉さんを先頭に周級に乗り込み、真っすぐに艦首のソナー室に向かった。そこには以前大泉さんが以前話していたカプセルがあった。
●周級2番艦 艦首ソナー室
「かける、大泉だ。今周級のソナー室に着いた。ドローンはどうだ!」
「ボルデメかけるです。ドローン8機、最終目的地に到達! 残りはまだ移動中です! だんだん大きな水脈に入って行きます!」
かけるの報告を聞いて、頼むぞ言わんばかりに、作業に取り掛かろうとしゃがんだ特調の人の肩を、掴む。
特調の一人が慎重にカプセルの蓋を外すと、中には神経に電極を繋がれ、人口冬眠状態の3匹の猫がいた。
ちくがふーっと唸る。
若井さんが歯ぎしりをし、
大泉さんはぎゅうっと音が聞こえそうなくらいこぶしを握る。
「大丈夫だよ、ちく、必ず助ける!」
オレはちくの怒りを抑えるように、何度も背中をなでた。
医療を担当するもう一人の特調の人が、繋がれている8本の電極の一本を外そうとしたとき、ちくがにゃん、と短く鳴いた。
「赤が最初、だそうです」
「順番があるのか」
と大泉さんがオレを振り向いた時、カランカラン、という音とともに、足元に何かが転がってきた。
何だろうと、オレが足元を見ようとした時、若井さんが、
「伏せろッ!」
と叫びながら後ろに蹴っ飛ばし、大泉さんがオレを押し倒すように覆いかぶさってきた!
次の瞬間、
ソナー室は、ドォオンッという物凄い爆音と光に包まれた。
特調の人がカプセルに覆いかぶさり、オレがちくに、大泉さんがオレに、若井さんが大泉さんに覆いかぶさっていた。
後で聞いたら、スタングレネードという閃光手榴弾だったらしい。国の機密プロジェクトであるプロジェクト・コンヤイが日本の手に渡ってしまうことを恐れた乗組員が咄嗟に投げたのだ。
オレは若井さんと大泉さんのおかげで目は大丈夫だったが、耳が使い物にならなくなった。いや音は聞こえるのだ。ずっとキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンと言ってるし。
ただみんなが何をしゃべっているのかが全く聞き取れなくなってしまった。
大泉さんがオレに向かって何かしゃべっている。多分、八瀬君大丈夫か、とか、そんな感じだろう。オレは大丈夫ですと言ってから、耳を指さして、全く聞こえません、と言った。
それを見て大泉さんが無線機で誰かと何かを喋っている。オレは、
「ちく、ちくは大丈夫?」
と聞いたら、にゃあんと口が動いていた。見た感じからしても、大丈夫、と言ったんだと思う。
ん、待てよ。耳が聞こえないってことは・・・ちくの翻訳ができないってことじゃないか! こりゃマズイ! 電極を抜く順番を伝えられない!
・・・だから後は全部、ハナちゃんから聞いた話だ。
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
大泉さんは無線で、「かみかぜ」の医療チームに連絡してくれた。ハナちゃんも行くと言ったらしいのだけど、さすがに中野艦長も大泉さんも首を縦に振らなかった。そしたら、
「だって、ちくの通訳がいるでしょ?」
としれっと言ったそうだ。
「健太郎の耳が治るのを待ってたら、コンヤイの猫ちゃんたちが危ないじゃない」と。
大泉さんは、
「ハナさん、ハナさんもちくわちゃんが何を喋ってるかわかるんですか!」
「えぇ、わかりますよ、ずっと」
「なら、ならば、ボートでこちらに来るまでの時間も惜しい! コンヤイの猫を救うために、今、この無線機越しに通訳してください!」
と大泉さんは叫んだらしい。
ハナちゃんもちくの言葉がわかるとは・・・オレも知らなかったので、ちょっとびっくりした。
ハナちゃんがブリッジの無線機に向かって、
「ちく、次は何色を抜けばいい?」
と聞く。
ちくがにゃん、と鳴く声がスピーカーから伝わると、
「黄色だそうです」
と伝えた。
●周級2番艦 艦首ソナー室
それを聞いて、特調の人が三匹から慎重に黄色の電極ケーブルを抜く。
「ちく次は?」 にゃん 「緑です」
そうやって、8本全ての電極ケーブルが無事に抜かれた。特調がセットした心電図とか血圧計にも異常はない。
「ちく、3匹とも無事だよ!」
とオレが言ったら、ちくは少し安心したように3匹をぺろぺろ舐めだした。
大泉さんは、
「かける、大泉だ! 生体センサーの解除完了! ドローンはどうだ!」
〇大津ボルデメ管制室内
ドローン追跡用のモニターを見ていたかけるが叫ぶ。
「停止しました! ・・・24機すべて停止! 依然、全機とも現在地情報を発信し続けているので爆発したドローンはありません、ゼロです!」
隣に座るめぐるとぱちーんとハイタッチ。
どうだ、と言わんばかりにガッツポーズのめぐる。
〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ
よぉし!っと歓声が上がるブリッジ。
中野艦長も安堵の笑みを浮かべ、うんと頷く。
●周級2番艦 艦首ソナー室
その後、「かみかぜ」から来てくれた医療班の人がオレの応急処置をしてくれたが、キーンが無くなって、まともに音が聞こえるようになるまで30分以上掛かった。
3匹の猫たちは、ちくが丁寧に舐めた後、特調の医療班の人に応急処置を受けてから、カプセルごと「かみかぜ」に回収した。
「さて、と。あとは本丸、大使館だな」
大泉さんが、見てろよと言わんばかりにニヤリと微笑み、大空洞にいる特調チームに無線で連絡をした。
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